35 / 83
BLカテで乙女ゲーとか誰得
給料3ヶ月分
しおりを挟む
それからのアウクトルの行動は早かった。
速攻で風呂から上がり息つく暇もなく魔界へ帰還。
ジュメリ姉妹を家に転送。
タイムトライアルかと思うくらい、無駄のない動きだった。
彼の解析によると、あの召喚魔法は落とし穴のようなものらしい。
特定世界や、特定の条件を満たす人物を選んでいる訳ではなく、ただ穴を開けて付近の物を指定された場所に移動させているだけ。
アヴァール産の聖女は、瘴気に対する先天的な特殊体質もち。
召喚聖女は、元の世界と彼方で瘴気の濃度差がある状態に晒されることになる。そうなると瘴気の影響を全く受けない、若しくは過敏に反応のどちらかに傾いた。
これが彼の見立てだった。それなりに筋は通っている。
召喚魔法は、彼が降臨すると同時に魔眼を千里眼モードにして現存する資料を焼いたらしい。
人殺せそうな視線だと思ってたけど、もしかしてあの時魔術を使ってたのかもしれない。
ピリピリしていたのは、他に神経使っていて余裕がなかったのかも。
痒いところに手が届く感じで、色々並行して処理していたのに、要救助者が若い女の子に挟まれて楽しんでいるように見えたら不愉快だろう。
風呂で妙な真似をしてきたのは、捨て身の嫌がらせだったんだな。体張りすぎだろ。
=========
俺は魔界で宵闇の魔法使いを埋葬することにした。
彼方の世界は彼女に優しくなかった。
俺は魔界に来てよかったと思っている。
既に遺体だけど、ここが彼女にとっても優しい世界であって欲しい。
シューラが言っていたように、魔族には寿命がない。
自殺者は自分の遺体を残す死に方をしないので、魔界に墓地は存在しない。
周囲に相談した結果、カフェ近くの木の下に埋葬することになった。
「家の側に埋めるなんて、死体遺棄みたいで嫌だな」と思ってしまったが、勝手に見知らぬ森に埋める方が後々問題になる。
アウクトル立ち合いのもと<収納空間>から宵闇の魔法使いの体シリーズを取り出す。
黒髪、黒目の全裸の女性が出てきた。
アッーーーーー!
光が魔界の空を駆ける。
俺の店が消失した。
=========
宵闇の魔法使い・オニキスは、研究員として魔界で暮らすことになった。
「これは貴方がくれた名前…。この先、私はオニキスとして生きたい」
復活前の状態でも意識はあったようだ。
別に命名したつもりはないのだが、わかりやすいので良いと思う。
新しい環境で、新しい名前で生きるのはアリだ。
俺もそうすれば良かったかもしれないが、良い名前が思いつかないので結局はフォンスを名乗りそうだ。
「私は貴方の望む物を作りたい」
場所はオニキスが所属する研究室。
カフェを失った俺は、現在はコーヒーを職場に配達するサービスを仕事にしている。
今日のデリバリーはここで最後。
彼女の仕事は、新たな魔道具の作成だ。
具体的に何を作るか個人で案を出し、許可が出れば予算を使用できる。
テーマに困ったのか彼女は俺を頼ってきた。
「貴方の好きな物を教えて。私はそれを研究する」
「研究は時間がかかる。自分が興味をもてるものにした方が良い」
「私が興味あるのは、貴方が好きな物」
故郷では上から命じられた道具を作ってきたのかもしれないが、もう彼女は自由なのだ。
しかし長年従い続けてきたのなら、急に自分の意志で動けと言われても難しいのかもしれない。
「俺の好きなものと言ったら、水族館とか……?」
「それは何?」
以前アウクトルにしたのと同じ説明をした。
しかし今回はもっと深堀する。
「……水槽を作るためにアクリル素材が欲しい。アクリルというのは、ガラスよりも軽くて丈夫だが透過性に優れた素材のことだ。他に海水の運搬技術、水を循環させる技術も必要だな……」
求められるままに答えていたが、オニキスのポカンとした表情で我にかえった。
オタクの早口トークというヤツをしてしまったのかも。
いい歳をした男が、人を置き去りに自分の話したいことだけを一方的に語っていたなら恥ずかしい。
「ふふっ。やることがいっぱいね」
「そうなんだよ!」
羞恥で縮こまる俺に、彼女が微笑んだ。
よかった。あまり気にしていないようだ。
「やりがいがありそうだわ。ねえ、もう帰ってしまうの…?」
俺の背に、オニキスの寂しそうな声がかかる。
「居候の身だから、夕飯の時間に遅れるわけにはいかないんだ」
吹っ飛んだ店をアウクトルは再建してくれなかった。
俺は今アーヴォ家に居候している。
気儘な一人暮らしに慣れた俺に、他所のご家庭での生活は辛い。
=========
オニキスを魔界の住民として受け入れるにあたり、アウクトルは俺に条件を出した。
それを達成するまで、店はお預け。俺は彼の監視下での生活を強いられる。
・パドレにオーダーメイドの指輪を依頼する。
・予算は給料3ヶ月分。
・完成した指輪はアウクトルに捧げる。
これが彼の出した条件。
俺が魔界に移住したのは3ヶ月前。つまり奴は、俺から全財産巻き上げるつもりなのだ。
闇医者が命の価値として、患者から大金を巻き上げるのと同じだ。
何故指輪なのかはわからない。
現金の方が価値が高いと思うのだが、パドレに依頼するという所に何か意味があるのかもしれない。
今日も夕食後はデザインの相談が待っている。憂鬱だ。
速攻で風呂から上がり息つく暇もなく魔界へ帰還。
ジュメリ姉妹を家に転送。
タイムトライアルかと思うくらい、無駄のない動きだった。
彼の解析によると、あの召喚魔法は落とし穴のようなものらしい。
特定世界や、特定の条件を満たす人物を選んでいる訳ではなく、ただ穴を開けて付近の物を指定された場所に移動させているだけ。
アヴァール産の聖女は、瘴気に対する先天的な特殊体質もち。
召喚聖女は、元の世界と彼方で瘴気の濃度差がある状態に晒されることになる。そうなると瘴気の影響を全く受けない、若しくは過敏に反応のどちらかに傾いた。
これが彼の見立てだった。それなりに筋は通っている。
召喚魔法は、彼が降臨すると同時に魔眼を千里眼モードにして現存する資料を焼いたらしい。
人殺せそうな視線だと思ってたけど、もしかしてあの時魔術を使ってたのかもしれない。
ピリピリしていたのは、他に神経使っていて余裕がなかったのかも。
痒いところに手が届く感じで、色々並行して処理していたのに、要救助者が若い女の子に挟まれて楽しんでいるように見えたら不愉快だろう。
風呂で妙な真似をしてきたのは、捨て身の嫌がらせだったんだな。体張りすぎだろ。
=========
俺は魔界で宵闇の魔法使いを埋葬することにした。
彼方の世界は彼女に優しくなかった。
俺は魔界に来てよかったと思っている。
既に遺体だけど、ここが彼女にとっても優しい世界であって欲しい。
シューラが言っていたように、魔族には寿命がない。
自殺者は自分の遺体を残す死に方をしないので、魔界に墓地は存在しない。
周囲に相談した結果、カフェ近くの木の下に埋葬することになった。
「家の側に埋めるなんて、死体遺棄みたいで嫌だな」と思ってしまったが、勝手に見知らぬ森に埋める方が後々問題になる。
アウクトル立ち合いのもと<収納空間>から宵闇の魔法使いの体シリーズを取り出す。
黒髪、黒目の全裸の女性が出てきた。
アッーーーーー!
光が魔界の空を駆ける。
俺の店が消失した。
=========
宵闇の魔法使い・オニキスは、研究員として魔界で暮らすことになった。
「これは貴方がくれた名前…。この先、私はオニキスとして生きたい」
復活前の状態でも意識はあったようだ。
別に命名したつもりはないのだが、わかりやすいので良いと思う。
新しい環境で、新しい名前で生きるのはアリだ。
俺もそうすれば良かったかもしれないが、良い名前が思いつかないので結局はフォンスを名乗りそうだ。
「私は貴方の望む物を作りたい」
場所はオニキスが所属する研究室。
カフェを失った俺は、現在はコーヒーを職場に配達するサービスを仕事にしている。
今日のデリバリーはここで最後。
彼女の仕事は、新たな魔道具の作成だ。
具体的に何を作るか個人で案を出し、許可が出れば予算を使用できる。
テーマに困ったのか彼女は俺を頼ってきた。
「貴方の好きな物を教えて。私はそれを研究する」
「研究は時間がかかる。自分が興味をもてるものにした方が良い」
「私が興味あるのは、貴方が好きな物」
故郷では上から命じられた道具を作ってきたのかもしれないが、もう彼女は自由なのだ。
しかし長年従い続けてきたのなら、急に自分の意志で動けと言われても難しいのかもしれない。
「俺の好きなものと言ったら、水族館とか……?」
「それは何?」
以前アウクトルにしたのと同じ説明をした。
しかし今回はもっと深堀する。
「……水槽を作るためにアクリル素材が欲しい。アクリルというのは、ガラスよりも軽くて丈夫だが透過性に優れた素材のことだ。他に海水の運搬技術、水を循環させる技術も必要だな……」
求められるままに答えていたが、オニキスのポカンとした表情で我にかえった。
オタクの早口トークというヤツをしてしまったのかも。
いい歳をした男が、人を置き去りに自分の話したいことだけを一方的に語っていたなら恥ずかしい。
「ふふっ。やることがいっぱいね」
「そうなんだよ!」
羞恥で縮こまる俺に、彼女が微笑んだ。
よかった。あまり気にしていないようだ。
「やりがいがありそうだわ。ねえ、もう帰ってしまうの…?」
俺の背に、オニキスの寂しそうな声がかかる。
「居候の身だから、夕飯の時間に遅れるわけにはいかないんだ」
吹っ飛んだ店をアウクトルは再建してくれなかった。
俺は今アーヴォ家に居候している。
気儘な一人暮らしに慣れた俺に、他所のご家庭での生活は辛い。
=========
オニキスを魔界の住民として受け入れるにあたり、アウクトルは俺に条件を出した。
それを達成するまで、店はお預け。俺は彼の監視下での生活を強いられる。
・パドレにオーダーメイドの指輪を依頼する。
・予算は給料3ヶ月分。
・完成した指輪はアウクトルに捧げる。
これが彼の出した条件。
俺が魔界に移住したのは3ヶ月前。つまり奴は、俺から全財産巻き上げるつもりなのだ。
闇医者が命の価値として、患者から大金を巻き上げるのと同じだ。
何故指輪なのかはわからない。
現金の方が価値が高いと思うのだが、パドレに依頼するという所に何か意味があるのかもしれない。
今日も夕食後はデザインの相談が待っている。憂鬱だ。
11
お気に入りに追加
47
あなたにおすすめの小説
悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
▼毎日18時投稿予定
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。
小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。
そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。
先輩×後輩
攻略キャラ×当て馬キャラ
総受けではありません。
嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。
ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。
だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。
え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。
でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!!
……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。
本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。
こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。
俺以外美形なバンドメンバー、なぜか全員俺のことが好き
toki
BL
美形揃いのバンドメンバーの中で唯一平凡な主人公・神崎。しかし突然メンバー全員から告白されてしまった!
※美形×平凡、総受けものです。激重美形バンドマン3人に平凡くんが愛されまくるお話。
pixiv/ムーンライトノベルズでも同タイトルで投稿しています。
もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿
感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_
Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109
素敵な表紙お借りしました!
https://www.pixiv.net/artworks/100148872
嫁側男子になんかなりたくない! 絶対に女性のお嫁さんを貰ってみせる!!
棚から現ナマ
BL
リュールが転生した世界は女性が少なく男性同士の結婚が当たりまえ。そのうえ全ての人間には魔力があり、魔力量が少ないと嫁側男子にされてしまう。10歳の誕生日に魔力検査をすると魔力量はレベル3。滅茶苦茶少ない! このままでは嫁側男子にされてしまう。家出してでも嫁側男子になんかなりたくない。それなのにリュールは公爵家の息子だから第2王子のお茶会に婚約者候補として呼ばれてしまう……どうする俺! 魔力量が少ないけど女性と結婚したいと頑張るリュールと、リュールが好きすぎて自分の婚約者にどうしてもしたい第1王子と第2王子のお話。頑張って長編予定。他にも投稿しています。
突然異世界転移させられたと思ったら騎士に拾われて執事にされて愛されています
ブラフ
BL
学校からの帰宅中、突然マンホールが光って知らない場所にいた神田伊織は森の中を彷徨っていた
魔獣に襲われ通りかかった騎士に助けてもらったところ、なぜだか騎士にいたく気に入られて屋敷に連れて帰られて執事となった。
そこまではよかったがなぜだか騎士に別の意味で気に入られていたのだった。
だがその騎士にも秘密があった―――。
その秘密を知り、伊織はどう決断していくのか。
もう人気者とは付き合っていられません
花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。
モテるのは当然だ。でも――。
『たまには二人だけで過ごしたい』
そう願うのは、贅沢なのだろうか。
いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。
「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。
ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。
生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。
※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる