魔王君と俺 〜婚活から逃げて異世界へ行ったら、初日からヤバいのに誤解されてゴールインした件〜

一一(カズイチ)

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BLカテで乙女ゲーとか誰得

世界は嫉妬の炎に包まれた

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 その日人類は思い出した。
 変わり映えのない日々は、永遠ではないという事を…
 平和など一瞬で崩れ去るものだという事を……




 麗かな午後。
 雲ひとつない快晴。
 市場は人で賑わい、道では子供が駆け回り遊ぶ。
 多少瘴気の影響はあれど、人々の生活を苦しめるほどではない。精々一部の日用品が値上げしたくらい。

 前兆は一瞬、風が止まった程度のこと。

 次の瞬間には仄かに光輝く大結界の側に、無数の雷が降り注いだ。

 国土全てに衝撃が走る。

 強制的に跪かされるような、強く長い揺れ。

 顔を上げれば、黒く塗りつぶされた空に大きな魔法陣が浮かんでいた。

 =========

 アヴァール歴1999年、7月。空から恐怖の大魔王が降りてきた。

 まず彼は王城を破壊した。
 子供が砂場でお城を壊すようだった。屋根を吹き飛ばし、目的の人物が見つけられなければフロアごと吹き飛ばす。
 アウクトルに同行を許されたシェリはその様を呆然と見ていた。
 彼女は卑劣な輩に自らも鉄槌を下す気満々だったのだが、巣を壊された蟻のように逃げ惑う人々の姿に、怒りのボルテージがどんどん萎んだ。
 シューラとフォンスが現場に駆けつけた時、城は城址になっていた。

「お前たち。無事だな」

 疑問形ではなく確認形。そんな形ないって? 細かいことはいいんだよ。

 俺の姿を見たアウクトルが、一瞬固まった。

「…何だその格好は?」

 ヤベ。女装したままだった。

「ええと! リリーは、私の護衛になるために女装してくれたのよ! 色々と気を遣ってくれての事よ!」

 慌ててシューラがフォローしてくれた。女装癖の謗りを免れることができた。
 ずっとリリー呼びしていたので、彼女の中で俺はリリーという名前で固定されてしまった。
 うっかりカフェでリリー呼びされたら妙な誤解をされそうなので、魔界に戻る前に矯正したい。

「……シューラの側にいるために女装したのか」
「そう! そうなの! ずっとリリーと一緒だったから、私は無事よ!」
「随分親しくなったのだな」
「!? それって……もしかして、嫉妬?」

 シューラの目が輝く。恐る恐る、胸に小さな期待を籠めて彼女は問いかけた。

「嫉妬? これが? 何故?」

 思いもしなかった指摘に、アウクトルは瞬きをした。
 初めて口にする食べ物を味わうかのような彼の様子に、シューラの中で期待が高まる。
 思わず口元が緩んでしまう。

「そっ、その理由は自分で考えて欲しいわ! ちゃんと考えてよね!」

 桃色な感じのやり取りに、俺は「彼女は腐女子を卒業したのかな」と考えた。

 シューラとのやり取りの後、アウクトルが俺をロックオンした。

「リリーとは誰だ?」
「え? 女装時の偽名だが」

 何言ってんだコイツ。

「リリーとお前はどんな関係なんだ?」
「は?? だから偽名だ」

 訳がわからん。

「その名の由来になった人物がいるのだろう? その者の名を使うくらいだ。よほど縁深いのだろう。その者とお前の関係を言え」

 おいおいおい。凄いイチャモンのつけ方だ。
 敢えて言うなら、城下でお店を持っているエリーさんとマリーさんだ。関係? 俺が看板を見かけただけ。

「……完全創作だ。モデルはいない」
「何もないところから名は浮かばぬ。お前の脳裏に過ぎった人物を言え」
「……」

 くどい。
 コイツどんだけしつこいんだ。何をそんなにこだわってるんだ。
 謎の詰問を受ける俺。
 空の色が戻り、攻撃が止んだ事に気づいた人々が、巣穴から這い出すように姿を現した。

 =========

 更地になった城は見通しが良い。
 部屋に閉じ込められていたメアリーがこちらへ駆け寄ってきた。
 彼女の隣には俺と同年代の男性がいる。おそらく彼が第一王子なのだろう。

「フォンス様!」

 ちゃんと名乗ったので、彼女はあの恥ずかしい呼び名を封印してくれた。
 ヒヤリとアウクトルから冷気を感じた。
 この世界にきた時から苛ついた様子だったが、今は視線で人を殺せそうなレベルになっている。

「これは一体……」

 胸元に手を当てて、困惑した様子のメアリー。
 君そのポーズ好きだね。ルーティンポーズなの?

「迎えが来た。問題は解消しておくから、二人は良い国を築いてくれ」

 アウクトルの転移頼みで、とっととカラダ回収して帰ろう。そうしよう。
 俺の勘が告げる。一刻も早くこの場を去るべきだと。

「……ついに私達の道が分たれる時が来てしまったのですね」

 悲壮感を滲ませるメアリー。その彼女を支える第一王子。名前は知らない。

「覚悟はしておりました。泡沫の夢でございましたが、貴方と過ごした日々は私の宝です……」

 演劇モードに入ったらしい。
 涙をハラハラ零しながら俺を見つめる。

「私は王族として、この国を導かねばなりません。貴方がくれた思い出を、私は生涯忘れません」

 何かしたっけ?
 半端に利用した自覚はあるけど。

「熱い眼差し」

 ん?

「私を抱きしめた力強い腕」

 え?

「夜に私の部屋へ忍んでいらした時の事」

 ファ!?


 身に覚えのない暴露が続く。
 少女達の咎めるような視線が突き刺さった。汚物を見る目だ。
 俺は硬直して何も弁解しない。というかできない。
 図星を刺されたからではない。
 会話するだけの余裕がないからだ。

 理由は背後のアウクトル。
 彼は世界を破壊する、怒りの波動を放っていた。
 全ての生命の存在を許さないとばかりに、怒涛の勢いで全方位に噴出する魔力。
 俺に非難の眼差しを向ける連中が呑気に生存しているのは、俺が自己弁護を放棄して君たちを守っているからだ!
 俺が押し負けたら全員死ぬ!!

「二人で過ごしたあの夜を縁に、私は生きていきます」

 あ。

 限界。

 爆発的に膨れ上がったエネルギー。
 キャパオーバーを悟った俺は、反射的にエネルギーの矛先を5つの神殿に向けた。

 5本の巨大な光の柱が天まで伸びる。

 大結界が崩壊した。
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