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BLカテで乙女ゲーとか誰得

オラオラオラオラオラオラ!!

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「自分を救えるのは自分だけよ!」

 1HIt!

「その承認欲求手放さないと、幸せになんて一生なれないわ!」

 2Hit!

「そんな考えの人間に上に立たれたら迷惑よ!」

 3Hit!

「一体何歳よ! 自分で考えなさい!」

 4Hit!


「全く不愉快だわ!」

 呆然とするツヴァイを置き去りにして、シューラは踵を返した。
 カンカンカンカーン!と、俺の脳内で試合終了のコングが鳴り響く。

 何してるんですか聖女様。

 =========

 攻略対象者(仮)達との顔合わせという名のお茶会終えた後、俺たちはツヴァイに図書室へ案内してもらった。

 ゲームで例えると、共通イベントから個別ルートへ移った。
 シューラが「この国のことをもっと知りたい」と言ったら、二つ返事で引き受けてくれた。
 聖女様々だ。その権威、使えるうちに使い倒そう。


「ちょっとよろしいかしら」

 伺いを立てているようで、許される返事はYES or はい。
 女性特有の圧を滲ませて、図書館の入り口で侍女Aが俺を呼び止めた。
 仕方なしに俺は、束の間シューラと別行動することにした。

 今後のことを考えると、四六時中付きっきりというのも無理な話。心配だが、ここはシューラを信じてみよう。
 俺が案じているのは、彼女の身の安全ではない。
 彼女は魔族なので、基本的な身体スペックが人間に比べ遥かに強靭だ。
 俺が心配しているのは、彼女がやり過ぎてしまう可能性。
 今まで人間と一緒に生活してこなかった彼女は、対人間への手加減を知らない。
 聖女陥落を目論む男どもに強引に迫られた場合、うっかり半殺しにしてしまう可能性99%。
 これで魔族バレしたら色々とパーになる。

 =========

「第一神殿への道中、騒動を起こします。混乱に紛れて聖女をヴォイシンへ連れていきなさい」

 ヴォイシンって何処だ。

「何故?」
「平民が考えることではありません。これは高貴な御方の命令です」
「聖女が浄化しなければ、国が危ないんじゃないのか?」
「流れの傭兵が気にする事ではありません。貴方の仕事はヴォイシンで終わり。言う通りにすれば、一生働かなくても食べていけるだけの報酬が得られます」

 質問は受け付けない、とばかりに言い捨てて侍女Aは立ち去った。

 部屋にいた侍女軍団に彼女はいなかった。つまり、彼女は聖女とは別の「高貴な御方」に仕えているのだろう。
 俺は彼女の後をつける事なく、図書館へ戻った。
 実は入城してからずっと、城の全域に魔力ソナーを展開している。この後どこに向かい、誰と会うのか。彼女の足跡は俺の掌の上だ。

 =========

 遅れて図書館に入った俺が目にしたのは、ブチギレ聖女だった。
 腰に手を当てて仁王立ちの修羅ーー否、シューラ。彼女は床に座り込んだツヴァイを見下ろしている。
 シューラはよく通る声をしている。ここが図書館というのも相まって、彼女の発言は部屋中に響き渡った。
 会話の詳細はわからなくても、ツヴァイが劣等感コンプレックスの持ち主であることは居合わせた人間全員に周知された。

 聖女様の正論パンチで彼のライフはもうゼロだ。

「あの人、出会って数時間の私に自分語りしてきたのよ。何を期待してたのかしら」

 弱みを見せることで、シューラの同情をかおうとしたのかな。実際にかったのは怒りだったけど。

「甘ったれた自己憐憫に思わず手が出そうになったわ」

 暴力を自制することはできたが、怒りは自制できなかったんだな。一線を踏みとどまった彼女の理性に感謝しよう。

「誰もアンタの不幸自慢になんか興味ないっての」
「……そうだな」

 ツヴァイの悩みは自分の魔力の低さだった。
 この国の人間は、身分問わず魔力を持っている。
 剣と魔法の国と称したが、正確には魔道具の国。魔道具は起動時に使用者本人の魔力を消費する。魔力が少ないというのは、日常生活において選択の幅が狭くなるという事。努力ではどうにもできない、生まれながらの落ちこぼれ扱いらしい。
 魔力の低い者は、色素が薄いのだとか。

「公爵家の人も銀髪じゃない、って言ったら何て返したと思う? 『彼は唯一の跡取り。僕は次男スペア立場が違う』よ! 何言われても自分が一番可哀想だと思ってるんだから! 鬱陶しいったらないわ!」
「……」

 これが乙女ゲームなら、あれはイベントだ。
 ツヴァイはチュートリアル的攻略対象で、彼に寄り添う発言したらクリアな難易度イージールートだったのだ。
 その反対が王族より色素が濃いコンク。きっと複雑な生まれで、攻略難易度も跳ね上がるのだろう。

 何方にせよシューラはヒロインムーブができない子だったので、全ルートバッドエンド確定だ。

 =========

「彼に啖呵切ってたが、あれは何なんだ? 涙の誰それとか」
「そこから聞いてたの!? あれはその、…ごめんなさい。でも、全部は言ってないわ」

 魔族であることを隠すことを約束したが、つい口が滑ったのだろう。

「涙のフェアメヒトニス。政治を司る四天王にして、私のお爺様よ」

 四天王はそれぞれ役割を分けて国の運営を行なっているらしい。

「涙脆いのか?」

 情に厚い的な。

「違うわ。四天王は魔――我が君が、その玉体を触媒に作り出した存在なの」

 単体生殖?
 まあ、魔術で自分の分体創ってるから可能なんだろう。

「お爺様は彼の御方の涙から生まれたの。残りは血、髪、爪ね」

 体液2人、表皮2人。
 格差が酷い。爪は1/20の存在だが、髪は約1/100000だ。
 しかし牙ならまだしも爪って微妙にダサくないか?
 あとアウクトルが泣くとか想像できない。

 俺は権威づけの為の創作を疑ったが、シューラは誇らしげだ。
 魔王教信者にとっては、体のパーツから直接生命を得るのは名誉な事なのだろう。

「凄いな」
「ええ! 私は、お爺様――ひいては我が君に恥じない自分でありたいの!」
「頑張ってくれ」

 他所様の教義に外野が茶々を入れるのはマナー違反。俺は神妙に頷いた。

 =========

「店ちょ――リリーは、いつもアウクトルとどんな話をしているの?」

 部屋で夕食を終えた後、シューラがもじもじと口を開いた。
 恋バナ?
 女装しているけど、俺は男なんだが。

 そわそわして俺の答えを待つシューラの姿に、幼馴染のヴォイソスを思い出した。
 世界的な富豪の一人娘で跡取り。
 彼女は世界各地で家を買っては俺に贈ろうとしてきた。プレゼントがデカすぎるし、家は管理に金がかかる。維持できないから、と断ると今度は所有するホテルの最上階を「いつでもお立ち寄りください」とキープするようになった。
 金持ちのスケールは理解し難かったが、折角の気遣いを無碍にするのは気がひけたので、時々宿泊させてもらった。

 彼女の悪癖は唐突な女子会開催だ。
 商家の娘でありながら、コミュニケーション力がちょっとアレだった。
 急に好きな異性のタイプとか、結婚観とか、ライフプランを語り始めるのだ。あと、ホテルの同じ部屋に泊まろうとしたり、目の前で着替えようとする。
 俺は身も心も男なんだけど、扱いが完全に女友達だった。


 誘拐されて、心許せる話し相手は28歳のおっさん一人。
 少女の孤独を紛らわすため、俺はお喋りに付き合うことにした。

「会話はあまりしないな」
「でも毎日店に行ってるんでしょ? 何してるの?」
「俺は店の作業、彼は黙って寛いでいる事が多いな。そもそもアウクトルが店に来るのは、魔力を解放してリラックスするためだ。俺は放出された魔力を中和して、周囲への影響を防ぐ事ができるからな」
「そ、それだけ?」
「他に何がある?」
「えっと。その……」

 歯切れが悪い。
 そう言えば、店に来た時も同じような態度だったな。

「この状況だ。遠慮しないでくれ」

 ここは俺から踏み込むべきか。

「アウクトルの事が好きなのか?」
「な!? それはっ!」

 デリカシーがないと避難されるかもしれないが、彼女のペースに合わせていたら話が進まない。
 俺はこの後用事がある。
 俺の言葉にシューラは真っ赤になり、手をブンブン振った。
 何だ違うのか。先ほどからアウクトルについて探りを入れてくるので、てっきりそうなのかと思った。
 彼のことが好きではないのに、俺たちがどう過ごしているか知りたがる……

「もしかして、俺とアウクトルが恋人同士だと思っているのか?」
「そうなの!!??」

 めっちゃ食いついてきた。

 目を爛々とさせ、身を乗り出したシューラ。
 俺は彼女のような人種を何と呼ぶか知っている。

 彼女は腐女子だ。

 間違いない。
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