魔王君と俺 〜婚活から逃げて異世界へ行ったら、初日からヤバいのに誤解されてゴールインした件〜

一一(カズイチ)

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BLカテで乙女ゲーとか誰得

いけないボーダーライン(アウクトルサイド)

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「その身がこの魔界にあるならば、どこであろうと俺なら感知できる。だができぬ。この事実から導かれるのは、二人はこの世界ではない別の次元に居ると言う事だ」

 シューラとフォンスの二人が消えた場所で、アウクトルは空間を撫でた。

「……足りぬな」

 瞬く間に例の魔法陣が再現されたが、中心部分から地面にかけて――丁度シューラの背格好に一致する部分が欠けている。

「この陣は魔界のものではない。陣が完全に再現できれば、彼奴らの行方を探し当てる大きな手がかりになるのだが……」

 アウクトルは、頭を垂れて跪くシェリを見下ろした。
 今の彼女はクラスメイトではなく、魔王の忠実な僕だ。

「シェリ。完全体の魔法陣を目撃したのはお前だけだ。その記憶を探り陣を完成させよ」
「御心のままに」

 一瞬見ただけの魔法陣の再現。しかも魔界由来ではない構成となれば推測による穴埋めは不可能。絶望すら感じる困難な道だが、シューラの命がかかっているとなれば泣き言なんて言っていられない。

「全身全霊をもって、必ずや成し遂げてみせます」
「良い返事だ。その心意気を買い、お前に一任したいところだが…今は時間が惜しい」

 シェリの返事に笑みを浮かべたアウクトルだが、その眼差しは厳しい。
 一刻を争う状況だ、悠長に取り組む猶予はない。
 こうして会話している今も、シューラがどんな扱いを受けているのか。既に最悪な事態になっているのではないか。シェリを支配しようとする悍ましい想像を、精神力で打ち払う。

「俺も他の手段で追跡を試みるが、どれも時間がかかりそうだ……。最短ルートは魔法陣の解析なのだが…」

 珍しくアウクトルの歯切れが悪い。

「アウクトル様。私への配慮でしたら無用にございます」

 魔界で最も魔術に長けた魔王。既に彼ならこの状況を打開する手段に思い至っているに違いない。
 だがそれを口にしないのは、シェリに気を遣っての事だろう。しかし彼女にも矜持がある。この状況で我が身可愛さに手段を選ぶ気はない。自分にできることなら何だってする覚悟がある。

「……1000年前、捕虜の尋問に使用していた魔術だ。被術者の心身への負担が大きい」
「構いません。若輩ながら私もジュメリ家の者、どんな苦痛があろうと耐えてみせます」
「お前の脳に干渉し、記憶を強制的に投影する魔術だ。どの記憶を抽出するか、大まかな指定しかできぬ。他人に頭を掻き回され、要らぬ記憶まで覗かれる事になる」
「それは――」

 現在では重罪人にのみ施行される禁術だ。

「お前は大事な俺の臣下だ。負担を強いるのは本意では無い」

 迷いがあるのだろう。魔王の命にはどの魔族も絶対服従だというのに、彼はシェリに選択肢を与えようとしている。

「っいいえ! 構いません! そのお言葉だけで私は充分です」
「良い覚悟だ」

 シェリの目に宿る強い光に、アウクトルは満足そうに頷いた。

「アウクトル様、私のことなら大丈夫です。姉の命には代えられません」
「安心せよ。フォンスが側にいるなら、シューラの身の安全は保証されよう」
「はいっ―― え??」
「30分だ。それ以上は待てぬ。間に合わなければ記憶魔術を施行する。励めよ」
「え? え?」
 後半おかしくなかったか。
 混乱するシェリを残し、アウクトルは姿を消した。

 二人は確実に無事だが、30分以内に思い出さないとシェリは禁術を行使される。話が矛盾しているというか、整合性がないと思うのは気のせいでは無いはずだ。
 30分なんて、基本の魔法陣を描くのもギリギリな時間設定。
 大事な臣下とは何なのか。
 しかし運命のカウントダウンはもう始まっている。
 矮小な自分では思い至らぬ深いお考えがあるのだろう、釈然としない思いを抱えながら慌ててシェリは作業に取り掛かった。
 乙女の尊厳がかかっている。

 =========

 シェリにタイムリミットを告げ、姿を消したアウクトル。しかし彼は店内から一歩も動いていない。
 シェリがアウクトルの姿を見失ったのは、彼が時の狭間にその身を移したからだ。
 アウクトルの視線の先には、シューラの腕を掴んだフォンスが居る。
 何故このシーンなのかというと、イヤーカフが発動したのがこの瞬間だからだ。

 フォンスに渡したイヤーカフには発動条件がある。
 常時発動をGPSだけにしたのは、アウクトルなりのフォンスへの配慮だ。
 イヤーカフの音声の送信は「好き」「愛してる」などの好意を表す音声を感知すると作動、画像の送信はフォンスの半径80cm以内に生物が接近した際に作動するよう設定した。
 アウクトルにとって腕を伸ばせば届く距離はギルティなのだ。

 シューラの正面、魔法陣が完全に見える位置に移動しても撮影されていない部分は空白のままだ。

「俺もまだ精進が足りぬな」

 イヤーカフ1つからの撮影では限度がある。複数展開していれば画像を統合して、完全な再現が可能だったはずだ。
 双子の魂の繋がりや、フォンスに掛けた魔術を辿って索敵を行うが、次元を隔てているため途切れてしまう。魔術そのものは作動しているのだが、途中で通信が阻害されているような状態だ。

 アウクトルの目の届かぬ場所で、フォンスはシューラを守っているだろう。それはもう至近距離で、少女が傷付かぬよう手厚く保護しているに違いない。

「録画機能もつけよう」

 リアルタイムの通信だけではなく、通信阻害時に何が起こったか後から確認する手段も必要だ。
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