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ボーイ(28)・ミーツ・ボーイ(17)
武士の情けだ
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宿泊=自慰という謎の図式が成立した。
パドレ、メール夫妻は良い人たちだが、もうこの家に泊まるのは止めよう。
フレンチトーストを焼きながら俺は心に誓った。
朝食を食べた後は、昨日の提案通りアウクトルの転移魔術で移動。目的地ヴォルティまで一瞬だった。
俺の本気の走行でも1時間かかる距離なので、そこは有難い。
<晴れ男>スキルは異世界でも健在なようで、空は晴れ渡り爽やかな潮風が港町を吹き抜ける。
学校のある街は内陸なので、港町ヴォルティからは結構離れている。
公共交通機関では日帰りは不可能。
アウクトルは容易く転移を使用するが、本来転移は四天王レベルの魔族にしか使用できない上級魔術らしい。
普通の高校生がホイホイ行使できる術ではない。やはり彼を一般人とするのは無理がある。
「お前はどこか行きたい場所あるのか?」
「特に希望はないのだが…敢えて言うなら臨海公園で海を眺めたいと思っている」
初日も公園だったし、アウクトルは自然を見ながらぼーっとするのが好きなんだな。
その後いくつか候補を述べたが、どれも景色を楽しむスポットだ。俺の趣味じゃない。
「そうか。帰りは何時くらいが希望なんだ?」
「お前の所で朝食を食べるのだから、其方に泊まりでも構わん」
俺は構うわ。勝手に決めるな。
「メールさんの許可があるなら泊まっていけ」
門限なしで転移魔術で帰宅できるなら仕方ない。
それに別件で一度試したいことがあったので、丁度良いかもしれない。
「じゃあ12時に時計台の下で集合しよう。昼食は俺が奢ってやる」
「なんだと?」
「俺は朝市に用事がある。別行動をしよう」
「待て。それでは意味がない」
お互い行きたいところに効率よく行けば良いと思うのだが、意外にも彼は団体行動派のようだ。
旅行先でも友達と一緒に行動するのだろう。いや、どちらかというと人と一緒に旅行に行くなら、現地でも一緒に行動するのが普通なのか?
俺はプライベートは単独行動が多かったが、もしかして俺が例外なのかもしれない。
毎回幼馴染達が後から合流してきて文句を言っていたが、他人に歩調を合わせるのが面倒だったのだ。うん、俺が悪い。
「そうだな。俺が悪かった。優先順位をつけて一緒にまわろう」
=========
協調性を学んだ俺だが、他人に合わせて興味のないことをするのは辛い。
俺たちは今、公園のベンチで海を眺めている。
これ何が楽しいの?
海に落ちないよう柵が設けられ、そこから数メートルあけてベンチが設置されている。
等間隔で設置されているベンチは、カップルたちが使用している。俺たちのベンチを除いて。
俺には並んで座っているだけにしか見えないんだけど、彼らは何をしてるんだろうな。好きな人と一緒なら並んで座ってるだけで楽しいのかな。理解できない感覚だ。
「俺は景色よりも動きのあるものを見る方が好きなんだよな」
海も波があるといえばそうなんだが、少し物足りない。
「例えば何だ?」
「…水族館」
俺の故郷にはないが、異世界にはある。
動物園、水族館、科学館、博物館、美術館……異世界観察中に学術的施設を見る機会が何度かあったか、俺が一番好きなのは水族館だ。
「何だそれは?」
魔界には存在しないらしい。
「海洋生物を収集して飼育、研究、展示する施設だ。希少種の保護を兼ねた商業施設だ」
「…ほう。続けろ」
「視界に収まりきらないくらい大きな水槽を眺めるのが好きなんだ。中で泳いでいるのは何でも良い。色々な生物が広い水槽を自由に泳いでいる姿は、飽きる事なく何時間でも見ていられる」
「わかった。施設の設立には時間がかかるが、簡易的なものであれば今すぐ実現してみせよう」
言うなりアウクトルは立ち上がり、柵の方に歩いていく。
何をするのか分からないが、とりあえず俺も後に続く。
柵の外は海だ。
彼が手をかざした瞬間、海面が真っ二つに割れる。
剥き出しになった海底に彼は飛び降りた。
完全に投身自殺ムーブなのだが、綺麗に着地してスタスタ歩いている。仕方ないので俺もジャンプした。
ゴツゴツした海底をしばらく歩く。
「この辺で良いか」
アウクトルが指を振ると俺たちの立っている場所を除いて、割れていた海が元に戻る。
周囲360度が海に取り囲まれる。
別の魔術によって海の断面が沈静化して滑らかになる。更に僅かに発光することで海中の様子が視認し易くなる。
視界に収まりきらない巨大な水槽が広がった。
「凄い…」
「どうだ。気に入ったか?」
「嗚呼凄いな! 嬉しい! ありがとうアウクトル!」
破顔して礼を言う。
生で見る巨大水槽に俺のテンションはマックスだ。
こんなに興奮したのは<状態異常無効>が発現してから初めてのことかもしれない。
俺のテンションの高さに引いたのか、暫く固まっていたアウクトルだが起動を再開させると海底に魔術で石造りのベンチを作成した。
公園にあるような狭いベンチじゃなくて、パーソナルスペース充分な長椅子だ。
やっぱり彼もあの狭さは気になっていたようだ。
俺が腰掛けると、彼も反対側に座った。
連続して魔術を使用したので疲れたのか、そのまま体の向きを変え横になる。
彼の頭が俺の太腿に乗った。
……俗に言う膝枕状態になってしまった。
男同士の膝枕。絵面がキツい。
これは俺の座った位置が原因だ。まさか彼が寝るとは思わなかったので、端から少し余裕をもたせて座ってしまった。
俺が端っこギリギリに座っていれば防げた悲劇。
アウクトルは自分の目測の誤りを訂正しにくいのか、俺の膝で目を閉じたままだ。
少しずれるか迷ったが、彼が無かった事にするなら俺も乗った方が良いだろう。恥ずかしいのは確実にアウクトルの方だからな。
俺は何も気付いていない風を装い、巨大水槽を堪能した。
頭部は体重の10%くらいの重さがあるらしいが、俺は<超回復>があるので足が痺れることはない。
パドレ、メール夫妻は良い人たちだが、もうこの家に泊まるのは止めよう。
フレンチトーストを焼きながら俺は心に誓った。
朝食を食べた後は、昨日の提案通りアウクトルの転移魔術で移動。目的地ヴォルティまで一瞬だった。
俺の本気の走行でも1時間かかる距離なので、そこは有難い。
<晴れ男>スキルは異世界でも健在なようで、空は晴れ渡り爽やかな潮風が港町を吹き抜ける。
学校のある街は内陸なので、港町ヴォルティからは結構離れている。
公共交通機関では日帰りは不可能。
アウクトルは容易く転移を使用するが、本来転移は四天王レベルの魔族にしか使用できない上級魔術らしい。
普通の高校生がホイホイ行使できる術ではない。やはり彼を一般人とするのは無理がある。
「お前はどこか行きたい場所あるのか?」
「特に希望はないのだが…敢えて言うなら臨海公園で海を眺めたいと思っている」
初日も公園だったし、アウクトルは自然を見ながらぼーっとするのが好きなんだな。
その後いくつか候補を述べたが、どれも景色を楽しむスポットだ。俺の趣味じゃない。
「そうか。帰りは何時くらいが希望なんだ?」
「お前の所で朝食を食べるのだから、其方に泊まりでも構わん」
俺は構うわ。勝手に決めるな。
「メールさんの許可があるなら泊まっていけ」
門限なしで転移魔術で帰宅できるなら仕方ない。
それに別件で一度試したいことがあったので、丁度良いかもしれない。
「じゃあ12時に時計台の下で集合しよう。昼食は俺が奢ってやる」
「なんだと?」
「俺は朝市に用事がある。別行動をしよう」
「待て。それでは意味がない」
お互い行きたいところに効率よく行けば良いと思うのだが、意外にも彼は団体行動派のようだ。
旅行先でも友達と一緒に行動するのだろう。いや、どちらかというと人と一緒に旅行に行くなら、現地でも一緒に行動するのが普通なのか?
俺はプライベートは単独行動が多かったが、もしかして俺が例外なのかもしれない。
毎回幼馴染達が後から合流してきて文句を言っていたが、他人に歩調を合わせるのが面倒だったのだ。うん、俺が悪い。
「そうだな。俺が悪かった。優先順位をつけて一緒にまわろう」
=========
協調性を学んだ俺だが、他人に合わせて興味のないことをするのは辛い。
俺たちは今、公園のベンチで海を眺めている。
これ何が楽しいの?
海に落ちないよう柵が設けられ、そこから数メートルあけてベンチが設置されている。
等間隔で設置されているベンチは、カップルたちが使用している。俺たちのベンチを除いて。
俺には並んで座っているだけにしか見えないんだけど、彼らは何をしてるんだろうな。好きな人と一緒なら並んで座ってるだけで楽しいのかな。理解できない感覚だ。
「俺は景色よりも動きのあるものを見る方が好きなんだよな」
海も波があるといえばそうなんだが、少し物足りない。
「例えば何だ?」
「…水族館」
俺の故郷にはないが、異世界にはある。
動物園、水族館、科学館、博物館、美術館……異世界観察中に学術的施設を見る機会が何度かあったか、俺が一番好きなのは水族館だ。
「何だそれは?」
魔界には存在しないらしい。
「海洋生物を収集して飼育、研究、展示する施設だ。希少種の保護を兼ねた商業施設だ」
「…ほう。続けろ」
「視界に収まりきらないくらい大きな水槽を眺めるのが好きなんだ。中で泳いでいるのは何でも良い。色々な生物が広い水槽を自由に泳いでいる姿は、飽きる事なく何時間でも見ていられる」
「わかった。施設の設立には時間がかかるが、簡易的なものであれば今すぐ実現してみせよう」
言うなりアウクトルは立ち上がり、柵の方に歩いていく。
何をするのか分からないが、とりあえず俺も後に続く。
柵の外は海だ。
彼が手をかざした瞬間、海面が真っ二つに割れる。
剥き出しになった海底に彼は飛び降りた。
完全に投身自殺ムーブなのだが、綺麗に着地してスタスタ歩いている。仕方ないので俺もジャンプした。
ゴツゴツした海底をしばらく歩く。
「この辺で良いか」
アウクトルが指を振ると俺たちの立っている場所を除いて、割れていた海が元に戻る。
周囲360度が海に取り囲まれる。
別の魔術によって海の断面が沈静化して滑らかになる。更に僅かに発光することで海中の様子が視認し易くなる。
視界に収まりきらない巨大な水槽が広がった。
「凄い…」
「どうだ。気に入ったか?」
「嗚呼凄いな! 嬉しい! ありがとうアウクトル!」
破顔して礼を言う。
生で見る巨大水槽に俺のテンションはマックスだ。
こんなに興奮したのは<状態異常無効>が発現してから初めてのことかもしれない。
俺のテンションの高さに引いたのか、暫く固まっていたアウクトルだが起動を再開させると海底に魔術で石造りのベンチを作成した。
公園にあるような狭いベンチじゃなくて、パーソナルスペース充分な長椅子だ。
やっぱり彼もあの狭さは気になっていたようだ。
俺が腰掛けると、彼も反対側に座った。
連続して魔術を使用したので疲れたのか、そのまま体の向きを変え横になる。
彼の頭が俺の太腿に乗った。
……俗に言う膝枕状態になってしまった。
男同士の膝枕。絵面がキツい。
これは俺の座った位置が原因だ。まさか彼が寝るとは思わなかったので、端から少し余裕をもたせて座ってしまった。
俺が端っこギリギリに座っていれば防げた悲劇。
アウクトルは自分の目測の誤りを訂正しにくいのか、俺の膝で目を閉じたままだ。
少しずれるか迷ったが、彼が無かった事にするなら俺も乗った方が良いだろう。恥ずかしいのは確実にアウクトルの方だからな。
俺は何も気付いていない風を装い、巨大水槽を堪能した。
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