魔王君と俺 〜婚活から逃げて異世界へ行ったら、初日からヤバいのに誤解されてゴールインした件〜

一一(カズイチ)

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ボーイ(28)・ミーツ・ボーイ(17)

完全に理解した(わかってない) ※

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「次左腕上げろ」

 俺の指示に従い、アウクトルが左腕を上げる。
 俺は皮膚を強く刺激しないよう力加減に注意を払いつつ素早く腕を洗い上げる。イメージするのは最強の自分、デイサービスで老人を手際よく入浴させるベテランヘルパーだ。

「次右腕」

 アウクトルの反応が鈍い。自分から言い出したくせに、今更後悔しているのか。
 俺は今、アウクトルと一緒に風呂に入っている。

 やんわりとお泊まりのお誘いを断ろうとしたが、アウクトルだけじゃなく帰宅したパドレが加勢した事で2回目のアーヴォ家宿泊が決定した。
 パドレは、初回のお泊まりで俺が作ったフレンチトーストが忘れられなかったらしい。
 リクエストにお応えして、明日の朝はバゲットで作った中まで卵液染み染みの半熟フレンチトーストだ。メタボなお腹を膨れさせて、ボタンが留められないようにしてやろう。

 何故体格の良い男二人が一緒に入浴するハメになったかというと、お風呂争いしたからだ。
 一番風呂は大黒柱のパドレ。アンカーはついでに風呂掃除を行いたいメール。
 二番、三番のどちらかが俺とアウクトル。
 後が支えてると思うと寛げない俺は、極力後の方に入りたい。本音を言うとアンカーになりたかったのだが、一応お客様なので却下された。
 アウクトルも似たようなタイプだったのか、お前が先に行け合戦を繰り広げた結果「もう一緒に入っちゃいなさい!」とメールにリビングを追い出された。


「体を洗ってやる」
「要らん」

 即答する。やんわり断ろうとしても失敗するのが目に見えているので、今後はハッキリ否と突きつける所存。

「時間短縮のために、まとめて入るのに他人の体洗ってたら余計な時間がかかるだろ」

 片方が湯船に浸かっている間に、もう片方が体を洗う。これを2セット行えば1人分の入浴時間で最終走者にバトンタッチできる。これならアンカー・メール選手もにっこり。

「別に母さんはそこまで時間を気にしていないと思うが」
「早いに越した事はない」

 どちらにせよ、人に体洗ってもらうメリットがないのでノーだ。

「…お前は魔界の風習に疎いと言っていただろう。加えて男の体への理解が薄い」
「俺が疎いのは性知識系統であって、人体の構造は結構詳しいぞ」

 何せ異世界の医学生物学を履修済みなのだ。
 性知識も性交渉の手順のような実践的なところが曖昧なだけで、性器の構造、妊娠のメカニズムや性病等学術的な知識は豊富な方だ。

「そうは思えん。…お前、ちゃんと洗えているのか?」

 おいおい失礼だろ。子供じゃないんだぞ。
 自分の体洗えない幼児扱い、もしくは不潔扱い。どちらにせよストレートな侮辱だ。

「ちゃんと洗えている。証明してやるから此方へ来い」

 いそいそと湯船から出てきたが、俺は怒っているんだからな。

 全裸のアウクトルを風呂用椅子に座らせる。
「椅子はひとつしかないんだが、何故俺を座らせたんだ?」
「俺がお前を洗うからに決まってるだろ」

 ちゃんと洗えることを証明するには、俺自身が洗ってみせなければ意味がない。
 とりあえず一通りやってやろうと、シャワーのお湯を頭からかけてシャンプーを手に取った。

「普通は背中を流すだけなんだが」
「俺がどう洗うか確認したいなら全部だ」
「全部か。期待して良いのだな」
「ああ、任せろ」

 挑発するような眼差しを向けられたが、労力的に大したことじゃない。ただ面倒臭いだけだ。

 手際よく頭を洗い終え、次は顔首肩背中。
 俺は頭を先に洗う派だ。
 顔は完全に嫌がらせ。泡ついたまま放置はかわいそうなので、顔は直ぐに一旦流した。
 腕も丁度終了したので前に回り込む。
 澱みなく行動していた俺だったが腹まで到達した時に固まった。

 この先どうすればいいんだ?
 足は何とかなるが、尻と陰部はどうやれば良いんだ?
 椅子に接触している部分は洗えない。
 立ってもらえば良いのか?

「どうした? まだ残っているぞ」

 こいつ分かってるな。

「立て」
「ふむ。お前はいつも立って洗っているのか」

 ムカつく。
 洗身再開。感情は封印して、淡々と入力したコマンドを実行するモードに移行する。

 俺はこれを戦闘時によくやる。
 戦闘中にあれこれ考えると動きに迷いが出る。
 状況判断は反射的に行えるよう肉体にインプット済みなので、敵対相手の特性に対応した立ち回りは無意識レベルで行える。
 戦闘中は体に「攻撃をあてる」「攻撃を避ける」の2択にのみ集中する状態にする。
 余計な事にリソースを割かないので消耗が少ない。手合わせのように終わりが見えている戦いであれば、色々戦略を考えて動きを試しても良いのだが実戦はサドンデス。どこまで延長線になるかわからないので、極力消耗しないよう立ち回る必要がある。

 羞恥心や遠慮といった感情がオフになった俺は、躊躇なくアウクトルの陰茎と睾丸を洗い椅子と尻の隙間に手を突っ込んだ。
 見えないので手探りで洗うしかない。
 自分で洗うときは尻を少し浮かせているのだが、他人の体なのでそれは難しい。
 隙間を作るため、肉の方を持ち上げるようにグイグイ手を押し進める。

「っ!? 待て!」

 俺の洗浄モードはアウクトルが立ち上がったことで中断された。
 膝立ちしている俺の目線は、ちょうど彼の股間の高さ。
 何で半勃ちなんだコイツ。
 お互い無言になる。微妙な空気の中、アウクトルは残った足を自分で洗うと先に風呂を出ていった。

 =========

 風呂を出たアウクトルは、先に部屋に引き上げてしまったらしい。
 この家に客間があるなら冷却期間を設けることができるのだが、俺はこの後彼と一緒に寝なくてはいけない。
 仕方なしにノックをして部屋にお邪魔する。

 俺を待っていたのか、アウクトルは布団に入っているにも関わらずまだ寝巻きを着ていた。
 どうせなら狭いベッドの上よりも、その前に脱いだ方が良いと俺はベッドに入る前に脱いだ。

 何故かアウクトルが狼狽える。

「こういう時は脱ぐものなんだろ?」
「それはその…そうだが。いいのか?」
「ここに来た時からそのつもりだ」

 もしかして初日に俺が動揺しまくったから、魔界の習慣を押し付けるつもりはないのかもしれない。
 俺に続いて脱いだアウクトルと二人で布団に入る。今回は彼が壁際、俺が入り口側だ。

「お前の希望を聞きたい」
「何の話だ?」
「今まで特に意識していなかったが。先ほどの一件で、お前がどちらの立場を求めているのか話し合う必要があると感じた」

 先ほどって何かあったっけ? 立場って何の事?
 こいつ微妙に古めかしい話し方するから、何を言いたいのか分かりにくいんだよな。

「俺はお前と対等でいたいと思っている」

 俺は彼に色々と便宜を図ってもらっている立場だが、交渉のスタートラインなので高めに設定する。

「俺は挿れたいのだが…お前の要望を無視するわけにはいかん。善処しよう」

 イレタイってなんだ? よくわからんが受け入れてくれたようだ。

 徐に抱きしめられる。お互い向かい合って横になっていたので、当たっちゃいけない所が当たってる。

 いや、当たっているというより当ててる?

 意図的に押し付けられてる気がする…
 気がするじゃない!
 押し付けられてる!!

「ちょ! ちょっと待ってくれ!」
「安心しろ。挟むだけだ」

 挟むって何を!? 何で!?
 あわあわする俺を尻目に、俺の太腿の隙間にアウクトルは自分の陰茎を捩じ込む。
 隙間ができないよう、俺の足を若干クロスさせるという手際の良さ。

 コイツ慣れてやがる。
 俺を置き去りに、自分だけ気持ち良くなるのは気がひけたのか、俺のモノを手で刺激する。

 気を遣うのそこじゃねぇよ。
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