魔王君と俺 〜婚活から逃げて異世界へ行ったら、初日からヤバいのに誤解されてゴールインした件〜

一一(カズイチ)

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ボーイ(28)・ミーツ・ボーイ(17)

タダより高いものはない(後半アウクトルサイド)

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 魔界一の権力者・魔王様のお力添えによって、俺の異世界生活は順調だ。
 何せ2日目でカフェのオーナーである。
 状況に流されて途中よく分からない展開が合ったが、ノーカンノーカン。10代なんて性欲過多で、ちょっとしたことで暴走しちゃうんですよきっと。

 俺の店はそれなりに繁盛している。
 バリバリ働いて稼ぎたいわけじゃなく、のんびり趣味のように仕事して、生活に困らないだけの収入があれば良いので今の状況は大変満足。

 学園内に新設されたカフェ・ミルヒ。

 価格帯は既存の食堂に比べやや高めなので、教職員が主な顧客だ。
 学生をターゲットにした食堂とは住み分けができている。
 メニューも職員向けにしている。

 まずモーニングがある。
 日替わりで内容は選択できないが、店内でコーヒーを頼めばサラダと焼き菓子が無料でつく。
 コーヒーをテイクアウトした場合は、好きな焼き菓子1個無料。
 一人暮らしの教員だと、朝から複数の野菜が入ったサラダを用意するのは面倒らしく売上は好調だ。
 テイクアウトもおまけが着くので、コーヒーを買いたい者は午前のモーニング時間内に店に来る。
 客が集中する時間帯を人為的に調節することで、一人でも問題なく回せる。

 パンじゃなくて焼き菓子にしたのは、そちらの方が提供が楽だから。
 ガッツリ食べたい人向けのマフィンと、あまり量を求めない人向けのフィナンシェの2種類が固定。フレーバーは前日焼くときに気まぐれで決めている。
 サラダも特定の野菜を事前に切っておき、その場で盛り付けるだけなので提供に時間はかからない。フードロスも少ない。

 ランチはしていない。食事は食堂に譲っている。
 ランチをしたら忙しくなる。ワンオペなので無理はしたくない。
 仕入れの食材も増やさないといけないので、在庫管理に頭を悩ませることになる。仕事量に比べて利益が薄いので、この先もやるつもりはない。

 一日の営業で一番混雑するのがモーニングで、あとは緩やかなものだ。
 学校の敷地内なので、街中ほど遅くまで営業する必要はなく17時半には閉店する。
 営業日は学校に合わせているので、完全週休2日。今から夏休みが楽しみで仕方がない。
 家が仕事場なので通勤時間はゼロ。

 ここは天国か。いや魔界だった。

 =========

 あれからもアウクトルとの交流は続いている。
 主に彼が店に来る形だ。
 実は初日にやった魔力の中和、あれに味を占めたようだ。

 ずっと我慢し続けるのは辛い。
 天上天下唯我独尊を地で行くアウクトルだが、それでも周りを傷つけないように自分の魔力を押し込めている。例えるなら、ドミノを倒さないように神経使って生活しているような状態。

 俺が側に居れば、魔力を解放しても周囲に影響を与えないことを学んだ彼は、頻繁にーー否、毎日店に来る。
 タダで店をもらった俺は、彼の来訪を断ることができない。

「アウクトル。できれば他の客がいない時間帯に来てほしい。営業時間外でも構わないから」

 接客中にフィールド展開するの神経使うから勘弁して欲しい。
 加減間違えたら、客が死ぬとかクソゲーすぎる。

 此方の真剣な気持ちが伝わったようで、翌日から営業時間前に来て、店で朝食を済ますようになった。
 俺は元より睡眠とらない身なので、朝早い分には全く問題はない。

 =========

「アウクトルはまだ登校してないの?」
「最近は学園内のカフェで登校時間ギリギリまで過ごしているみたいですよ」
「ミルヒの営業時間と合わなくない?」
「営業時間前に開けてもらってるみたいです」
「普通に迷惑な客じゃない」

 フォンスにぼっち認定されているアウクトルだが、実はちゃんと友人は存在する。

 幼馴染のアミ・デサンダンとトーレ・ソステニとは10年以上の付き合いだし、高校に入ってからはそこに双子の姉妹シューラ・ジュメリ、シェリ・ジュメリも加わった。
 クラスでアウクトルが魔王の分体であることを知るのはこの4人だけ。
 男女比2:3のバランスの良いグループである。

 先程の会話は姉シューラと妹シェリのもの。シェリが誰に対しても敬語なのは、人によって言葉遣いを切り替えるのが面倒だからだ。

「お前達。良い朝だな」
「アール…遅い。遅刻ギリギリ…」
「間に合ったのだから問題なかろう」
「そういう事じゃないよ、もう…」

 HR開始1分前に悠然と現れた幼馴染をアミは咎めた。昔馴染みのアミとトーレだけが、アウクトルを愛称で呼ぶことを許されている。

 休み時間になるなり、ジュメリ姉妹がアウクトルの側に来た。

「ねえ、開店前のカフェに行ってるって本当?」
「その通りだが。何故シューラが知っている?」
「シェリが言ってたのよ。迷惑だから止めなさいよ」
「店主の希望なのだが。ふむ、良い頃合いだ。今日の放課後にお前達を紹介することにしよう」
「勝手に予定決めないでくれる!?」
「嫌なのか?」
「い、嫌じゃないけど。一応相談というか、承諾を求めて欲しい的な…」

 アウクトルに仄かな恋心を抱いているシューラとしては、少しでも一緒に過ごせるのは嬉しいのだが、必要な段取りは設けてほしい。

「あー、私はお稽古があるので途中でお暇しますね。申し訳ございません、アウクトル様」
「僕もバイトがあるから、長くて1時間かな。シェリは僕が家に送るよ」
「トーレくんのバイト先って、私の家と離れてるじゃないですか。無理しなくて良いんですよ」
「僕が一緒にいたいだけ」
「はい、そこイチャつかない」

 トーレとシェリは付き合いたてのカップルだ。
 二人の糖度にシューラは日々晒されている。最近は遠慮せずツッコミを入れるようになった。
 一般家庭のトーレと、四天王の直系であるシェリは中々の格差カップルなのだがうまく行っているようで何よりだ。
 お互いの家族にも紹介済みで、堂々と交際している。

 魔界にきた当初、住所不定無職でアウクトルとの交際を秘密にすることを選んだフォンスだが、今は家も仕事もある。
 社会人と学生の関係なので、未だ親には報告できていないが、友人になら紹介しても構わないだろう。

 家も悪くないが、そろそろ外でデートがしたい。
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