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ボーイ(28)・ミーツ・ボーイ(17)

パパに買ってもらったマンション ※

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 新しい朝が来た。
 待望の朝だ。

 昨晩、お互いに自慰をするという謎の儀式を行った俺たち二人。
 後半記憶があやふや。悪夢のような夜だった。

 俺は朝日を感知するなりベッドから飛び起き、一宿一飯の礼として朝ご飯を作った。
 材料はちゃんと持参のものを使用した。ありがとう<収納空間>さん、これからもよろしくね。

 野営が多かった俺は、少しでも美味いものを食べようと料理系のスキルを沢山取得している。
 獲物の採取から下処理、基本的な調理技術からプロ顔負けの匠の技まで一通り取得済み。
 鑑定スキルも食材の判別で鍛えられた。

「もうフォン君たら、そんなに気を使わなくていいのよ」
「いえ、せめてこれくらいはさせてください」

 あの部屋にいつまでも居たくない。

「しかしフォン君は料理が美味いな。この腕前なら、店開けるんじゃないか?」

 俺の味覚は魔族と大差ないようで、簡単な朝食だがアーヴォ家の皆様には大変満足していただけた。

「ふむ。店を持つと言うのは良い案かもしれぬ。住居も兼ねれば、お前の憂いのいくつかは早急に解消されるだろう」

 すごい上からなお言葉をいただいたが、これを発しているのは10代の学生である。
 お前何様なの? ああ、魔王様か。
 彼は昨夜の異常事態などこれっぽっちも気にしていないようで、平常運転の傲岸不遜さだ。

「今日の放課後、学園に来ると良い」
「学園って昨日の学校? 何のために?」
「良い案がある。手配に多少時間がかかる故、夕方までは待ってもらう必要があるがな」

 何だか碌でもない気配を感じるが、他に予定も無いので承諾した。

 放課後まで街を見て回るか。これから暮らしていく街だし、時間潰しに丁度良い。
 ついでに犯罪係数の高そうな地域をチェックしておこう。

 =========

 残念ながら犯罪者を見つけることができず、収穫なしのまま俺は学校へ行った。

 今日は一般人仕様の格好をしているので、堂々と歩ける。
 俺は地味メンだから、服さえ変えてしまえば、誰も俺の事を昨日の不審者だと気づかないだろう。

 校門前で俺を出迎えたアウクトルに連れられて行った先は、学園の敷地内にある芝広場の隅だった。比較的校舎に近い場所だが、登下校のルートからは外れるのであまり人通りはない。
 目の前には樹齢云百年していそうな立派な大樹がある。きっと学園が創設された頃から、ここにあるのだろう。

「暫し待て」

 アウクトルが腕を掲げると、大地が胎動する。
 目の前の大樹がメキメキと音をたて、一件の建物に姿を変えた。

「え!? 何してるんだ!?」
「お前の店だ。二階の半分が住居になっている」

 どうだ凄いだろうと言わんばかりのドヤ顔。いやいや、これ学校の敷地でしょ。

「この樹も土地もお前の所有物じゃないだろ! 何考えてるんだ!」
「魔界の物は全て俺の所有物だ」

「仰る通りでございます」

 転移魔術で現れた老人が、アウクトルのトンデモ発言を全肯定した。

「来たか。エコール」
「魔王さまにおかれましてはご機嫌麗しゅう。貴方様の忠実な僕エコール、この度のご指名光栄の極みに御座います」

 土で服が汚れるのも構わず跪く老人。アウクトルは当然のように受け入れている。

「フォンス。紹介しよう、学園長のエコールだ。これから長い付き合いになる、何かあれば何でも此奴に言うと良い」

 ……お前一般人に紛れて暮らすとか無理だろ。

 後のことは学園長が上げ膳据え膳で手配してくれた。
 必要な届け出は、全て昼までに代理で申請済み。明日から学園内のカフェとして営業可能になった。手配ってこれか。

 アウクトルが一瞬で作り出した店は、ガワだけの一夜城かと思いきや水回りまで完璧だった。冷蔵庫だけは後ほど搬入と言われたけど、俺の<収納空間>さんは冷蔵冷凍品も時間を止めて保管できる上位互換なので断った。

 お店の運営に際し念の為契約が必要とのことで、誓約魔術の込められた契約書と睨めっこしている。

「最後のこの文章、何を言いたいのか分からないんだが」

 読めるのだが、俺の読解力が追いつかない。

「俺とお前は種族が違う為、時間が与える影響に差がある。これはその差異を是正するための項目だ。お前に不利な内容ではないし、俺としては絶対に譲れない条項だ」

 うん、よく分からん。

 デバフなら弾くはずなので、サインしてしまおう。

 =========

 異世界生活2日目にして店をゲットした俺。

 職、住居問題が一気に解決した。
 店の届出の際に魔界の住民として国籍も取得した。

「ありがとう、アウクトル。先程は責めるような発言して申し訳ない」

 持つべきものは権力者の知り合いである。機嫌損ねたら全部パーになりそうなので、胡麻を擦っておこう。

「礼なら態度で示してもらおうか」

 ふと顔に影がかかり、横を向くと端整な顔が近づいていた。
 俺とアウクトルの唇が重なる。滑り込むように舌が俺の口へと入ってきた。
 反射的に彼の肩を掴んで引き剥がす。

 青年の傷ついたような瞳と目が合った。
 ああ、失敗した。

「お前を否定したわけじゃない」

 誤解される前に一番大事なことを告げる。
 アウクトルは無反応。

「えずくんだ。昔から口に異物が入るのが苦手で…嚥下できないものは軒並み嘔吐しそうになる。歯磨きとか毎回辛いんだ」

 いやまあ、恋人でもないのにディープキスする方がおかしいんだけど。今はそっちの問題じゃないと思うので、生理的に無理なのだと説明する。
 彼は嘘がわかるらしいから、口から出まかせを言って誤魔化しているわけではない事は分かってくれるだろう。

「…証拠を見せろ」
「どうすれば良いんだ?」
「お前からしろ」


 アウクトルと向かい合う。
 至近距離で見つめてくるので、視線が痛い。

 何だこの流れ。どうしてこうなった。
 キスってそもそも何のためにするもんだっけ。
 甘い雰囲気はカケラもない。そもそも存在しないんだけど。
 度胸試しなのか、そうなのか。
 誰得な展開だけど、きっとビビって降参した方が負けなんだな。

 先程唇が触れ合った時に分かったんだが、俺はキスに対して抵抗も喜びも感じない人間だった。
 舌を入れられたことも、遺物の挿入に反射的に動いただけで嫌悪感はない。勿論快感もない。
 俺にとって口腔は消化器官。唇は外部に露出した先端部分なので、他人のものと接触しても露出部位の接触程度にしか感じなかったのだ。
 要は手を繋ぐのと同じ。
 見知らぬ人と積極的に手を繋ごうとは思わないが、知り合いなら触れてしまってもそこまで嫌悪感はない。

 とは言え、こうもジロジロ見られてはやりにくい。
 右手でアウクトルの目元を塞ぎ、ノータイムで唇に触れる。
 彼にされたようにスッと舌を入れ、即撤退しようとしたが出来なかった。
 俺に目元を隠されたまま、アウクトルは片手で俺の後頭部を引き寄せ、もう一方の手を腰に回して引き寄せた。
 離れたくても離れられない。
 舌を抜こうとしたら、軽く歯で挟まれ思い切り吸われた。
 仕返しなのか? 体張りすぎじゃね?
 仰け反った際にたたらを踏んだ俺は、アウクトルを巻き込んでソファにダイブした。
 中々の衝撃だったはずだが、彼の拘束は緩まない。
 俺の腕は変な体制で押し潰されてしまい、身動きができない。

 このチキンレースいつまで続くのか、俺は諦めの境地で大人しくすることにした。
 きっと飽きたら離してくれるだろう。
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