魔王君と俺 〜婚活から逃げて異世界へ行ったら、初日からヤバいのに誤解されてゴールインした件〜

一一(カズイチ)

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ボーイ(28)・ミーツ・ボーイ(17)

炭鉱のカナリア(後半アウクトルサイド)

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 魔王君ことアウクトル視点の話を聞いて、やはり誰しも自分に都合の良い事を語るのだと俺は痛感した。

 視点の数だけ真実がある。

「現在世界が魔術によって分けられている。術者は魔王アウクトル・ゲネリスである」

 一連の出来事で明白な事実はこれだけ。
 この事実に対しそれぞれの立場から解釈を述べると、自分が正義で他人が悪という物語が語り手の数だけ作られる。
 彼が意図的に自分をよく見せようとしているとは思わない。
 自称神も同様だ。
 各々自分が感じたことを主張をしただけなので、間違っているとも正しいとも言えない。

 両者の意見を聞いた上で、改めて俺は「魔王を討伐すべきではない」と認識した。

 俺は殺し屋ではないので、最初からその気はなかったが、それでも状況次第では我が身を守るため仕方なく戦う覚悟は決めていた。

 世界のためではない。それは英雄の仕事だ。その身分は故郷に置いてきた。
 この先俺が戦うなら、それは自分のためだ。

 セカンドライフは生きたいように生きる。

 =========

「こんな格好ですまない。君と対立するつもりはないんだ」

 ベンチに移動して、直ぐに俺は武装解除した。

 敵意が無いことをアピールしつつ、ファンタジーコスプレ要素を減らすためだ。むしろ後者の方が本命だったりする。
 金属類を外したことで、まあ街中を歩いたらちょっと浮くけど職質には合わない程度になった。

 俺の無害ムーブに触発されたのか、トップシークレットな筈の身の上話をしてくれたアウクトルだが、会話の裏で先程から気になる行動をしている。

 コイツ押し込めている自分の魔力を徐々に開放しているのだ。

 分体とは言え、魔王の魔力は膨大だ。
 転移直後に一瞬揺らいだが、それは未知の存在と邂逅した為なので不可抗力。
 その後持ち直し、校門前で自己紹介した時は周囲に影響を与えないよう完璧に押し込めていた状態に戻った。

 しかしベンチに座ったあたりから、グラグラコントロールが揺らぎ、ちょいちょい魔力が漏れ出した。
 今は周囲侵食する勢いで溢れてる。静かなる攻撃と言っても過言ではない状況。
 この状態を放置したら、彼の魔力にあてられた生命は枯れ果てるか、異常繁殖するかの二択だ。
 試す度胸はないので、即効無効化した。
 最初は俺を試しているのか、とか普通に攻撃されてるのかと思ったけど無意識の様子。

 お前、今までよく世界壊さなかったな!
 今回は俺の反則フィールド展開で対処しているけど、あんまり勢い良すぎると処理が追いつかなくなるからな!


 話がひと段落ついた頃、隣に座る彼を見ると形の良い頭に葉っぱが乗っていた。
 たぬきみたいだな、いやシルエットがシュッとしてるからキツネか。
 イケメンの間抜けな絵面は面白いが、この状態で家に帰すのは忍びないので、優しい俺は教えてやることにする。

「アウクトル。君に伝えたいことがある」

 本体の年齢考慮しなければ俺の方が年上なので、呼び捨てにした。
 外見年齢俺の方が上なので、そちらの方が違和感ないはず。異論は認めない。

 真剣な眼差しで此方を見るアウクトルに、シリアスな雰囲気ガン無視して「お前さっきから葉っぱ頭に乗ってるけど気づいてる?」とはちょっと言い難い。
 空気の読める俺はさり気なく葉っぱを払ってやろうとし、手を伸ばした。
 しかし俺の手は頭に届く前に、アウクトルの左手にがっしり掴まれたことで任務失敗した。手を握られた瞬間、突風が吹いたおかげで木の葉は池の方に飛んだので結果オーライではある。

 オーライじゃないのは今掴まれている俺の右手。

 アウクトルから放たれる魔力は俺の手を掴んだ瞬間、一気に上昇。
 俺の処理能力が負けたら、掴まれている右手がパーンとなる。
 パーンと可愛く表現したが、生々しく述べると肉が内側から膨張し骨と共に弾け飛ぶ可能性がある。

「ええと。俺はあまりこういった事に慣れてないんだ。ゆっくりで頼む。段階を踏んでくれれば、俺も準備できるからお前の事全部受け止めきれると思う」

 俺の顔も一気にシリアスモードだ。
 右手の変化を一瞬でも見逃したら致命傷になるので目を逸らせない。
 漸く自分がやらかしている事に気付いたのか、俺の言葉に息を飲んだ彼は溢れ出るエネルギーを治めてくれた。

 畜生嫌な汗かかせやがって。

 =========

 俺の全てを受け入れる。

 まさか突然告白されるとは思わなかった。
 否、思い返せば予兆はあった。

 頬を染めながら、人気のない場所への移動を希望したのはフォンスだ。
 恥ずかしいのか被ったフードを手で押さえていたが、身長差がないため潤んだ瞳までは隠せない。
 ゆるく癖のあるチョコレートのような髪も、紅茶のような瞳も艶やかで。きっと舐めれば甘いのだろう。
 一瞬魔王城の私室へ転移しようかと思ったが、即効で連れ込むのはどうかと思ったので妥協して近場のデートスポットにした。

 急展開に動揺して、一時魔力のコントロールが不安定になったが、流石神が見込んだ男だ。フォンスは容易くアウクトルをフォローした。
 神族にとって都合の良い情報を与えられていただろうに、彼は偏見なくアウクトルの話に耳を傾けた。
 何があったかよりも当時の俺が何を思っていたか、どうしたかったのか、そんな俺自身の考えに重きを置いて知りたがったのは彼が初めてだった。
 あえて触れることもあるまいと荒事は伏たが、その事に気づきながら彼は否定も批判もなくアウクトルの全てを受け入れた。

 話が終わり、木漏れ日の下で心地よい沈黙を味わう。
 ジロジロと見て不快にさせてはいけないだろう、と魔眼を発動して正面左右あらゆる角度からその美貌を眺める。
 フォンスの深い叡知を感じさせる瞳はどこか遠くを見つめている。

 この時間が永遠に続いてほしいとも思うし、なんでも良いから話したい、その瞳に自分を写して欲しいとも思う。
 隣に座っているだけでこんなにも心が騒ぐ。
 こんな気持ちは初めてだった。

 先に沈黙を破ったのはフォンスの方。差し出された手を握り返し、アウクトルは拙い口説き文句に熱い眼差しで応えた。

 かつて母が語った、理屈なく惹かれる相手。

 彼が魔王アウクトルの唯一無二。
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