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第二章 盾職人は異世界の起業家となる

第58話 ざまぁ! となる

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「さあキムよ、このオンナの種族を『鑑定』するのだ!」

「鑑定!」

 鑑定士である召喚人しょうかんびとのキムさんがメルダさんの前に手を伸ばし、そう声を発する。

「わかりました。彼女の種族は――」

 侯爵がニヤリとするのが見えた。陛下を含め、出席者は次の言葉を息をひそめて待っている。
 そして、ボクは手をグッと握りしめていた――

 大丈夫だ。ボクの推測が正しければ、彼女は――

「――人間です!」
「――へっ?」

 キムさんの鑑定結果にブルームハルト侯爵はほうけた顔を見せる。

「やったぁ!」とボクは思わず叫んでしまった!
「ヒロトさん、やりましたね!」とアリシアも喜ぶ。

「ど、どういうことですか?」
 まだ状況が理解できないメルダさんに、ボクは改めて伝える。
「メルダさんは人間なのですよ! 正真正銘の!」


 メルダさんの幼馴染という魔族のアクバさんを見たとき、ボクは違和感を覚えていた。
 たしかに、彼の髪の色はメルダさんと同じ赤だった。しかし、それ以外の特徴はまったく違っていたのだ。メルダさんは牙もないし、耳も人間と同じ。そして、彼女は魔法が使えない。
 つまり、髪の色以外、メルダさんは人間の特徴しか持っていない。

「しかし、私は魔族の里で――」
 彼女が言いかけたところを、ボクは人差し指を口の前に立てて制止させる。

 そう、彼女は魔族の里で育った。だから、自分は魔族だと彼女も信じきっていた。
「きっと、偶然だったんだ――」

 どのような経緯があったかは、これからは想像なんだけど――孤児だったメルダさんを魔族が見つけ、彼女の髪の色から魔族の子供だと勘違いした――それで、彼女を魔族の里に連れてきて、魔族として育てた。

 だけど、魔族なら当然、使えるはずの魔法を彼女は使えなかった。
 だって、人間だったんだもの!

 魔族として育てられたのに、魔法が使えないと里ではイジメられ――人間の国では、魔族という引き目から、窮屈きゅうくつな思いをしながら生きてきた――そんな彼女が、やっと人間として生きていける道が開けたのだ。

「ありがとうございます。ありがとうございます」
 彼女は涙を流して、ボクに何度も頭を下げた。
 そんな彼女を見て、やってヨカッタとボクは安堵あんどした。

 さて、これで彼女のことは一件落着。だけど、こうして王宮の大広間に陛下を含めて、王国の重鎮たちを呼んだのは他でもない――


「ディーノ! こ、これはどういうことだ⁉」

 ブルームハルト侯爵は血相を変えて怒鳴った。
 メルダさんが魔族だと暴露し、そのことでボクとアリシアを断罪する。そして、陛下やスチュワート殿下にもその
責任を負ってもらう。そんな、彼の目論見もくろみが吹き飛んでしまった。

 しかし、これこそボクたちが企てた、侯爵をおとしいれるための策だったのだ。

「侯爵、いやあ、申し訳ありません。実は私が魔盾まじゅんの情報を盗み出していたことがバレてしまったんです。仕方ないので、アナタを売ることにしました」

 そんなことをあっけらかんと言うディーノさんに、ボクたちは苦笑いするのだが――まあ、そういうことだ。

「な、なにをオマエは言っている?」
 顔面が蒼白そうはくになる侯爵。そのまま二、三歩、後ずさりする彼の両腕がつかまれる。
 アーノルドさんとアレンさんだった。

「な、なんだ⁉ オマエたち、無礼だぞ! わしは王国屈指の大貴族、ブルームハルト侯爵だと知って――」
「はいはい、わかってますよ。それを確認させてもらいますから」
 そう、アーノルドさんはウレシそうに言う。

「キ、キサマ、何を言って――」
「実を言うと、鑑定士のキムさんを呼んだのはもうひとつの目的がありましてね。見事、私たちの思惑にアナタは乗ってくださいました」
 勇者、アレンさんも楽しそうだ。

「ど、どういうことだ?」
「すぐにわかりますよ。それではキムさん。この方の名前と職業を『鑑定』してもらえますか?」
「――えっ?」

 今度は顔を真っ赤にして怒り出す侯爵。

「ふざけるな! オレはブルームハルト侯爵だぞ! やめさせろ!」
「鑑定!」

 キムさんはお構いなく、鑑定スキルを発動!
 その結果は――

「この人の名前は、『ブルウタス・ロッシ』。職業、盗賊!」

 出席者全員が騒ぎ出す。
「ブルウタス・ロッシって――」
「あの、山賊で賞金首のブルウタス――なのか?」
 そんなささやきが聞こえた。

「こ、こんなのデタラメだ! 儂をおとしいれようとして、こんなことを企てたんだろ! なんて茶番だ! おい、こいつらを捕まえろ!」
 侯爵がそう叫ぶのだが、誰も動かない。

「どうした⁉ 儂はブルームハルト侯爵だぞ!」
「残念ながら、もはや、でもないわよ」
 女性の声が聞こえ、全員がそちらを見る。

「イ、イザベル――ど、どういう意味だ?」
 イザベルと呼ばれた女性。浅黄色のドレスと、『これでもか!』と盛られた髪のご婦人。シャルロット殿下のお披露目式で、ボクは一度目にした。彼女はブルームハルト侯爵夫人だ。
「そのままの意味よ。アナタとは離縁させて頂きました。もうすでに陛下からもお認めになっていらっしゃいますわ」

 美しい白鳥の羽根を編んで作られた扇子を口に当てながら、彼女はそう伝える。

「ま、まさか……精神支配が……」
「ええ、とっくに魔法は解けてますわよ。ディーノのおかげでね」
 そう言って、彼女はディーノさんの腕にしっかりと抱きつく。えっ? ふたりってそういう仲だったの?

「ディーノ! オマエ! この儂をダマしたんだな! オンナが魔族だという話も! 公開断罪をやるように勧めたのも!」
「そうですよ。いやあ、こんなにあっさりと引っかかるとはね」

 そう、これはボクたちが仕掛けたブルームハルト侯爵――いや、賞金首の悪党、ブルウタス・ロッシを捕まえるための大芝居だったのである。

 これだけ大勢の前で、自分の正体を明かされてしまったのだ。もう彼は逃げられようがない。

「ヨ、ヨハネディクト枢機卿すうききょう!」
 侯爵に化けていたブルウタスがそう叫ぶのだが、枢機卿の姿はもうなかった。

「ゴメン。枢機卿には逃げられちゃった」
「エレーナさん!」

 ブルズのメンバーであるエレーナさんが舌を出して謝る。本当は、枢機卿も捕まえたかったのだが、突然、姿が消えてしまったらしい。
「エレーナが捕まえられなかったのだから、仕方ないですね」とアレンさんは残念という表情で応える。

 しかし、枢機卿が最後の頼みだったようで、彼に見捨てられた悪党、ブルウタスはガックリとひざを落とした。

「さて、オマエにはいろいろ聞かねばならない。先代、ブルームハルト侯爵殺害の容疑も含めてな」
 アーノルドさんの声にまったく反応しないほど、気力を無くしたブルウタスは近衛兵に引きずられて、退場していった。

 その姿をボクとアリシアはしっかりと見届ける。アリシアはボクの手をしっかり握りしめて――
 彼女は、あの男に『亜人』とののしられて、魔法研究所を追い出されたのだ。

「アリシア、よかったね」
 ボクはそう彼女に声をかけた。
「はい。ですけど、実はあの人に感謝もしているんです」
「――えっ?」

 自分を追い出したあの男に感謝――⁉

「だって、あの人が私を研究所から追い出してくれたから、私はヒロトさんに会うことができたのですもの」
 そう、彼女はニッコリ笑った。

「――そうだね」
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