55 / 60
第二章 盾職人は異世界の起業家となる
第55話 ワナにはめる――となる
しおりを挟む
その日の夜――
夕飯をいつものように全員ですませて、それぞれ自分の部屋へと入る。
日付が変わり、しーんとした工房に誰かが侵入する。
そして、ボクの作業場にある棚を漁り始めた――
物陰に隠れていたボクは、魔石に魔力を込めた。工房がパッと明るくなる。
「うわっ! なんですか!」
侵入者が驚き、振り向いた。
「やっぱり、アナタだったんですね? ディーノさん」
そう――真夜中、工房に入って、やさがししていた人物とはディーノさんだった。
「ヒロトさん、それにアリシアさんまで⁉」
「ヒロトさんから話を聞いた時にはまさかと思いましたが、残念です。ディーノさん。お願いですから、おとなしく捕まってもらえますか?」
ボクとアリシアでディーノさんを囲み、逃げ道を塞ぐ。
「くっ! いたし方ありませんね。手荒いマネはしたくなかったのですが――」
そう言って、彼はボクに向けて杖を振りかざした。
「そこまでだ、ディーノ」
彼の背後からまた人影が現れ、杖を持った腕を掴む。
「アーノルドさん⁉」
「キミの負けですよ。観念してください」
もう一人現れると、今度は彼の杖を奪った。
「アレンさんも⁉」
勇者パーティー、『ブルズ』の二人がディーノさんを取り押さえる。
実は、今晩、ディーノさんが工房に押し入るだろうと踏んで、ボクから二人に助っ人を頼んでおいたのだ。
「これはこれは――降参です。まさか、私がはめられていたとは――と、いうことは、治具のことも?」
治具――つまり、盾に魔石を取り付けるとき、治具が必要だとみんなに話した件だ。
「うん。あれは出まかせ。実際は、治具なんてなくても、盾職人のスキルを持った召喚人さえいれば魔盾は作れるよ」
武具屋のオヤジが持ってきた魔盾の模倣品が壊れたのは、単純に職人の技術が不足していただけだった。ただ、それを「特別な治具が必要」だとウソをついて、ディーノさんをはめたのだけど――
「つまり、私はやらなくてイイ盗みを犯そうとして、捕まったということですね?」
これはやられました――と、頭を掻くディーノさん。
「それで、いつから私があやしいと?」
ボクにたずねるので、「実は、面接に来た時からあやしいと思ってました」と応える。
「あのとき、ディーノは『掲示板を見て、ボクの依頼を受けることにした』と言ってましたよね?」
ディーノさんは「はい、たしかそう言ったと思います」と応える。
「でも、それはおかしいんです。だって、S級冒険者ほどの人は、掲示板なんて見ないですよね?」
「――⁉」
上級冒険者になると、自分からクエストを取りに行くようなことはしない。指名されてクエストを受けるのがふつうである。
「じゃあ、どうしてディーノさんはボクのクエストに気づいたのか? きっと、別の人がボクのクエストに気づき、その人から指示された。違いますか?」
ディーノさんは、その人物になにか弱みを握られて、従わざるを得なかった――そう、推理したのだ。
「いやはや、たったそれだけのことで私が疑われるとは思いませんでした。私が、たまたま掲示板を見た――ということも考えられるでしょ?」
「もちろん、そうも考えました。ですから、王都物産の人に調べてもらったんです」
「――えっ?」
ディーノさんは、半年前まで王国第二の都市、ミリノで冒険者をしていたと本人から聞いていた。なので、王都物産の人に、ミリノの冒険者ギルトでディーノさんというS級冒険者がいたか確認してほしいと頼んだ。
「そしたら、S級冒険者でそういった名前の人物はいなかったそうです。なので、今度は帝都の冒険者ギルドに確認してもらったら、半年前までディーノというS級冒険者がいたとわかりました」
冒険者は自分の本拠地からめったに動かない。だから、別の都市にいる冒険者の情報はなかなか伝わらない――だけど、商人は頻繁に都市や国をまたいで移動する。
ボクは職人だから商人との付き合いがあるので、商人から他地域の情報を手に入れることができた。
「経歴を偽って、帝国からきたことを隠していたことがわかって、ボクはディーノさんが帝国のスパイだと気づいたんです」
「なるほど、見事です。そうです、私は帝国である人物に頼まれて、王国の情報を入手するように指示されました。魔盾の件も、その一環です。ですが、それだけではありませんでした」
えっ? それだけではない?
「なんですか? それは?」
ディーノさんはニヤリとしたあと――
「どうですか? ココからは司法取引ということで――」
「――司法取引?」
それって、いったい?
「ワナにはめるんですよ。悪いヤツらを」
夕飯をいつものように全員ですませて、それぞれ自分の部屋へと入る。
日付が変わり、しーんとした工房に誰かが侵入する。
そして、ボクの作業場にある棚を漁り始めた――
物陰に隠れていたボクは、魔石に魔力を込めた。工房がパッと明るくなる。
「うわっ! なんですか!」
侵入者が驚き、振り向いた。
「やっぱり、アナタだったんですね? ディーノさん」
そう――真夜中、工房に入って、やさがししていた人物とはディーノさんだった。
「ヒロトさん、それにアリシアさんまで⁉」
「ヒロトさんから話を聞いた時にはまさかと思いましたが、残念です。ディーノさん。お願いですから、おとなしく捕まってもらえますか?」
ボクとアリシアでディーノさんを囲み、逃げ道を塞ぐ。
「くっ! いたし方ありませんね。手荒いマネはしたくなかったのですが――」
そう言って、彼はボクに向けて杖を振りかざした。
「そこまでだ、ディーノ」
彼の背後からまた人影が現れ、杖を持った腕を掴む。
「アーノルドさん⁉」
「キミの負けですよ。観念してください」
もう一人現れると、今度は彼の杖を奪った。
「アレンさんも⁉」
勇者パーティー、『ブルズ』の二人がディーノさんを取り押さえる。
実は、今晩、ディーノさんが工房に押し入るだろうと踏んで、ボクから二人に助っ人を頼んでおいたのだ。
「これはこれは――降参です。まさか、私がはめられていたとは――と、いうことは、治具のことも?」
治具――つまり、盾に魔石を取り付けるとき、治具が必要だとみんなに話した件だ。
「うん。あれは出まかせ。実際は、治具なんてなくても、盾職人のスキルを持った召喚人さえいれば魔盾は作れるよ」
武具屋のオヤジが持ってきた魔盾の模倣品が壊れたのは、単純に職人の技術が不足していただけだった。ただ、それを「特別な治具が必要」だとウソをついて、ディーノさんをはめたのだけど――
「つまり、私はやらなくてイイ盗みを犯そうとして、捕まったということですね?」
これはやられました――と、頭を掻くディーノさん。
「それで、いつから私があやしいと?」
ボクにたずねるので、「実は、面接に来た時からあやしいと思ってました」と応える。
「あのとき、ディーノは『掲示板を見て、ボクの依頼を受けることにした』と言ってましたよね?」
ディーノさんは「はい、たしかそう言ったと思います」と応える。
「でも、それはおかしいんです。だって、S級冒険者ほどの人は、掲示板なんて見ないですよね?」
「――⁉」
上級冒険者になると、自分からクエストを取りに行くようなことはしない。指名されてクエストを受けるのがふつうである。
「じゃあ、どうしてディーノさんはボクのクエストに気づいたのか? きっと、別の人がボクのクエストに気づき、その人から指示された。違いますか?」
ディーノさんは、その人物になにか弱みを握られて、従わざるを得なかった――そう、推理したのだ。
「いやはや、たったそれだけのことで私が疑われるとは思いませんでした。私が、たまたま掲示板を見た――ということも考えられるでしょ?」
「もちろん、そうも考えました。ですから、王都物産の人に調べてもらったんです」
「――えっ?」
ディーノさんは、半年前まで王国第二の都市、ミリノで冒険者をしていたと本人から聞いていた。なので、王都物産の人に、ミリノの冒険者ギルトでディーノさんというS級冒険者がいたか確認してほしいと頼んだ。
「そしたら、S級冒険者でそういった名前の人物はいなかったそうです。なので、今度は帝都の冒険者ギルドに確認してもらったら、半年前までディーノというS級冒険者がいたとわかりました」
冒険者は自分の本拠地からめったに動かない。だから、別の都市にいる冒険者の情報はなかなか伝わらない――だけど、商人は頻繁に都市や国をまたいで移動する。
ボクは職人だから商人との付き合いがあるので、商人から他地域の情報を手に入れることができた。
「経歴を偽って、帝国からきたことを隠していたことがわかって、ボクはディーノさんが帝国のスパイだと気づいたんです」
「なるほど、見事です。そうです、私は帝国である人物に頼まれて、王国の情報を入手するように指示されました。魔盾の件も、その一環です。ですが、それだけではありませんでした」
えっ? それだけではない?
「なんですか? それは?」
ディーノさんはニヤリとしたあと――
「どうですか? ココからは司法取引ということで――」
「――司法取引?」
それって、いったい?
「ワナにはめるんですよ。悪いヤツらを」
11
お気に入りに追加
78
あなたにおすすめの小説
ダンジョンから始まる異世界生活〜異世界転移した勇者なのに誰も拾ってくれませんから、ダンジョン攻略しちゃいます〜へなちょこ勇者の成長記
KeyBow
ファンタジー
突然の異世界転移。いきなりダンジョンに放り出された。女神と契約し、生きる糧を得る為にダンジョンに挑む。転移し、ダンジョンに挑む。転移してから2日目から物語はスタートする。朴念仁なのに周りには美人が集まる?
【完結】俺のセフレが幼なじみなんですが?
おもち
恋愛
アプリで知り合った女の子。初対面の彼女は予想より断然可愛かった。事前に取り決めていたとおり、2人は恋愛NGの都合の良い関係(セフレ)になる。何回か関係を続け、ある日、彼女の家まで送ると……、その家は、見覚えのある家だった。
『え、ここ、幼馴染の家なんだけど……?』
※他サイトでも投稿しています。2サイト計60万PV作品です。
S級冒険者の子どもが進む道
干支猫
ファンタジー
【12/26完結】
とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。
父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。
そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。
その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。
魔王とはいったい?
※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。
ちょいダン? ~仕事帰り、ちょいとダンジョンに寄っていかない?~
テツみン
SF
東京、大手町の地下に突如現れたダンジョン。通称、『ちょいダン』。そこは、仕事帰りに『ちょい』と冒険を楽しむ場所。
大手町周辺の企業で働く若手サラリーマンたちが『ダンジョン』という娯楽を手に入れ、新たなライフスタイルを生み出していく――
これは、そんな日々を綴った物語。
【朗報】おっさん、異世界配信者になる。~異世界でエルフや龍を助けたらいつの間にかNo1配信者になって、政府がスローライフを許してくれません~
KAZU
ファンタジー
おっさんの俺は会社を辞めた。
そして、日本と門で繋がった異世界で配信者の道を志した。
異世界に渡った俺は、その世界に足を踏み入れた者、全員がもらえる加護をもらうことになる。
身体強化などの人外の力をもらえる神からの加護。
しかし俺がもらった加護は【理解】という意味不明な加護だった。
『俺の加護は……理解? なんですか。それ』
『いえ、わかりません。前例がないので』
外れなのか、チートなのか分からないその加護の力は。
『は、はじめまして。ヘストス村の村長のソンです……あなたなぜ我々と喋れるのですか?』
「……え?」
今だ誰も意思疎通できない、その世界の原住民と呼ばれる、人族やエルフ族、果ては龍に至るまでの彼らの言葉を普通に【理解】できるということだった。
これはそんな俺が異世界で配信者として活躍しながら、時にバズったり、時に世界を救ったりする物語。
俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉
まるせい
ファンタジー
異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。
貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。
能力『ゴミ箱』と言われ追放された僕はゴミ捨て町から自由に暮らすことにしました
御峰。
ファンタジー
十歳の時、貰えるギフトで能力『ゴミ箱』を授かったので、名門ハイリンス家から追放された僕は、ゴミの集まる町、ヴァレンに捨てられる。
でも本当に良かった!毎日勉強ばっかだった家より、このヴァレン町で僕は自由に生きるんだ!
これは、ゴミ扱いされる能力を授かった僕が、ゴミ捨て町から幸せを掴む為、成り上がる物語だ――――。
勇者パーティのサポートをする代わりに姉の様なアラサーの粗雑な女闘士を貰いました。
石のやっさん
ファンタジー
年上の女性が好きな俺には勇者パーティの中に好みのタイプの女性は居ません
俺の名前はリヒト、ジムナ村に生まれ、15歳になった時にスキルを貰う儀式で上級剣士のジョブを貰った。
本来なら素晴らしいジョブなのだが、今年はジョブが豊作だったらしく、幼馴染はもっと凄いジョブばかりだった。
幼馴染のカイトは勇者、マリアは聖女、リタは剣聖、そしてリアは賢者だった。
そんな訳で充分に上位職の上級剣士だが、四職が出た事で影が薄れた。
彼等は色々と問題があるので、俺にサポーターとしてついて行って欲しいと頼まれたのだが…ハーレムパーティに俺は要らないし面倒くさいから断ったのだが…しつこく頼むので、条件を飲んでくれればと条件をつけた。
それは『27歳の女闘志レイラを借金の権利ごと無償で貰う事』
今度もまた年上ヒロインです。
セルフレイティングは、話しの中でそう言った描写を書いたら追加します。
カクヨムにも投稿中です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる