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第二章 盾職人は異世界の起業家となる

第55話 ワナにはめる――となる

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 その日の夜――

 夕飯をいつものように全員ですませて、それぞれ自分の部屋へと入る。
 日付が変わり、しーんとした工房に誰かが侵入する。
 そして、ボクの作業場にある棚を漁り始めた――

 物陰に隠れていたボクは、魔石に魔力を込めた。工房がパッと明るくなる。

「うわっ! なんですか!」
 侵入者が驚き、振り向いた。

「やっぱり、アナタだったんですね? ディーノさん」

 そう――真夜中、工房に入って、やさがししていた人物とはディーノさんだった。

「ヒロトさん、それにアリシアさんまで⁉」
「ヒロトさんから話を聞いた時にはまさかと思いましたが、残念です。ディーノさん。お願いですから、おとなしく捕まってもらえますか?」
 ボクとアリシアでディーノさんを囲み、逃げ道をふさぐ。

「くっ! いたし方ありませんね。手荒いマネはしたくなかったのですが――」
 そう言って、彼はボクに向けて杖を振りかざした。

「そこまでだ、ディーノ」
 彼の背後からまた人影が現れ、杖を持った腕をつかむ。
「アーノルドさん⁉」

「キミの負けですよ。観念してください」
 もう一人現れると、今度は彼の杖を奪った。
「アレンさんも⁉」

 勇者パーティー、『ブルズ』の二人がディーノさんを取り押さえる。
 実は、今晩、ディーノさんが工房に押し入るだろうと踏んで、ボクから二人に助っ人を頼んでおいたのだ。

「これはこれは――降参です。まさか、私がはめられていたとは――と、いうことは、治具のことも?」
 治具――つまり、盾に魔石を取り付けるとき、治具が必要だとみんなに話した件だ。

「うん。あれは出まかせ。実際は、治具なんてなくても、盾職人のスキルを持った召喚人しょうかんびとさえいれば魔盾まじゅんは作れるよ」

 武具屋のオヤジが持ってきた魔盾の模倣品もほうひんが壊れたのは、単純に職人の技術が不足していただけだった。ただ、それを「特別な治具じぐが必要」だとウソをついて、ディーノさんをはめたのだけど――

「つまり、私はやらなくてイイ盗みを犯そうとして、捕まったということですね?」
 これはやられました――と、頭をくディーノさん。

「それで、いつから私があやしいと?」
 ボクにたずねるので、「実は、面接に来た時からあやしいと思ってました」と応える。

「あのとき、ディーノは『掲示板を見て、ボクの依頼を受けることにした』と言ってましたよね?」
 ディーノさんは「はい、たしかそう言ったと思います」と応える。

「でも、それはおかしいんです。だって、S級冒険者ほどの人は、掲示板なんて見ないですよね?」
「――⁉」

 上級冒険者になると、自分からクエストを取りに行くようなことはしない。指名されてクエストを受けるのがふつうである。
「じゃあ、どうしてディーノさんはボクのクエストに気づいたのか? きっと、別の人がボクのクエストに気づき、その人から指示された。違いますか?」

 ディーノさんは、その人物になにか弱みを握られて、従わざるを得なかった――そう、推理したのだ。

「いやはや、たったそれだけのことで私が疑われるとは思いませんでした。私が、たまたま掲示板を見た――ということも考えられるでしょ?」
「もちろん、そうも考えました。ですから、王都物産の人に調べてもらったんです」
「――えっ?」

 ディーノさんは、半年前まで王国第二の都市、ミリノで冒険者をしていたと本人から聞いていた。なので、王都物産の人に、ミリノの冒険者ギルトでディーノさんというS級冒険者がいたか確認してほしいと頼んだ。

「そしたら、S級冒険者でそういった名前の人物はいなかったそうです。なので、今度は帝都の冒険者ギルドに確認してもらったら、半年前までディーノというS級冒険者がいたとわかりました」

 冒険者は自分の本拠地からめったに動かない。だから、別の都市にいる冒険者の情報はなかなか伝わらない――だけど、商人は頻繁に都市や国をまたいで移動する。

 ボクは職人だから商人との付き合いがあるので、商人から他地域の情報を手に入れることができた。

「経歴を偽って、帝国からきたことを隠していたことがわかって、ボクはディーノさんが帝国のスパイだと気づいたんです」

「なるほど、見事です。そうです、私は帝国である人物に頼まれて、王国の情報を入手するように指示されました。魔盾の件も、その一環です。ですが、それだけではありませんでした」

 えっ? それだけではない?

「なんですか? それは?」

 ディーノさんはニヤリとしたあと――

「どうですか? ココからは司法取引ということで――」
「――司法取引?」

 それって、いったい?

「ワナにはめるんですよ。悪いヤツらを」
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