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第二章 盾職人は異世界の起業家となる

第53話 情報流出となる

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「こんちは。ヒロト君はいるかな?」
 武具屋のオヤジの声だった。

「こんにちは。あれ? たしか昨日、商品はお渡ししたはずですよね?」
 ボクがそう確認すると、「いや、今日は別の件で来たんだ」とオヤジが言う。

 別の件?

 工房の机に、オヤジが包みを置くと、それを開いた。

「これって――」
「ああ、魔盾まじゅんだ」

 しかし、魔石が外れてしまって、魔盾としての性能が出せない。
 一見、ウチの工房で作っている魔盾なのだが、よく見ると――

「こりゃあ、ウチの品物じゃねえな――」のぞきにきたサムさんがそう言う。
「うん、そうだね」

 かなり良くできている。金具の形、木枠の形状、取っ手の大きさまでソックリだ。
 ただ、細かいところに違いがあった。
「ほら、取っ手を止めているクギの位置。ウチなら絶対、ココに打たない」
「木材の品質も悪いですね。カンナがいいかげんだから、枝の部分から割れている」

 ボムさんやジャックさんも、「こりゃ、ひでえなあ……」と文句を言う。

「しかし、魔石にはちゃんと『魔物の敵意を引き付ける魔法』が封じ込められていて、魔盾としての性能はある――」

 つまり――

「ウチの模造品――ということか――」

 ウチの工房で作った製品には、木材のところに焼き印が押してあるのだが、それさえ真似まねしてあった。しかし、『A&H』のフォントが微妙にいびつだ。

「これをいったいどこから手に入れたのですか?」
 ボクがたずねると――

「今朝、冒険者だという、見かけない男が現れてな。コレを修理してくれ――そう言ってきたんだ」
 オヤジは、これがニセモノだとすぐに気づいた。それで、その冒険者にどこで手にいればものか聞いたのだけど、その人物は知人からゆずり受けた――そう言っていたらしい。

「つまり、どこで作られたかわからない――ということかぁ」

 うーん……と、みんなうなってしまう。

「間違いなく言えることは、これは王都で作られたモノではないということだな」
 ボムさんの考えに、アリシアは「どうしてですか?」とたずねる。

「カンタンだ。王都で魔盾――魔石を盾に取り付けて、魔石に封じ込めた魔法を発動させる盾を作れるのは、おかしら――ヒロトさんしかいないんだ」

 そういえば――と、アリシアも納得する。

 魔盾を作るには、魔石に『魔物の敵意を引き付ける魔法』を封じ込めることのできる魔導士と、魔石を盾に取り付ける盾職人、二人の召喚人しょうかんびとが必須である。
 魔導士はともかく、召喚人の盾職人は限られている。

「王国にはヒロト君以外、召喚人の盾職人はいないと聞いている。他国で生産職の召喚人がいる国と言えば――」
「帝国――ということですか?」
 ボクがそう確認すると、武具屋のオヤジは「おそらくそうだろう」とうなずく。

 帝国には王国と同じか、それ以上の冒険者がいると聞く。そうとなれば、召喚人の盾職人がいても不思議ではない。

「それだけじゃない――」
 ボクは、工房の棚を見に行った。そして、あるモノを取り出す。

「ふう、よかった。これはある」
 ボクが安堵あんどしていると――
「ヒロト君、それはなんだね?」と武具屋のオヤジはたずねてきた。

「これは、魔盾の図面です」
「魔盾の図面?」
 オヤジが不思議そうな顔をするので、図面の説明をする。

「そうだ! みんな、これを持っている?」
 図面の原本の他に、書き写した図面が全部で五枚あるはず。魔盾作成のため、サムさん、ボブさん、ジャックさん、タバサに渡した四枚。そして、発注用にメルダさんにあずけた一枚だ。

「もちろん、もっているぜ」
 サムさん、ボブさん、ジャックさん、メルダさんの図面はそれぞれすぐに出てきた。
 しかし――

「あれぇ? どこやったっけ?」
 タバサが自分の作業場を探し回るのだが、出てこない。

「――と、いうことは、タバサの図面が盗まれた?」
「どういうこと?」

 ボクはこう説明する。
 いくら粗悪な模造品だとしても、ここまで似せるのは難しい。そうなると、図面の情報が流出したと考えたのだ――

「つまり、タバサの持っていた図面が誰かに盗まれた。それを調べれば――」
 魔盾の情報が流出した経路がわかるということだ。
 しかし――

「お姉ちゃんの図面なら捨てたよ」とタローが言う。

 えっ? 捨てた⁉

「うん。お姉ちゃん、図面の上にケガキ用の墨をこぼしちゃったんだ。だから、図面が読めなくなって――捨てろっていうから、ボクがビリビリに破って捨てたんだ」

 ――えっ?

「そういえば、そうだった。ハ、ハ、ハ!」とタバサ。

 ハ、ハ、ハじゃねえよ。
 だけど、どうやら、その線で情報が流失したわけではないということだな――

 そうなると、いったい、どこから?

 その時、工房の外がさわがしくなる。
 何事かと思っていると、工房の入口が開いた。

「メルダという者はいるか?」
 いきなり近衛兵が入ってくると、そんなことを言ってくるので、メルダさんは、「私ですが――」と応える。

「オマエに、ある疑いがかけられている。ついてこい」

「――えっ?」
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