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第二章 盾職人は異世界の起業家となる

第51話 尾行となる

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「ヒロトさん、何をつくっているのですか?」

 ボクとアリシアが仲直りして――っていうか、ボクが一人で勝手に嫉妬して、勝手にウダウダしていただけなんだけど……翌日、ボクは工房の端っこである作業をしていた。
 アリシアがそんなボクを見つけ、声をかけてきたのだ。

「ん? ああ、実はアーノルドさんから新しい盾の注文が入ったんだ」

 ケルベロス討伐に使用した超合金オリハルコン製の魔盾まじゅんは、討伐成功の記念として王宮へ納められた。なので、アーノルドさんから新たな盾を作ってほしいという依頼があったのだ。

「そうなんですね。それにしてもずいぶんと小さいんですね?」
 ボクの手元にあるをアリシアがのぞき込みながらそう質問する。
 彼女が不思議に思っても仕方ない。ボクが手にしているモノの大きさは、ちょうど手のひらと同じくらい。さすがに、盾としては使いモノにならない。

「ああ、これはレプリカなんだよ。『アイギス』の」
「アイギス……ですか?」

 よくわからない――という表情だったので、ボクはアイギスの説明をする。


「アイギスはギリシャ神話に登場する、鍛冶の神が作ったとされる盾なんだ」

 鏡のような表面ですべての厄災や呪いを跳ね返すとされ、勇者ペルセウスが怪物メデューサを討伐する時、手にしていたと言われている。

「この世界では、すべての魔法を跳ね返すチカラがあるらしい。特に、人間では防ぐことができない魔族の闇魔法をこの盾は防ぐことができるんだ」

 フーベル地方を王国が奪還し魔族領と接した現在、魔族との戦いは今後増えてくる。そうなれば、この盾がこれから活躍することになるだろう――そういうことで、アーノルドさんが注文したのだ。

金剛鋼アダマンタイトという希少な金属が必要だったんだけど、アーノルドさんが探してきてくれてね。さっそく試作したんだ」

 途中までは超合金オリハルコンの盾と同じ製法なのだが、最後に、鏡面に仕上げたアダマンタイトをはめ込む作業がある。そして、ちょうどそれが終わったところだった。

「本物の十分の一というレプリカなんだけど、魔法を跳ね返すチカラは本物と同じはずだよ」
 そう言って、アリシアに出来上がったばかりのレプリカを見せる。

「うわぁ、表面が鏡のようでキレイです!」
 そういう、彼女の目もキラキラと輝いていた。

「うん。本物を作る前に製法の確認がしたくてこれを作ったんだけど、思ったよりもうまくできたんでね。せっかくだから、これに腕輪を付けて――ほら!」

 ボクは左手にアイギスのレプリカを取り付けた腕輪をはめた。

「どう?」
「はい、カッコイイです!」
 そんなことを言われて、なんか照れくさくなった。

 その時、メルダさんが近づいてきて――
「ヒロトさん、これから武具屋へ商品を納品してきます」
 そう声をかけてくる。

「うん、行ってらっしゃい。気を付けて」
 ボクが返事をすると、赤毛の少女は一礼する。そのまま、工房の出口へと向かった。

 すると、アリシアが怪訝けげんな表情で彼女を見ていたので、ちょっと不思議に思う。

「アリシア? なんか、気になることがあるの?」
「えっ? いや、えーと……実は……」
 彼女は耳元で、ボクにあることをささやいた――

「えっ? 魔族⁉」
「ヒ、ヒロトさん、ちょっと、声が大きいです」

 ゴメンとつぶやいたあと、詳しく話を聞いてみる。

 それは、昨日――タローとサリアにお使いと頼んだ時のこと。
「途中で二人はメルダさんを見かけたらしいのですが、いきなり路地裏に隠れたので、不思議に思ってこっそりついていったらしいのです。そしたら――」

「……えっ? それって――」

 二人の話では、メルダが知らない男性と会っていたとのこと。問題はその男性の容姿。メルダさんと同じ、真っ赤な髪――それだけなら、めずらしい髪の色ですまされるだろう。しかし、肌は赤茶けていて、耳はロバのようにとがっており、下あごから大きな牙が見えていた――と言う。
 さすがにそれは……

「とても人間の容姿ではないですよね? 亜人とも違うので――」
「だから、魔族ではないかと――」

 子供が言っていることだから、どこまで信じてイイかわからない。だけど、しっかり者の二人なので、見間違いやウソを言っているようにも思えない。それに――

「実はボク、アーノルドさんから聞いていたんだ。メルダさんの赤い髪。フーベル地方奪還作戦で戦った魔族軍の髪の色と同じだったと――」
「そう……なんですか?」

 メルダさんが身の上を話さないことも気になるし――

「ボク、ちょっと出てくる――」
 そう言って、工房の外に出たところで、アリシアも追いかけてきた。

「ヒロトさん、メルダさんを尾行するのですよね?」
 さすがに、この流れではわかってしまったようだ。

「本当に魔族が関係しているなら危ないよ。アリシアは戻って」
 そう言うのだけど、アリシアは「考えがあります」と、ボクに魔法をかけた。

「これって――」
「姿を消す魔法です。これで尾行しましょう」

 そういえば、そんな魔法があると彼女から聞いたことがある。なるほど、これは尾行するのにちょうどイイ。

 ボクたちは、荷車を引っ張るメルダさんのあとを追った。
 武具屋まではあやしいところはなく、商品の盾を卸すと、引き返してくる。

 結局、王宮近くまでもどってきた。

「はあ、なにもなかったね」
 取り越し苦労だった――そう思っていたところで、アリシアがボクの背中をトントンと軽くたたく。
「ヒロトさん、なにかおかしいです」

 彼女がそう言うので、メルダさんを見る。たしかに不審な動きを見せている。荷車を止めて、辺りを見回していたのだ。
 そして、荷車を道の端に止めると、そのまま路地へ入っていく。

「行きましょう」とアリシアが言うので、「う、うん」とボクは生返事をする。
 路地の奥に入ると、メルダさんの声が聞こえてきた。

「もう来ないでと言ったでしょ?」
「しかし、キミのことが心配なんだ」
 男の声だった。ボクはそーっとのぞいてみる。その男性の容姿は――

 赤茶けた肌に、とがった耳、そして下あごから突き出した牙――

「ヒロトさん、あの人――」
「ああ。間違いなく、魔族だ――」
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