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第二章 盾職人は異世界の起業家となる

第48話 「クビにしてください!」となる

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「ごめんなさい! ごめんなさい! 本当に、ごめんなさい!」

 何かが割れる音がしたあと、今度はひたすらあやまる声が聞こえてきた。

 慌ててダイニングに行ってみると――

「ヒ、ヒロトさん! ごめんなさい! 大切なお皿を割ってしまいました!」
 何度も頭を下げるメイド服の少女――マリーさんの姿があった。

 大切な――って、市場で買ってきた銅貨五枚くらいのお皿なんですけど――そんな、大げさに謝らなくても……
 ボクは苦笑いする。

「マリーさん、おケガはないですか?」
 アリシアもこの騒ぎでこちらにやって来た。
「ごめんなさい! ケガはないです。 ごめんなさい!」
 やはり、何度も頭を下げるマリーさん。

「それはなによりです。ここは私たちで片付けますので、タローとサリアも手伝ってもらえる?」
「はーい」と声をそろえる子供たち。うーん、マリーさんよりしっかりしている。

「いえ! 私がやったことですから、私が片付けます!」
 小走りでモップを取りに行くと、急いで戻ってきた。

「ごめんなさい! 私が――きゃあ!」
 慌てているから、足がもつれて床へダイビング!
 持っていたモップを放り投げてしまう。それが、運悪くタローの後頭部に直撃!

「うわーん‼」

 いくら、しっかり者のタローでも、さすがにびっくりして大泣きしてしまう。

「うわぁ! ごめんなさい! うわぁぁぁぁん!」
 今度は加害者のマリーさんまで、泣き出す。
 うーん。なんなんだ? このカオスな状況は……

 執事長さんは「とても優秀なメイドをお付けします」と言っていたんだけどなあ……

 アリシアはタローの頭をでてあげながら、「ココは私たちで片付けるので、マリーさんは洗濯をお願いできますか?」と伝える。

「わ、わかりましたぁ――ごめんなさい」
 涙を拭きながら、彼女は外に向かっていった。

 ボクは床に転がっていたモップを手に取ると、散らばった皿の破片を寄せ集める。サリアがチリトリを持ってきたので、それを入れる。
「タローは大丈夫?」
 ボクがそう言うと、タローは「だいじょうぶ」と応える。
「コブもできていないし、ビックリしただけみたいですね」
 アリシアもホッとした表情を見せる。

「あとは私たちがやりますので、ヒロトさんはお仕事に戻ってください」
 そう言うので、お言葉に甘える。

 まいったなあ……アリシアの負担が減るように――と思って使用人を雇ったのだけど、なんかやることが増えてしまったような……

 ボクは頭をいた。

 だが、これで終わりではなかった――

 頼んでいた洗濯は、おけの水を被って、マリーさんが水びだしになってしまい、ボクがお風呂の準備をすることに――
 昼食の準備でも、調理中、包丁で自分の指を切ってしまい、アリシアが手当てすることに――

 ということで、マリーさんはやることなすこと、トラブルになってしまう。
「一生懸命なのはうれしいのですが――」とさすがにアリシアも困った顔を見せた。

「あのう……ちょっとイイですか?」
 昼食のあと、メイド服のマリーさんが、思い詰めた顔でボクたちの前に現れたので、「それでは――」とダイニングに残り、話を聞くことにした。

「そのう――私をクビにしてください……」
「――はあ」とボクは気の抜けた返事をしてしまう。

「これ以上、ご迷惑をおかけできません。やっぱり、両親が言うとおり、さっさとお嫁に行くべきでした――」

 マリーさんがそんなことを言うので、向かいに座ったボクとアリシアは互いの顔を見合わせる。

「あのう、よかったら事情を話していただけません?」

 マリーさんの話はこうだった。

 彼女は名門、アウグスト家の三女なのだそうで、小さい頃から何をやってもダメで、両親や兄弟からもあきれられていたらしい。

 そんな彼女も年ごろとなり、結婚の話が出てくるようになった。だけど、「このままお嫁に行ってしまったら、なにも自信が持てないままになってしまう――」そう考え、姉たちのように自分もメイドとして王宮で働きたいと懇願したそうだ。

 王家の人たちにご迷惑をおかけしたら大変だと、両親から強く反対されたらしいが、婚約者側の「彼女が納得するまで、やらせてあげてほしい」という後押しもあり、こうして、王宮に上がったらしい。

「ですけと、やっぱりダメでした。こうして、みなさまにご迷惑をおかけしてばかりで――両親の言う通り、だまってお嫁に行くべきした」

 マリーは涙を流しながら、「ごめんなさい」と頭を下げ続ける。

「はあ……」
 ボクはアリシアの顔を見た。彼女はなにか言いたそうだったので……
 ボクはため息をつく。まあ、そういうことだよね?

「本当に辞めたい?」
「――えっ?」

 ボクの質問に、マリーがビックリした表情でこちらを見るので、ボクは頭を掻きながら――
「この仕事がイヤなら、それでもイイけど――」
「そ、そんなことはありません!」
 彼女はそう声を張り上げる。

「できることなら、もっとがんばりたいです! ココの人はみんなイイ人ばかりだし、タロー君、サリアちゃんとも仲良くしたいです! ですけど――」
「だったら、もうすこしがんばってみない?」
「――えっ?」

 なんか、うまく言えないけど――迷惑をかけるから辞めるというのは、間違っていると思う。この仕事がイヤだというなら仕方ないけど、自分からあきらめる必要なないのだ。

 そう伝えると――

「本当に、イイんですか?」
 ボクは「もちろん!」と応える。アリシアも――
「一緒にがんばりましょ? 少しずつ仕事を覚えればイイのですから」

 ボクもアリシアも、ほんの一カ月前まで仕事がなくて苦労していたんだ。だから、彼女の気持ちはわかる。がんばっても評価されない、そのつらさを――
 そんなとき、ボクたちもいろいろな人たちに助けてもらった。だから、今がある。
 今度はボクたちがそういう人たちを助ける番なんだ。

 そのとき、扉をたたく音が――
「どうぞ――」と応えると、王室執事長が真っ青な顔をして入ってきた。

「ヒロトさん! 本当に申し訳ありません!」
 いったい、どうしたのかとたずねると――
「実は、こちらの手違いで、別の使用人を寄越してしまいました!」

 マリー・アウグストというメイドがもう一人いるそうで、本来、ベテランの人が来るはずだったらしい。だけど、連絡ミスで、こっちのマリーさんが来てしまったのだと言う。

「明日から、本来の人を来させますので、どうかお許しを!」
 執事長がそうあやまる。

 ボクとアリシアは顔を見合わせ、笑った。

「執事長、ボクたちはこちらのマリーさんと正式に契約したいと思います」
「――えっ?」

 執事長とマリーさんは同時に驚く。
「いや、しかし――」

「ダメでしょうか?」
 アリシアの質問に、執事長は「いや、ダメということはないですが――」と応えるので――

「それじゃ、決まりだね! マリーさん、これからもよろしく!」

 まだ、半信半疑な表情を見せるマリーさんだったが、アリシアも「がんばりましょう!」と励ますので、彼女の表情が明るくなった。

「はい! がんばります!」
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