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第二章 盾職人は異世界の起業家となる

第39話 お頭(かしら)となる

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 昼食のあと、ボクは武具屋へ向かった。工房を引っ越したので、その連絡である。

「オヤジさん、こんにちは。今日は連絡があってきました」
「ヒロト君! ちょうどイイ時に来てくれた!」
「――えっ?」

 武具屋に入ると、イカツイ顔の男たちがボクを囲んだ。
「オマエがヒロトか?」
「えーと……あなた方は?」

 人数は三人。カラダも大きい。そんな男たちがボクをにらむので、命の危険さえ感じてしまう。
「話がある――」
 そう言うので、ボクは息を飲んだ。身なりから現地人げんちびとの職人のようだが、いったい、何の用だ?
 彼らににらまれるようなことをした記憶はない。そもそも、彼らは誰だ?

 すると突然、三人が床に座った。
「――えっ?」
 そして土下座する。

 な、何が起きているんだぁ⁉

「たのむ! オレたちに魔盾まじゅんの作り方を教えてくれ!」
「――へっ?」

 とりあえず彼らを立たせて、話を聞くことに――

 彼らは現地人の盾職人なんだとか。やはり、冒険者の間で広まった魔盾ブームで、普通の盾が売れなくなり、このままでは廃業しなければならない――というところまで、追い込まれてしまっていた。

「そしたら、タバサがオマエに弟子入りしたと言うじゃないか⁉ ならオレたちも――ということになったんだ」

 しかし、前の工房に行ったら、すでに。慌てて、武具屋にボクの所在をたずねに来たらしい。

「たのむ! 俺たちもオマエの……いや、ヒロト名人のところで働かせてくれ!」
「ボクのところで働かせてくれって……まいったなぁ……」

 自分より一回り以上年配と思われる人にそう言われても……と、ボクは頭を抱えた。

「ヒロト君、ウチからもたのむ。魔盾の引き合いが増えていくばっかりなんだ。ニセモノも出まわって、みんな混乱しているんだよ」
「えっ? ニセモノ⁉」

 需要に対し供給が極端に不足すると、ニセモノが現れ、ホンモノの評判まで落ちてしまう――そういう事態になりかねない。
 供給が安定して適正価格にならないと、今後もっと大変な騒ぎになってしまうだろう――武具屋のオヤジはそれを懸念しているという。

「うん、そういうことならわかりました。みなさんに盾作りをお願いします」
 ボクがそう応えると、三人は喜んで互いの肩をたたき合っていた。

「だけど、ボクが満足できる盾でなければ受け取らない。それでイイですか?」
 三人ともそれでイイと言う。
「まかせとけ! ちゃんとした材料さえあれば、オレたちだって、イイ盾を作れるさ!」
「ああ! タバサが作る盾よりもイイモノを作ってやるだ!」

 タバサより……と言われて、期待してイイのか、その程度なのかと落胆したほうがイイのか……いったい、どっちなんだろう――と、ボクは苦笑いするのだった。

「それで、ヒロト君の工房はどこに行ったんだ?」
 武具屋のオヤジに言われて「そうだった」と、もともとの用事を思い出す。

「オヤジさん。これを」
 ボクは王宮内の工房入出許可証を渡した。
「ヒロト君! 王室のお抱え職人になったのかね⁉」
 武具屋のオヤジは目を丸くする。盾職人の三人も慌てた。

「王宮の中だなんて、オレたち入れないんじゃ……」
 そこは、ボクが交渉すると伝える。

「王宮だといっても、敷地のすみっこだし、王室の人が住む宮殿とは別の建屋だから……」
 武具屋のオヤジのように、入出許可証を発行してもらえるはずだ。

「おかしら、わかりましたぜ」
「お頭⁉」
「おうよ! オレたちの雇い主なんだから、これからは『お頭』と呼ばしてもらいます」
「は、はあ……」

 また、新しい呼び名が増えてしまった……
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