上 下
32 / 60
第二章 盾職人は異世界の起業家となる

第32話 ここの工房もそろそろ手狭だな……となる

しおりを挟む
 エルフの女の子、アリシアと同居生活が始まってそろそろ一カ月が経過する。
 その間にボクの生活は大きく変わった。

 アスタリア大陸に召喚され、盾職人として生計を立てていたボクは、商品が売れず、その日の食料を買うおカネを工面することでさえ苦労する日々だった。

 そんなの時にアリシアを出会った。
 彼女は強化魔法が得意だったけど、戦闘が苦手。魔法研究所を追い出されてからは、一文無しだった。

 似たような境遇だった二人は、一緒にこの困難を乗り越えようと思うようになる。

 そんな時に、ある策を思い付くのだった。

 彼女が使える『魔物の敵意を引き付ける魔法』を魔石に封じ込めて、それを盾に取り付ける。
 こうしてできた『魔盾まじゅん』は驚くような効果だった。

 スタンピードが発生する偶然もあったのだけど、それで評判が広がり、魔盾が飛ぶように売れるのである。

 それでブルームハルト侯爵に目を付けられ、王都にいられなくなりそうだったところをお得意様である勇者パーティーのタンク役、アーノルドさんに助けられた。
 彼はなんとウィルハース国王陛下にボクたちの保護を頼んだのだ!

 ボクたちは陛下の孫にあたるシャルロット殿下のお披露目会に呼ばれて、そこで『名人マイスター』の称号までもらった。これは王族のお墨付き職人という意味でもあり、準貴族としての地位もいただいたことになる。

 それによって、侯爵もおいそれとボクたちに嫌がらせができなくなった。

 ほぼ毎日のように訪れるシャルロット殿下には、いろいろと振り回されている。だけど、殿下と一緒にジェシカさんたち騎士団が来てくれる。衛兵もこのあたりを巡回する回数が増えた。おかげで、ヘンな輩から声をかけられる心配もなくなって、助かっている。

 こうして、順調にアリシアとの同居生活も軌道に乗ってきたので――

「工房を引っ越す――のですか?」
 夕飯を食べながら、ボクはアリシアにそう提案した。

「そう。もう充分におカネもまったし、そろそろ広い工房に移ろうと思うのだけど、どうかな?」
 明日にでも不動産屋に行って、良い物件を探そうと話をすると、アリシアも「イイですね」と同意してくれた。
 実のところ、アリシアにいつまでも倉庫で寝泊まりしてもらうわけにはいかない――そう、思っていたところだったのだ。

 ただ、そういう言い方をすると、彼女はきっと「自分に気をつかう必要はない」と断るだろうから、別の理由をつけてみたのである。

「よし! それじゃさっそく明日、物件を探しにいこう!」
「はい!」

 そうとなれば、今日は早く寝て、明日に備えようということに――

「それではヒロトさん、おやすみなさい」
「おやすみなさい」
 いつものように、アリシアは寝室のとなりにある倉庫部屋に入っていった。

 新しい工房を借りられたら、彼女にはちゃんとした部屋を用意できる。
「――でも、そうなると彼女の寝顔をこっそり見に行くこともできなくなるな……」
 そんなことを思って、慌てて頭を振る。
 イヤイヤ、それってダメだろ! 彼女にヘンタイと言われる前にやめないと……

 そんなことを思いながらウトウトしてきた――

「――とさん? ヒロトさん?」
 耳元でささやく声を聞こえ、ボクは目を開けた。すると目の前にカワイイ顔が――
「ア、アリシア⁉」
 慌てるボクに、彼女は口元に人差し指をあてた。
「なんか、工房から物音が聞こえます」
 彼女の長い耳がピクピクと動いていた。
「えっ? それって……」
 ボクが小声で確認すると、彼女は「誰かいます」とやはり小声で応えた。

 つまり、ドロボウ⁉

 ボクは息を飲む。
「わかった、ボクが見てくる」
 そう言って、手元に置いてあったあかり取り用の魔石を持って、工房の入り口まで静かに移動する。アリシアもボクの後ろについてきた。

 扉に耳を付けると、ボクにも物音がわかった。確かに誰かが家探ししているようだ。
 ボクは、うしろにいるアリシアに目で合図する。彼女はうなずいた。

 ボクは扉をバンッ! と開けて、魔石に魔力を込める。工房が照らされた。

「うわっ!」
 そんな声が聞こえる。人影も見えた!
「やべえっ!」
 そう言って、人影が逃げようとしたので、ボクは「待て!」とさけんで、全力で追いかけ飛びかかる!

 ドタッ!

 相手をしっかり捕まえて、そのまま倒れた!
 ――ん? 頬のあたりに当たっている、とっても柔らかくて、気持ちイイものは――?

「きゃあ! どこを触っているんだよ!」
 乱暴な言葉づかいだが、間違いなく女の子の声だった。と、いうことは――?

「ヒロトさん! 大丈夫ですか⁉」
 アリシアが近寄ってくると、「えっ?」というつぶやきが聞こえる。魔石の明かりで照らされると――

「だから、ヘンなところに顔を押しつけるな! このヘンタイ!」
 そう言って、ボクの顔を手で押す。

 相手の顔を見る。ベリーショートの黒髪に、褐色の肌――の、女の子だった。
 と、いうことは――ボクは飛びかかって、彼女のムネに顔をうずめていたぁ⁉

「えっ? え、えぇぇぇぇ!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界悪霊譚 ~無能な兄に殺され悪霊になってしまったけど、『吸収』で魔力とスキルを集めていたら世界が畏怖しているようです~

テツみン
ファンタジー
『鑑定——』  エリオット・ラングレー  種族 悪霊  HP 測定不能  MP 測定不能  スキル 「鑑定」、「無限収納」、「全属性魔法」、「思念伝達」、「幻影」、「念動力」……他、多数  アビリティ 「吸収」、「咆哮」、「誘眠」、「脱兎」、「猪突」、「貪食」……他、多数 次々と襲ってくる悪霊を『吸収』し、魔力とスキルを獲得した結果、エリオットは各国が恐れるほどの強大なチカラを持つ存在となっていた! だけど、ステータス表をよーーーーっく見てほしい! そう、種族のところを! 彼も悪霊――つまり「死んでいた」のだ! これは、無念の死を遂げたエリオット少年が悪霊となり、復讐を果たす――つもりが、なぜか王国の大惨事に巻き込まれ、救国の英雄となる話………悪霊なんだけどね。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

人気MMOの最恐クランと一緒に異世界へ転移してしまったようなので、ひっそり冒険者生活をしています

テツみン
ファンタジー
 二〇八✕年、一世を風靡したフルダイブ型VRMMO『ユグドラシル』のサービス終了日。  七年ぶりにログインしたユウタは、ユグドラシルの面白さを改めて思い知る。  しかし、『時既に遅し』。サービス終了の二十四時となった。あとは強制ログアウトを待つだけ……  なのにログアウトされない! 視界も変化し、ユウタは狼狽えた。  当てもなく彷徨っていると、亜人の娘、ラミィとフィンに出会う。  そこは都市国家連合。異世界だったのだ!  彼女たちと一緒に冒険者として暮らし始めたユウタは、あるとき、ユグドラシル最恐のPKクラン、『オブト・ア・バウンズ』もこの世界に転移していたことを知る。  彼らに気づかれてはならないと、ユウタは「目立つような行動はせず、ひっそり生きていこう――」そう決意するのだが……  ゲームのアバターのまま異世界へダイブした冴えないサラリーマンが、チートPK野郎の陰に怯えながら『ひっそり』と冒険者生活を送っていた……はずなのに、いつの間にか救国の勇者として、『死ぬほど』苦労する――これは、そんな話。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

ちょいダン? ~仕事帰り、ちょいとダンジョンに寄っていかない?~

テツみン
SF
東京、大手町の地下に突如現れたダンジョン。通称、『ちょいダン』。そこは、仕事帰りに『ちょい』と冒険を楽しむ場所。 大手町周辺の企業で働く若手サラリーマンたちが『ダンジョン』という娯楽を手に入れ、新たなライフスタイルを生み出していく―― これは、そんな日々を綴った物語。

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

処理中です...