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第一章 盾職人は異世界のゲームチェンジャーとなる
第2話 生活困窮者となる
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「ヒロト君、すまないが、盾の在庫がいっぱいでね。今日はいらないや」
「はあ……」
武具屋のオヤジからそう言われ、ボクはガックリする。
アスタリア大陸――いわゆる異世界に召喚されて、あっという間に半年が過ぎた。
盾職人として安定収入を得る――という当初の計画は、もはや風前の灯火になっている。なぜなら――
「最近は、他の盾職人が銀貨一枚ほどで卸してくれるんで……申し訳ないね」
「銀貨一枚……」
それを聞いてまた愕然とする。銀貨一枚では材料費にもならない。つまり、原価割れである。もはや、盾を作れば作るほど赤字になるのだ。
盾職人を選んだことによる誤算――それは、現地人の盾職人がいたということ。あの女神は『召喚人の盾職人は少ないから、競合相手がいない』と言っていた。たしかに召喚人の盾職人はこの王都にボクひとりしかいない。しかし、現地人の盾職人はいくらでもいたのだ。
「ヒロト君の盾は品質がイイのだけど、やっぱり、安い盾をみんな買っていくんだよね」
「はあ……」とボクはため息まじりの返事をする。
盾は消耗品なので、多少品質は悪くても安いモノで充分――という冒険者が多いのだ。それに――
「最近は腕のイイ召喚人の職人が増えたことで、性能の高い剣や防具が手に入りやすくなったんだ。だから、盾を持って戦う冒険者が減っていてね……」
剣の性能で魔物を素早く倒せるし、防具だけで相手の攻撃を充分防げる。わざわざ、重い盾を持って戦う必要はないらしい。
武具屋のオヤジに、「今日は持って帰ってくれ」と言われる。しぶしぶ売れなかった盾をまた荷車に乗せた。
すると、すれ違いに武具屋へ入ってくる人影が――
「オヤジ! この防具を買い取ってくれ!」
聞き覚えのある声だった。
「これはこれは、マサヒコさん。魔法銀の甲冑ですね。わかりました」
ボクの時とは手のひらを返したように、腰を低くして男から渡された防具を受け取っている。
「ん? なんだぁ? 盾職人のヒロトじゃないかぁ? まだ、廃業していなかったのかよ?」
ボクに気づくと、マサヒコと呼ばれた人物は、顎を突き出し薄ら笑みを浮かべた。
「マサヒコさまぁ? この人だれですかぁ?」
マサヒコの左腕に抱きついた、派手な赤とショッキングピンクのドレスを着た金髪の女性がボクのほうをチラっと見ると、甘ったるい声でそうたずねている。
「ああ、こいつもオレと同じ召喚人さ。だが、コイツは出遅れ組でな。しかも、安い盾しか作れない残念なヤツさ」
そうあざ笑う相手に、ボクは何も言えない。
ボクを『出遅れ組』と言うこの男、同じ日本からの召喚人で、日本にいた時の名前は鳥海マサヒコ。ボクより年下で、日本では浪人生だったらしい。地球規模で発生している『若者行方不明多発事件』初期にこちらへ召喚された、いわゆる『先行組』のひとりである。そのときに、防具職人のスキルを手に入れたようだ。
初めて会った時から、先行組であることを鼻にかけ、マウントを取ってくるイヤなヤツだった。
「あれえ? この盾、売れ残りかぁ? なんなら、オレが買ってやろうか? カネならたくさん持っているから、少しくらい恵んでもイイぞ。まあ、こんな鉄クズ、使い道がないけどな」
ハ、ハ、ハァ!
そう、高笑いされた。
無視しようと思ったのだが、さすがにそこまで言われて、黙っていられなくなる。
「マサヒコ、さっきの防具、形がいびつになっていたぞ。いつも、女と遊んでいるから腕が落ちたんじゃないか?」
そう言ってやると、マサヒコは顔を真っ赤にして、怒り出す。
「はあ? オレを誰だと思っている? ブルームハルト侯爵お抱えの防具職人、マサヒコ・チョウカイ様だぞ! アレだって、ちょっと失敗しただけで、性能としては充分さ。だから、武具屋も高く買ってくれる。売れない盾をシコシコ作っているオマエとは違うんだよ!」
そう言うが、『腕が落ちた』という部分は否定してこない。
「ボクたちは職人だぞ。いくら高レベルでも、腕が落ちたら誰も買ってくれなくなるぞ」
「うるせえ! 盾しか作れねえヤツに言われてたくないわ! だいいち、生産系はお得意様がいて、強力なうしろ盾がいれば勝ち組なんだよ! それで、女の子とイチャイチャしながらスローライフを楽しむ。生産系っていうのはそういうもんだろ?」
たしかに、そんなラノベが多かった気がする。だけど――
「ココをゲームやラノベと勘違いしていないか? 異世界といっても現実なんだぞ」
ラノベのように都合がイイことばかり続くわけではない。しっかり、努力を続けなければ――
いや、ラノベの世界だって、生産系の主人公はみんな自分の職にほこりを持って努力を続けていた。だから、みんな主人公に好意を持っていたのだ。なのに、マサヒコはカネ稼ぎの手段としか思っていない。それでは、いざというときに誰も助けてくれなくなってしまう。
「エラそうなことを言っているんじゃねえ! この出遅れ組がぁ!」
マサヒコは荷台に乗せた盾を何枚かつかむと、それを地面に放り投げた!
「ゴメン、手がすべった」と大笑いする。
「おい、ふざけるな! 拾えよ!」
ボクは相手の襟元をつかんで文句を言うと――
「おいおい、イイのか? 侯爵お抱え職人のオレを殴ったら、オマエ、王都にいられなくなるぞ?」
「――くっ」
相手を離すと、ボクは黙って散らばった盾を拾い上げる。
「そうそう、底辺職人はそうやって、地べたを這いつくばっているのがお似合いなんだよ」
「マサヒコさまぁ、そろそろ行きません? ワタシぃ、おいしいモノが食べたいなぁ?」
オンナの甘ったるい声に、「そうだな。こんなヤツに付き合っている時間がもったいないな」と笑う。そのまま、繁華街方向へと歩いて行った。
腹立たしい気持ちを押さえて、荷車に盾を乗せると自分の工房へ向かう。
結局、銅貨一枚でさえ手に入れられていない。
「はあ……とにかく、今日食べる分のおカネだけでもなんとかしなければ……」
「はあ……」
武具屋のオヤジからそう言われ、ボクはガックリする。
アスタリア大陸――いわゆる異世界に召喚されて、あっという間に半年が過ぎた。
盾職人として安定収入を得る――という当初の計画は、もはや風前の灯火になっている。なぜなら――
「最近は、他の盾職人が銀貨一枚ほどで卸してくれるんで……申し訳ないね」
「銀貨一枚……」
それを聞いてまた愕然とする。銀貨一枚では材料費にもならない。つまり、原価割れである。もはや、盾を作れば作るほど赤字になるのだ。
盾職人を選んだことによる誤算――それは、現地人の盾職人がいたということ。あの女神は『召喚人の盾職人は少ないから、競合相手がいない』と言っていた。たしかに召喚人の盾職人はこの王都にボクひとりしかいない。しかし、現地人の盾職人はいくらでもいたのだ。
「ヒロト君の盾は品質がイイのだけど、やっぱり、安い盾をみんな買っていくんだよね」
「はあ……」とボクはため息まじりの返事をする。
盾は消耗品なので、多少品質は悪くても安いモノで充分――という冒険者が多いのだ。それに――
「最近は腕のイイ召喚人の職人が増えたことで、性能の高い剣や防具が手に入りやすくなったんだ。だから、盾を持って戦う冒険者が減っていてね……」
剣の性能で魔物を素早く倒せるし、防具だけで相手の攻撃を充分防げる。わざわざ、重い盾を持って戦う必要はないらしい。
武具屋のオヤジに、「今日は持って帰ってくれ」と言われる。しぶしぶ売れなかった盾をまた荷車に乗せた。
すると、すれ違いに武具屋へ入ってくる人影が――
「オヤジ! この防具を買い取ってくれ!」
聞き覚えのある声だった。
「これはこれは、マサヒコさん。魔法銀の甲冑ですね。わかりました」
ボクの時とは手のひらを返したように、腰を低くして男から渡された防具を受け取っている。
「ん? なんだぁ? 盾職人のヒロトじゃないかぁ? まだ、廃業していなかったのかよ?」
ボクに気づくと、マサヒコと呼ばれた人物は、顎を突き出し薄ら笑みを浮かべた。
「マサヒコさまぁ? この人だれですかぁ?」
マサヒコの左腕に抱きついた、派手な赤とショッキングピンクのドレスを着た金髪の女性がボクのほうをチラっと見ると、甘ったるい声でそうたずねている。
「ああ、こいつもオレと同じ召喚人さ。だが、コイツは出遅れ組でな。しかも、安い盾しか作れない残念なヤツさ」
そうあざ笑う相手に、ボクは何も言えない。
ボクを『出遅れ組』と言うこの男、同じ日本からの召喚人で、日本にいた時の名前は鳥海マサヒコ。ボクより年下で、日本では浪人生だったらしい。地球規模で発生している『若者行方不明多発事件』初期にこちらへ召喚された、いわゆる『先行組』のひとりである。そのときに、防具職人のスキルを手に入れたようだ。
初めて会った時から、先行組であることを鼻にかけ、マウントを取ってくるイヤなヤツだった。
「あれえ? この盾、売れ残りかぁ? なんなら、オレが買ってやろうか? カネならたくさん持っているから、少しくらい恵んでもイイぞ。まあ、こんな鉄クズ、使い道がないけどな」
ハ、ハ、ハァ!
そう、高笑いされた。
無視しようと思ったのだが、さすがにそこまで言われて、黙っていられなくなる。
「マサヒコ、さっきの防具、形がいびつになっていたぞ。いつも、女と遊んでいるから腕が落ちたんじゃないか?」
そう言ってやると、マサヒコは顔を真っ赤にして、怒り出す。
「はあ? オレを誰だと思っている? ブルームハルト侯爵お抱えの防具職人、マサヒコ・チョウカイ様だぞ! アレだって、ちょっと失敗しただけで、性能としては充分さ。だから、武具屋も高く買ってくれる。売れない盾をシコシコ作っているオマエとは違うんだよ!」
そう言うが、『腕が落ちた』という部分は否定してこない。
「ボクたちは職人だぞ。いくら高レベルでも、腕が落ちたら誰も買ってくれなくなるぞ」
「うるせえ! 盾しか作れねえヤツに言われてたくないわ! だいいち、生産系はお得意様がいて、強力なうしろ盾がいれば勝ち組なんだよ! それで、女の子とイチャイチャしながらスローライフを楽しむ。生産系っていうのはそういうもんだろ?」
たしかに、そんなラノベが多かった気がする。だけど――
「ココをゲームやラノベと勘違いしていないか? 異世界といっても現実なんだぞ」
ラノベのように都合がイイことばかり続くわけではない。しっかり、努力を続けなければ――
いや、ラノベの世界だって、生産系の主人公はみんな自分の職にほこりを持って努力を続けていた。だから、みんな主人公に好意を持っていたのだ。なのに、マサヒコはカネ稼ぎの手段としか思っていない。それでは、いざというときに誰も助けてくれなくなってしまう。
「エラそうなことを言っているんじゃねえ! この出遅れ組がぁ!」
マサヒコは荷台に乗せた盾を何枚かつかむと、それを地面に放り投げた!
「ゴメン、手がすべった」と大笑いする。
「おい、ふざけるな! 拾えよ!」
ボクは相手の襟元をつかんで文句を言うと――
「おいおい、イイのか? 侯爵お抱え職人のオレを殴ったら、オマエ、王都にいられなくなるぞ?」
「――くっ」
相手を離すと、ボクは黙って散らばった盾を拾い上げる。
「そうそう、底辺職人はそうやって、地べたを這いつくばっているのがお似合いなんだよ」
「マサヒコさまぁ、そろそろ行きません? ワタシぃ、おいしいモノが食べたいなぁ?」
オンナの甘ったるい声に、「そうだな。こんなヤツに付き合っている時間がもったいないな」と笑う。そのまま、繁華街方向へと歩いて行った。
腹立たしい気持ちを押さえて、荷車に盾を乗せると自分の工房へ向かう。
結局、銅貨一枚でさえ手に入れられていない。
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