落ちこぼれ盾職人は異世界のゲームチェンジャーとなる ～エルフ♀と同居しました。安定収入も得たのでスローライフを満喫します～

第一章 盾職人は異世界のゲームチェンジャーとなる

第9話 ダンジョンへ――となる

　ダンジョンに入るには、入場許可を冒険者ギルドからもらう必要がある。

　アリシアの体力が戻るまでの間、ボクはギルドに行って、二人分の入場許可をもらってきた。

「アリシアさん、本当にもう大丈夫？」
「はい。おかげで、すっかり元気になりました」
　そう言って、チカラこぶを作ってみせるアリシア。

「それよりも、乗合馬車を使ってイイのですか？」

　王都の城門から最も近いダンジョン、ウィルハース渓谷までは歩くと二時間くらいかかる。馬車で三十分くらいだ。馬車は一人銀貨一枚かかるので、経費を浮かせたい冒険者は往復歩くのだが、馬車のほうがやはり早い。

「うん。歩いている時間分を狩りに回せば、その分もうけが出るでしょ？」
　銀貨一枚で一時間半、余計に狩りができる。その間にゴブリン一匹を倒して魔石を手に入れられればモトが取れる計算だ。

「確かにそうなんですけど……」
　まだ一度も魔物を狩ったことがないアリシアは、自分が役に立つのか心配のようだ。
「きっと大丈夫だよ。コイツさえあればね」
　そう言って、魔石を装着した盾をたたいた。
「はい！　私もがんばります！」

　乗合馬車の停留所は市場のとなり。つまり、王都で一番の繁華街になっている。
　ボクたちが馬車を待っていると、声を掛けてくるヤツが――

「あれぇ？　ヒロトじゃないか？　なんだ、そのカッコウ？　ついに盾職人を廃業して、冒険者になったのかぁ？」
　バカにした言い方――防具職人のマサヒコだった。
　また、派手な服の女性を連れている。だけど、前に会った時の女性とは別人だった。

　アリシアが怪訝けげんな表情を見せて――
「ヒロトさん、どなたですか？」とたずねる。
　ボクが応える前に、マサヒコが反応した。

「ん？　あれぇ？　ヒロトが女を連れている？　しかもエルフじゃん！　スゲえ！　キミ、名前は何て言うの？」
　マサヒコがアリシアに言い寄るので、彼女が怖がって、ボクの後ろにかくれた。

「ねえねえ、そんな貧乏人なんかとつるんでないで、オレと遊ばない？　これから、カジノに行くんだけどさぁ」
　そう言って彼女の腕をつかもうとしてきたので、ボクが払いのける。

「彼女が怖がっているだろ？」
　そう言うと、マサヒコがにらみつけてきた。

「あんだとぉ？　おい、貧乏人。カネもないのに女の子と仲良くしようなんて、一万年早えんだよ！　なあ、キミもこんなヤツより、オレと遊びたいよなあ？」
　マサヒコが再び、アリシアに顔を近づけてくるのだけど――

「わ、私はこれからヒロトさんと一緒にダンジョンに行って、ヒロトさんの作った盾の性能を確認するんです」
　彼女はおびえながらも、そう応える。

「はあ？　何を言っているのさ。盾の性能？　いくら頑張っても鉄クズは鉄クズだろ？　何の役に立つってんだよ？」
　マサヒコがそう笑うと――
「そんなことありません！」

　アリシアが大声を出すので、停留所に集まっていた人が一斉にこっちを見た。

「そんなことありません。これから、ヒロトさんの盾を誰もがほしがるようになるんです！」
「おいおい、そんなわけないだろ？　底辺職人は一生、底辺なんだって！」

「アナタが誰だか知りませんが、昼間から遊んでいる人に、ヒロトさんは絶対に負けません！」

　アリシアがこんなに強い口調でしゃべっているのを始めて聞いた。その表情も、いつもやさしい笑顔を見せている彼女とは思えないくらい、激しく怒りのこもったモノだった――

　さすがに彼女の気迫に負けたのか――
「な、なんだよ。カワイイと思って声をかけてあげたのに――」とマサヒコは顔を背ける。

「はっ！　所詮しょせん、亜人は亜人だな！　そうやって、貧乏人とくっついてるのがお似合いだよ！」
　最後にそんな捨てセリフを吐はいて、離れていった。

　召喚人しょうかんびとのマサヒコまで、彼女を亜人と呼ぶなんて――

「おい！　オマエ！」

　追いかけようとするボクの腕をつかんで、彼女が頭を横に振る。

「ヒロトさん、イイんです。もうやめましょ？」
「アリシア――」
　彼女の手が震えていた。きっと、スゴく怖かったのだろう――

「そのう、ゴメン。イヤな思いさせちゃって――」

　ボクは、マサヒコのことを説明した。

「アイツ、自分がブルームハルト侯爵のお抱えだからって、やりたい放題なんだ」
「そ、そうですか……侯爵の……」

　侯爵――という言葉をボクが口にした時、なんかおびえた表情を彼女が見せたていた。不思議に思ったのだけど、それをたずねる前に馬車が到着したので、聞きそびれてしまう。

　馬車に乗ってからは、彼女が元気になるように、朝食がおいしかったこととか、市場の屋台で見つけた串焼きがイイ匂いだったから、狩りが成功したら買って帰ろうとか、楽しい話題を出して会話しているうちに、ダンジョンの入り口に到着する。
　そこで許可書を係の人に見せて、早速、中に入った。

「さて、どこがイイかな？」
　ダンジョンは古い鉱山抗跡なのだと聞いたことがある。なので、中は真っ暗だ。盾に魔力を加えると魔石が光って辺りが少し明るくなった。それだけでも便利だ。

「ヒロトさん、それは何ですか？」
　ボクが広げた羊皮紙を見て、アリシアがたずねてきた。
「ああ、これはこのダンジョン一階層の地図なんだ」

　以前、アーノルドさんからもらったモノである。彼はこのダンジョンを十階層まで制覇していた。なので、一階層で狩りをすることはもうない。だから、この地図は用なしなのだそうだ。

「これにはね、一階層で狩りができる場所を書き込んでもらっているんだ」
「へぇ……そうなんですね」
　アリシアが地図をのぞき込もうと、顔を近づけてきたので、思わずドキッとしてしまう。そして、なんかイイ香りもした。女の子って、いつもこんな香りがするのだろうか……

「一階層といっても、ずいぶん広いんですね」
「う、うん。一階層だけでも王都と同じくらいの広さらしいよ」
「そんなに広いんですか？」
　アリシアは目を丸くして驚いている。

「それじゃ、今日は入口から近い、このポイントにしよう！」