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第三話 未曾有の危機は突然やってくるらしい

その八

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 なんてことだ⁉

 明らかに自分たちをかばってフレイムブレスの猛火を避けなかったエル。フィスは愕然とする。


「ワ、ハ、ハ、ハ! 我輩ヲ怒ラセタ報イダ!」

 轟音を鳴り響かせながら燃え盛る青白いフレイムの炎。ゴブリンロードの高笑いはそれ以上に人間達を絶望へ追いやる――

 がっくりと膝を落としたフィス。すべてを燃やし尽くした炎がやっと弱まり、空虚だけが残……
 いや、何かが見える――しだいにそれが人影であるとわかってくる……


「マ……マサカ……ソンナ筈ハ……」

 ゴブリンロードは驚きのあまり、言葉に詰まる。炎が消えると、何事もなかったように涼しい顔をしたエルが立っていた……


「いえ……とっても熱かったです」

 ……地の文に応えないでください。ややこしくなるので。


 エルが生きていたと安堵する気持ちより、驚きが勝ってしまう。

 何故、ケガひとつしていないのか?

 誰もが唖然とする。フィスでさえ、何も言葉が出てこない……


「……エルさんの服は、国宝級のマジックアイテムなのですか?」

 エドワースがフィスにそうたずねた。

「えっ? ……普通の布でエルが作った……はずなんだけど……」

 エル自身もそうなのだが、メイド服も燃えた部分が全くない。フレイム系の魔法は鋼鉄をも溶かす……そう言われるのに……

 
 ――後日のことだが、鑑定のスキルを持つ魔導士にエルのメイド服を見てもらったところ……エルの裁縫スキルの素晴らしさ。なくさないようにと、たまたま服に縫い付けていたジャイアントグローの魔石。そして、エルから溢れ出した魔力を布地と魔石が吸収したことで、メイド服の耐久性が魔法銀ミスリルのチェーンメイル並み上昇している……ということがわかった。

 決して、苦し紛れに思い付いた設定ではない。


「痛いのも、熱いのもいやなので、少し怒りました。反撃します」

 エルはビームを撃つ要領でファイアボールを放つ。他人から見れば無詠唱で杖も使わない、かなり高度な魔法スキルだととらえたはずだ。

 しかし、魔法自体は最下位魔法のファイアボール。本来、どんなに浴びせても、災害級モンスターにダメージを与えられる魔法ではない。まして、今の相手はそれ以上の存在だ。

 ゴブリンロードもエルが放った魔法がファイアボールだとわかると避けようともしない。


「ファイアボール……ダト? 馬鹿ニシテイルノカ⁉」

 そう言って当たった右腕を見て目を剥く。

 肘から先が消え失せていたのだ!

 エルはちょっと納得――という顔をする。

「だんだん、パラメーターの調整がわかってきました……」

 パラメーター?

 この猫娘はなにワケのわからないことを言っているのだ?

 ゴブリンロードが混乱していると、今度は左腕を撃たれて、同じように吹っ飛ぶ。


「チョ……チョット待テ‼ 可笑シイダロ⁉ 何故ファイアボール、ゴトキデ我輩ニ、ダメージヲ与エラレル⁉」

 そう言われてもなあ……

 エルだって今さっき覚えたばかりの魔法である。その威力を知って放っているわけではない。たまたまやってみたらファイアボールだった――だけだ。もっと強力な魔法があるのかもしれないが、他にどんな魔法があるのか? 正直、エル本人がわかっていない……

 もちろん、そんなことを教える義理もないので、無視して今度は胴体を狙う。ファイアボールが貫通してゴブリンロードの胴体に穴が空いた。風穴とはこういうことを言うのだろう――というくらい見事な穴だ。


 おおーっ‼ と、衛兵達から声があがる。これで勝った。そう思った。


 しかし、ゴブリンロードは倒れない。醜い姿になっても、怒りの表情を崩さない。

「コトゴトク、我輩ヲ、馬鹿ニシヤガッテーエッ!」

 ゴブリンロードが再び咆哮すると、体が怪しく輝く!

 それだけでない。穴が空いていた胴体や失った腕が見る見る再生されていくではないか‼ 

 その様子を見た人間は愕然とする。
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