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第二話 世界最高のAIも案外役に立たないらしい
その二
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翌日、早くも相手の陰湿な嫌がらせが始まった。
冒険者組合の出張所から冒険者向けに配っているトルトの推奨お店リストからラクシ亭が削除されたのだ――理由は「冒険者とのトラブルが絶えない店」ということだった。
もちろん、トラブルなんて昨日の件くらいだが、それだけで組合が動くのか?
エル――と、ハーミット――はそれを探るため組合出張所に侵入する。
元々、奇襲型のアンドロイド。侵入調査はお手のモノ……なのかは少し違うような気もするが……とにかく、その身軽さで組合内部に入る。
「侵入しましたけど、これからどうするつもりですか?」
エルはハーミットに質問する。
『もちろん、何か手掛かりになるようなモノを探すのよ』
「……例えばどんな?」
ハーミットから回答がない……
「もしかして、何も考えてなかった?」
『そんなことないって! ほら、例えばメモとか……』
「……メモに目的や理由まで書いてあるとは思いませんが……」
ハーミットはまた黙り込む……
こいつ……本当に人類の英知を結集したスーパーコンピューターなのか?
エルは真剣に悩む。
『待って、なにやら声が聞こえる……』
ハーミットがそう言うのでエルは超指向性ステレオマイクを音のする方向に向ける。どうやら、今いる場所から二つほど先の部屋に誰かが居るようだ。
本来なら雑音に書き消されているほどの音量だが、マイクの性能とスーパーコンピューターによる高度で高速な周波数分解能により、聞き取れるレベルまで復元できている……FBIが聞いたら卒倒しそうな、なんて贅沢なリソースの掛け方だ……
「――勘弁してくださいよ。いくら組合が独立した組織だからって、自治領府に目を付けられたら仕事がやり辛くなるんですからね……」
「そんなこと言わずに、これで最後だからさあ……」
男二人の会話だ。一人はドボルグの取り巻きだっだ男の声で間違いない。もう一人は組合の人間だろうか……
「昨日も同じこと言っていたじゃないですか? もうだめです」
「おいおい、そんなこと言ってもイイのかい? あんたが所長なんて肩書きでいられるのも、うちのボスが推してあげたおかげだってわかってるよなあ?」
「……それってユスリですか?」
「まさか! ただ世の中は恩を仇で返すようなことはしてはいけないということだよな?」
そこからしばらく黙り込む。
「ひとつ聞いて良いですか? なぜ、そんなことまでしてあんな店を陥《おとしい》れなければならないのですか?」
「そんなの知らねえな。俺たちはドボルグに言われてやっているだけだ……」
『なるほど……』
ハーミットが呟く。
『やはり、ここに来て正解だったわ』
「……何かわかったのですか?」
今の会話でいったい何がわかったというのだろう。スーパーコンピューターの解析力が言葉一つ一つの意味からイントネーションまで、この微妙な違いから何か新たな情報を取り出せたのだろうか?
『真相はドボルグだけが知っているようね』
「……」
このポンコツが……エルはため息を吐く。
「最初からドボルグをマークしていれば良かったのでは?」
『ほら、男が出て行くよ。尾行して』
都合が悪くなると話を逸らすのは、スーパーコンピューターの緻密な解析でも有効と判断したようだ。
組合を出ると男が一人で歩いていくのを見付ける。確かに昨日見掛けた男だ。
エルは男の尾行を続けた。
尾行といっても、刑事ドラマのような目視の尾行ではない。赤外線センサーと集音マイクにより百メートルほど離れていても、相手を見失わない。
さすがに衛星画像による追尾はできなくなったが、それでも相手が尾行に気付くことは不可能だろう。
まあ、猫耳メイドという尾行役に最も適していない容姿ではあるのだが……
尾行されているなんて思ってもいない男はとある店に入り込む。何の変哲もない民芸品のお店だ。
エルは店の外から耳だけを近付け、内部の気配を探る――すると男達の会話が聴こえてきた。
「言われた通りにやってきたよ」
「ご苦労」
「さすがに自治領府が怖いってビクビクしてたよ」
「ははは。こんな田舎町に役人がわざわざ来るかよ」
この高笑い。ドボルグに間違いない。
「来たって下っぱの連中だろう。いくらでも口封じできるさ」
「……そろそろ教えてくれよ。あの店に何があるんだ?」
「さあ知らねえな。カネ回りの良いクライアントの依頼とだけ言っておくよ。それ以上、首を突っ込まないほうが身のためさ」
どうやら、黒幕がいるようだ。ドボルグが「クライアント」と称する人物に接触するタイミングを狙おう――とハーミットは言う。
「……一つ聞いて良いですか?」
『何?』
「私達はそれを探ってどうするのですか?」
ハーミットは『まだわからないの?』と言うので、エルは少しムッとする。
『可笑しいでしょ? こんな町の料理屋程度にわざわざちょっかいを出すなんて……きっと、ラクシ亭には何か裏の顔があるのよ』
それが、人類の英知を結集したスーパーコンピューターが導き出した結論だ……どちらかというと推理ドラマ好きのオバサンが考えそうなことだが……
「ただ単に、最近人気な店に嫌がらせして評判を落とそうしている――とかではないのですか?」
『……それにしては、やり方が露骨なのよね。わざと怒らせようとしているとしか思えないの』
言われてみれば……冒険者組合まで巻き込む理由がわからない。
「……そうだとしても、お世話になっているラクシ亭の方々を疑うのは如何なものかと……」
『ダメ! そんな風に相手をすぐに信じてはいけないよ。もしかしたら、裏組織がラクシ亭を通して私達の異世界の知識を狙っているのかもしれない――これは裏組織同士の抗争かもしれないのだから』
いくらなんでも話が飛躍過ぎでは? エルは、暴走するハーミットに気が重くなる……
このあと、一時間ほど見張っていたが、結局ドボルグが外に出る気配は無かった。店の手伝いもあるので、今日は諦めることにする。
冒険者組合の出張所から冒険者向けに配っているトルトの推奨お店リストからラクシ亭が削除されたのだ――理由は「冒険者とのトラブルが絶えない店」ということだった。
もちろん、トラブルなんて昨日の件くらいだが、それだけで組合が動くのか?
エル――と、ハーミット――はそれを探るため組合出張所に侵入する。
元々、奇襲型のアンドロイド。侵入調査はお手のモノ……なのかは少し違うような気もするが……とにかく、その身軽さで組合内部に入る。
「侵入しましたけど、これからどうするつもりですか?」
エルはハーミットに質問する。
『もちろん、何か手掛かりになるようなモノを探すのよ』
「……例えばどんな?」
ハーミットから回答がない……
「もしかして、何も考えてなかった?」
『そんなことないって! ほら、例えばメモとか……』
「……メモに目的や理由まで書いてあるとは思いませんが……」
ハーミットはまた黙り込む……
こいつ……本当に人類の英知を結集したスーパーコンピューターなのか?
エルは真剣に悩む。
『待って、なにやら声が聞こえる……』
ハーミットがそう言うのでエルは超指向性ステレオマイクを音のする方向に向ける。どうやら、今いる場所から二つほど先の部屋に誰かが居るようだ。
本来なら雑音に書き消されているほどの音量だが、マイクの性能とスーパーコンピューターによる高度で高速な周波数分解能により、聞き取れるレベルまで復元できている……FBIが聞いたら卒倒しそうな、なんて贅沢なリソースの掛け方だ……
「――勘弁してくださいよ。いくら組合が独立した組織だからって、自治領府に目を付けられたら仕事がやり辛くなるんですからね……」
「そんなこと言わずに、これで最後だからさあ……」
男二人の会話だ。一人はドボルグの取り巻きだっだ男の声で間違いない。もう一人は組合の人間だろうか……
「昨日も同じこと言っていたじゃないですか? もうだめです」
「おいおい、そんなこと言ってもイイのかい? あんたが所長なんて肩書きでいられるのも、うちのボスが推してあげたおかげだってわかってるよなあ?」
「……それってユスリですか?」
「まさか! ただ世の中は恩を仇で返すようなことはしてはいけないということだよな?」
そこからしばらく黙り込む。
「ひとつ聞いて良いですか? なぜ、そんなことまでしてあんな店を陥《おとしい》れなければならないのですか?」
「そんなの知らねえな。俺たちはドボルグに言われてやっているだけだ……」
『なるほど……』
ハーミットが呟く。
『やはり、ここに来て正解だったわ』
「……何かわかったのですか?」
今の会話でいったい何がわかったというのだろう。スーパーコンピューターの解析力が言葉一つ一つの意味からイントネーションまで、この微妙な違いから何か新たな情報を取り出せたのだろうか?
『真相はドボルグだけが知っているようね』
「……」
このポンコツが……エルはため息を吐く。
「最初からドボルグをマークしていれば良かったのでは?」
『ほら、男が出て行くよ。尾行して』
都合が悪くなると話を逸らすのは、スーパーコンピューターの緻密な解析でも有効と判断したようだ。
組合を出ると男が一人で歩いていくのを見付ける。確かに昨日見掛けた男だ。
エルは男の尾行を続けた。
尾行といっても、刑事ドラマのような目視の尾行ではない。赤外線センサーと集音マイクにより百メートルほど離れていても、相手を見失わない。
さすがに衛星画像による追尾はできなくなったが、それでも相手が尾行に気付くことは不可能だろう。
まあ、猫耳メイドという尾行役に最も適していない容姿ではあるのだが……
尾行されているなんて思ってもいない男はとある店に入り込む。何の変哲もない民芸品のお店だ。
エルは店の外から耳だけを近付け、内部の気配を探る――すると男達の会話が聴こえてきた。
「言われた通りにやってきたよ」
「ご苦労」
「さすがに自治領府が怖いってビクビクしてたよ」
「ははは。こんな田舎町に役人がわざわざ来るかよ」
この高笑い。ドボルグに間違いない。
「来たって下っぱの連中だろう。いくらでも口封じできるさ」
「……そろそろ教えてくれよ。あの店に何があるんだ?」
「さあ知らねえな。カネ回りの良いクライアントの依頼とだけ言っておくよ。それ以上、首を突っ込まないほうが身のためさ」
どうやら、黒幕がいるようだ。ドボルグが「クライアント」と称する人物に接触するタイミングを狙おう――とハーミットは言う。
「……一つ聞いて良いですか?」
『何?』
「私達はそれを探ってどうするのですか?」
ハーミットは『まだわからないの?』と言うので、エルは少しムッとする。
『可笑しいでしょ? こんな町の料理屋程度にわざわざちょっかいを出すなんて……きっと、ラクシ亭には何か裏の顔があるのよ』
それが、人類の英知を結集したスーパーコンピューターが導き出した結論だ……どちらかというと推理ドラマ好きのオバサンが考えそうなことだが……
「ただ単に、最近人気な店に嫌がらせして評判を落とそうしている――とかではないのですか?」
『……それにしては、やり方が露骨なのよね。わざと怒らせようとしているとしか思えないの』
言われてみれば……冒険者組合まで巻き込む理由がわからない。
「……そうだとしても、お世話になっているラクシ亭の方々を疑うのは如何なものかと……」
『ダメ! そんな風に相手をすぐに信じてはいけないよ。もしかしたら、裏組織がラクシ亭を通して私達の異世界の知識を狙っているのかもしれない――これは裏組織同士の抗争かもしれないのだから』
いくらなんでも話が飛躍過ぎでは? エルは、暴走するハーミットに気が重くなる……
このあと、一時間ほど見張っていたが、結局ドボルグが外に出る気配は無かった。店の手伝いもあるので、今日は諦めることにする。
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