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~ 五 ~ 旅の恥は掻き捨て

第二十五話

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 コテージに帰ると、下着がベッドの上に置かれていた。
 アスナは別の部屋に閉じこもって、顔を見せない。

 扉をたたいて……
「アスナちゃん……さっきはゴメン……変なモノを見せちゃって……」
 そう謝るのだが、返事がない。
「アスナちゃん?」
「大丈夫です!」
 アスナの声だ。中から聞こえる。
「大丈夫ですから気にしないでください!」
 叫ぶような声だ。
「あ、明日早いから……お、お休みなさい!」
 取り付く島もない。

 仕方なく、自分の部屋に戻って、布団にもぐる。
 もちろん、そう簡単に眠れない。
 いろいろな事を考え、妄想して……やっと、ウトウトとしてきた時――


 部屋の扉が開いたような気がした。
 振り向くとアスナが立っている。
「アスナちゃん⁉ どうしたの?」
 そうたずねると、なまめかしい表情をしてアスナが迫ってくる。
『ハルトさん……カラダが火照って眠れません……』
「――えっ?」
 アスナが浴衣を脱ぎ始め……
「ちょ、ちょ、ちょっと! アスナちゃん落ち着いて!」
 そう言うのだが、アスナはカラダを寄せて来る……
『ハルトさんが、を見せるからいけないのです……お願いです。そのバズーカで私に風穴を開けて、このカラダを冷めさせてください』
「な! 何を言って!」

「ハルトさん、さあ早く……」


「アスナちゃん! ま、待って!」
「もう、待てません。さっさと起きて、支度をしてください。そして私はアスナさんじゃありません」
「――えっ?」
 その言葉にハルトは目を覚ます。起き上がると、そこにいたのは――
「イ、イズルさん⁉」
 赤いフレームの眼鏡がよく似合う美女がそこに立っていた。

 昨日、ハルトとアスナが行方不明になった後、メンバーは予定通り男鹿へ向かったのだが、地元警察と財団の情報網を駆使して二人を探したそうだ。
 未明になり二人の情報が入る。それから、イズルはレンタカーを飛ばし、二人を迎えにきたのだ。

 昨日の出来事をはじらうような余裕もなく、ハルトとアスナは車へ押し込まれる。
「監督会議の七時三十五分までに、男鹿市の総合運動場に到着させます。少々急ぎますので気を付けてください」
 そう説明するイズル女史。気をつけるのは運転するほうでは? と考えるのだが……
「それよりイズルさん、運転は普段からするのですか?」
「はい。会長と一緒に国際ライセンスを取得しました。毎週、サーキットで走っています」
「――――――――はい?」
 その瞬間、アクセルが踏み込まれ、急加速する。アスナが「きゃあ!」と悲鳴をあげた。
しゃべらないでください。舌を噛みますよ」

 それから一時間弱、ハリウッド映画顔負けのドライブテクニックがハルトとアスナの目に次々と飛び込むのであった。違うのは映像でなくライブであることくらいか?
 *注意――道路交通法は守っているという設定です*

 おかげで、監督会議の十分前に集合場所である男鹿総合運動場に到着する。
「目が……目がまだ回っている」
 ふらふらと車から下りるハルト。
「ジェットコースター……それよりも迫力ありました……」
 アスナも車に寄り掛かったまま、歩けないでいた。
 *もう一度書きますが、道路交通法は守っています*

「お、駆け落ちのご両人が到着しましたよ!」
 二人を真っ先に見付けた風祭がそう茶化す。
 その声を聞いたユミが飛んできて、アスナに抱き付く。
「アスナ! 大丈夫だった⁉ ハルトにヘンなことされてない?」
「ヘンなこと?」
 そう言われて、を思い出してしまうアスナ。顔を赤く染めてうつむく。
 それを見たユミはハルトに詰め寄る。
「ハ、ハルト! あなたアスナに何したの⁉」
「ま、ま、待ってくれ! 僕は何も……」
 まあ、何もしていないわけではない。公道であんなことをしたら、ふつうに逮捕だ。
 答えられなハルトに怒りが込み上げてくるユミ。
「ハルト、責任取って死になさい! いえ、私が殺してあげるわ!」
「待て! 早まるな!!」
「ユミさん、殺すのは仕方ないとして、監督会議の後でも良いでしょうか? このままでは棄権になってしまいます」
 冷静に意見を言うイズル。
「えっ? 殺すことについては引き止めないの?」
 とりあえず、ハルトの命は監督会議まで約束された。


 監督会議で、注意事項と今日の天候について説明される。昨日から続く強風のため、海沿いは散乱物があるかもしれないので気を付けるように――との事だ。
 監督会議が終わると、選手は各区間ごとにバスに乗せられ、中継所へ向かう。

 そして、ハルト達は――
 9キロ先の駐車場まで先に向かい、一区の選手を待つ。

「イズルさん。くれぐれも安全運転で……」
 ハルトがお願いすると、イズルは「当然です」と応える。先程の運転とは違い、アクセルとブレーキ、ハンドル操作がスムーズでとても安心して乗っていられる。運転が上手うまいというのはこういうことだと納得した。

 ハルト達が待機場所に到着した頃、選手がスタートしたと連絡が入る。
 一区は十三・五キロ。男鹿駅伝の最長区間だ。
 刻々と情報が入る。一区を走っているヤマタカはどうやら二位集団に含まれているようだ。
「やっぱり、TU大が抜き出ているな……」
 この大会は一般と大学が一緒にスタートする。なので、一区は通常、大集団になるものだが……
 スタートから三十分を前に、TU大が通過する。それから一分後、五人の集団がやってきてその中にヤマタカがいた。
「それでは行きます」
 イズルの合図で車が動き出す。
「ヤマタカはまだ余裕ありそうだな」
 後部座席に乗るマイヤがつぶやくと、ハルトも「そうだね」と返した。
「わかるんですか?」
 アスナが質問すると、ハルトは「ヤマタカはわかりやすいんだ」と応える。
 その理由は十キロを越えたところでわかった。
 一人がスパートして、二位集団がバラけると、ヤマタカもついていけなくなる。
「ヤマタカの悪い癖だ。苦しくなると頭を振るんだ」
 アスナはナルホドと思う。みんな、仲間のクセや特徴を知っているんだなと感心した。
「頭を振るとカラダが前に出る気がするのだけど、左右に揺れてかえってスタミナを使うんだ。しかし――」
 ハルトが「うーん」とうなる。
「ヤマタカの場合、結構粘るんだよね。ホラ……」
 見るからに苦しそうな走りだが、前の選手を一人抜き返した。
 結局、四位で二区の風祭にタスキが渡る。
「思ったより良い位置だね。ヤマタカも自力がついてきた」
 ハルトが誉めるとマイヤもうなずく。

 二区は海岸の絶壁沿いを走る十一・七キロ。強い横風と絶壁を登る急坂が選手を苦しめる。風祭はラグビーと人力車で鍛えたパワーで、この難コースを駆け登った。
「多分、重い人力車を押すことで身に付けたんだと思うけど、風祭さん、前傾が上手うまくて、坂を登る姿勢がキレイなんだ」
 ハルトがそう言った時、車のエンジン音が急にうるさくなる。
「そんなに登っているんですね!」
 アスナが驚く。
 車でも苦しそうな坂を風祭は力強く駆け上がっていく。みるみる前の選手が近付き、一人、また一人と抜いていった。
「スゴい! 二位ですよ!」
 風祭の力走に興奮するアスナ。そのまま、第二中継所に飛び込む。
「でも、一位との差は三分に広がったそうよ」
 ユミは本部から情報を受け、全員に伝えた。
「三分か……さすがに離され過ぎたな……」
 三区はウンバボである。できればここで先頭に……と思っていたが、いくらウンバボでも、この区間で追いつくのは無理だろう。
 そう思ったのだが……

「えっ? マジかよ」
 ハルトが思わずうなる。マイヤが「どうした?」とたずねると――
「今の一キロ、二分三十八秒だよ」
「――⁉」
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