ちょいダン? ~仕事帰り、ちょいとダンジョンに寄っていかない?~

テツみン

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第四章 ちょいとボス狩りする?

第49話 決意

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 ダンジョンファクトリーの代表で、『ちょいダン』の受付嬢でもある月島サヤカさんから衝撃的な事実を聞いた直後に、「リッチ討伐について相談させてほしい」と言われる。

「ちょ、ちょっと待ってください。ボクたちも討伐に加わるのですか? アイテムをお渡しするだけなのでは?」

 ボクとユミさんがウィザードゴブリンを狩ったときにドロップした『呪いの書』がリッチを討伐する唯一のアイテムだということは理解した。しかし、だからって、の客であるボクたちが討伐に参加する必要は――

「その『呪いの書』は譲渡不可のアイテムなのです。つまり、手に入れた魔導士だけがリッチ討伐可能になるのです」

「――えっ?」
 それって――

『呪いの書』を手に入れたとき、魔導士はひとりだけ――
「つまり、ユミさんだけが『呪いの書』を使用できる……」

 ユミさんの顔が急に青ざめた――

「……もし、このまま、リッチを討伐せずに放置したら、どうなるのかね?」

 四角よつかどセキュリティの専務である篠崎さんがそう月島さんにたずねる。

「――正直のところわかりません」
 月島さんは素直にそう応えた。そして、「ただ――」と言葉を続ける。

「今、わが社のスタッフがリッチを発見し、監視を続けています。彼の話ですと、リッチを中心にゴブリンが集まってきているそうです。このまま、放置してより大きな集団になると――」

 駆逐が困難となり、ダンジョンを放棄しなければならなくなる――月島さんはそう述べる。

「つまり、ちょいダンが営業できなくなる――と、いうことか」
 篠崎さんがそうつぶやくと、誰もが閉口する。

 ちょいダンの営業ができなくなる――それだけでもショッキングなことだが、月島さんは最悪な展開も予想していた。
「リッチが中ボスの部屋から外に出ることはまったくの想定外です。つまり、これからリッチがどこに行くのか予測不能なのです。つまり、ダンジョンの外に出ることだって考えなければなりません」
「――えっ? ダンジョンの外って?」
 ダンジョンの出口は東京大手町――
「つまり、モンスターが現実世界にやってくるということ?」

 全員が月島さんを見た。彼女は少し黙ったあと、こう話す。
「ゴブリンを地球圏に連れ出せるか実験したところ、他の異世界アイテムと同じく、途中で消滅しました。しかし、リッチほどの上級モンスターでそれを確認してません。現在、地球圏と空間がつながっている以上、そちらの世界に出てしまう可能性は否定しきれません」

 もし、リッチが東京のど真ん中に出てしまったら――
「東京は大惨事。大変な被害が出るうえに、モンスターを封じ込める策はありません」

 そうなれば、東京――いや、世界全体がどうなってしまうのか――

 会議室全体が重い空気に包まれてしまった――

「最終手段として、異世界とつながっている部分を破壊する。それによって、モンスターがこちらの世界に入り込まないようにするしかないな」

 篠崎さんがそう口にするのだが、月島さんは――

「物理的に、出入り口をふさぐことはできます。しかし、空間が消滅するには時間が必要です。一年――おそらくそれ以上。その間に、モンスターが塞いだ出入り口を開けてしまう可能性だってあります」

 ということは――

「やはり、『呪いの書』を使用し、リッチを捕獲、無力化する以外に方法はないと思います」
 月島さんの判断に、全員言葉を失う――ひとりを除いて――

「私、やります――」
 ユミさんがそう声にした。

「ユミ――」
 アスナさんが心配そうな顔をするのだけど――

「大丈夫です。やれます」

 彼女が決意を見せるので、ボクもこう言う。

「月島さん、ボクもその討伐メンバーに入れてください」

 どこまで役に立てるかわからないけど、ユミさん一人に重責を押し付けるわけにいかない!

「根津、良く言った! ヨシ! ここは『戸越レンとゆかいな仲間たち』の出動といこうじゃないか!」

 戸越もそう言うので、月島さんと篠崎さんも苦笑いする。

「実のところ、私もそうお願いしようと考えていました。と、いうのは――」
 月島さんの視線が、ユミさんの杖に向かう。
「それは『タクトマスター』ですよね?」

 時間を操る大賢者が所持していたという杖《ワンド》――それが、ユミさんが持っている『タクトマスター』だ。これを持っているだけで、本人とパーティーメンバーの時間経過が十パーセント遅くなる。

「私たちの世界では、存在していたことだけしか記録が残ってなく、すでに伝説となっていた杖です。それに根津さんが持っている短剣もおそらく国宝級の品物です」
「――えっ?」

 ボクは、腰に付けたダガーを抜いて、机の上に乗せる。

「これが、国宝級?」
「はい。そんなものが、このダンジョンからドロップされるなんて思ってもいませんでした。お客さんの被っているヘルムもきっとそうでしょう」
 センツネくんの被っているヘルムのことだ。

「す、すみません。被っていることを忘れてました」
 慌てて、ヘルムを外すセンツネくん。あまりにも似合いすぎていて、誰も気づかなかった――おそろしい……

「これだけの装備を持つパーティーは、私たちの世界でもなかなか存在しません。そう、伝説の勇者パーティー並みです」

 伝説の勇者パーティー並みって――さすがに言いすぎのような気もするが――

「いえ、決してそんなことはありません。こうして、ここにみなさんをお呼びしたのも、討伐チームに参加していただきたかったからです。お願いします。どうか、協力してください!」

 ボクたちは互いの顔を見合わせ、やる気を見せるのだった。
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