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第三章 ちょいとこらしめる?

第35話 千川くん

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「えっ? ご、合コンですか⁉」

 ボクの席のとなりにいる、千川せんかわツネヒコくん。
 身長が百八十センチ。角刈り、ゴツイ顔の彼は、今年二年目の若手有望株――とはいっても、戦略室でボクより若いのは彼一人なんだけど。
 学生時代はラグビー部で、学生代表に選抜されたこともあるスポーツマンだとか。

 そんな彼が、合コンという言葉を聞いて真っ赤になっている。

「そう! 男がひとり足りないんだ。頼む!」
 ボクは彼の前に手を合わせて、頭を下げた。

「ぼ、僕なんかが、さ、参加してもイイんですか?」

 ――ん? 参加してもイイ?

「どうして?」
「ぼ、僕が参加して、せっかくの雰囲気を壊してしまわないかと――」

 千川くんはカラダは大きいのだけど、しゃべり方はこんなふうに、いつもおどおどしている。ちょっとカワイイ――なんて思ってしまう。

「ハ、ハ、ハ――気にしなくてイイよ。合コンといっても、ふつうの飲み会だから」

 うん、たぶんそうだ。そうだと思う。

「で、でしたら――お、お願いします」
 大きなカラダを折り曲げる。

「いやいや、こちらこそ急なお願いで申し訳ない。本当に困っていたんだ」
 もし、誰も連れて行かなかったら、戸越に何を言われたことか――アイツ、イベントとなると人が変わるんだよなあ……

 とにかく、これで自分のノルマは果たせた。

「千川くん、室長が頼みたいことがあるって言っていたわよ」
 綾瀬さんが、そう声を掛けてきた。

「はい‼」

 ばん!

 勢いよく千川くんが立ち上がるので、ボクと綾瀬さんは驚いてしまう。

「い、行ってきます!」
 そう声を張り上げると、彼は背筋を伸ばしたまま歩き出す――のだが、右手と右足が同時に出ていた。

 その様子に、綾瀬さんが――
「千川くん、なにかあったの?」
「さ、さあ? なんでしょうね?」

 まさか、合コンに誘ったので、今から緊張してる――なんて、彼の沽券こけんに関わることだから、口が裂けても言えない。

「そ、そう――それで、根津くん……」
 綾瀬さんが、すこし気恥ずかしそうにしながら、顔を近づける。
「今日、ノー残業デーでしょ?」

 ウチの会社は水曜日、残業が原則禁止されている。もし、残業する場合、上長が労働組合へ申請し、承認をもらわなければならないことになっている。
 なので、大手おおでを振って帰れるのだ。だから、今日が合コンの日になったのだけど。

「あ、はい――」とボクが返事すると――
「もし、ヒマだったら、ちょいダンはどう?」
「――えっ?」

 綾瀬さんから、そんなことを言われてビックリしてしまう。会社では、ちょいダンの話をしてはいけないのかと思っていたので――

「あ、ほら、前にパーティー組まないかって言ってたでしょう? それに、昨日は助けられたし――」
 お礼をかねて――なんて、一生懸命言い訳している綾瀬さん。
 ふだん、仏頂面で仕事している彼女からはとても想像できない。

 ほんとうなら、「ぜひ!」と言いたいところなんだけど――

「すみません。今日は飲み会が入っていて――」
 ここは、頭を下げる。

「そ、そうなんだ。それじゃ、仕方ないわよね。ううん、気にしないで」
 そそくさと席に戻る綾瀬さんを見て、なんか申し訳ない気がした――そのときは――


 そうして、午後五時――
 パソコンの社内SNSツールに着信が入る。戸越からだ。

「いったい、なんだよ――」そう思いながら、ヘッドホンをつけて、応答ボタンを押す。

「おい、女の子ひとり、アテがないか?」
「――――――――はい?」
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