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第三章 ちょいとこらしめる?
第33話 迷惑行為
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ちょいダンで、綾瀬さんに会う十五分前のこと――
その日は、結局、九時まで残業した。
午前中に、室長から頼まれていたプレゼン資料を作成して、提出したのだが、大幅に修正を指示され、結局この時間になってしまう。
いろいろストレスが溜まって、なんかこのまま帰ろうという気分になれない。
「ヨシ! ストレス発散して帰るか!」
そう思い、ボクは直行で『ちょいダン』に向かった。
受付で会員証を見せる。
「根津様ですね。はい、受付ました。レンタルしたい装備はありますか?」
ボクは「ないです」と応える。一応、ドロップアイテムだけで、ひととおり装備が揃っていた。
「わかりました。それではこちらを一読お願いします」
A四サイズの紙を受け取る。
「これは?」
「迷惑行為に対しての、注意書きになります」
内容はチュートリアルに含まれている注意事項と同じらしい。その中から迷惑行為に関する部分を抜き出したそうだ。
「この数日、迷惑行為に対するクレームを数回受けておりますので、あらためて注意喚起しています」
なるほど――と思う。
「もし、迷惑行為を受けたり、見かけた場合には、受付にご連絡お願いします」
迷惑行為が確認されたら対処する――そう言われる。
「あ、はい。わかりました――」
ボクはマイルームに入って、もらったチラシに目を通した。
《禁止事項》
他プレイヤーに対して、攻撃すること。
他プレイヤーへの妨害行為。
その他、他プレイヤーが不快と思われるような行為。(暴言、勧誘等)
ダンジョン内の施設を故意に破壊する。
ダンジョン内に私物を放置する。
ダンジョン内での飲食。
立ち入り禁止エリアへの侵入。
お酒に酔った状態でのプレイ。
改めて言われるまでもなく、一般的に問題行為と言われるモノばかりだ。
違反したプレイヤーは、一定期間、もしくは永久的なダンジョン入場禁止の処置を取る――と書いてあった。
「どんな迷惑行為があったのか知らないけど、アトラクションの運営も大変だな――」
現在、ちょいダンはプレオープンということで、大手町に事務所が置かれている一部の会社社員のみが会員登録できるらしい。会員登録するときに社員証の提示を要求されたので、ヘンな人物はダンジョンに入っていないはずなのだが――
「まあ、会社の外に出ると、ハメをはずす人はどこにでもいるからなぁ……」
しかも、ダンジョンという特殊なエリア。気分が盛り上がり、自制が効かなくなることもあるのだろう――
そんなことを考えながら、ゴブリンを探してダンジョン内をウロウロしていたとき――
「イイ加減にしてください!」
女性が叫ぶ声が聞こえた。
その声――聞き覚えがある。
ボクは声がした方向へ向かった。
そして、目にしたのは――
「――と、いうことで綾瀬さんを見つけた。そんな感じです」
あの時、思わず「ツレ」とか言っちゃったけど、まあ、そうでも言わないと、逆に「オマエは誰だ?」ってなっちゃうよね?
綾瀬さんもそれをわかってくれたようで、そのことについては無視してくれた。
実は、「誰がツレだって?」と怒られないか、ちょっとヒヤヒヤしていたのだ。
受付に戻ったボクと綾瀬さんは、受付の女性に先ほどの迷惑行為を説明した。
「わかりました。男性、三人組ですね」
受付の女性はそう繰り返して、パソコンになにやら入力している。
「さっき、チラシをもらいましたが、最近、起きている迷惑行為と、同じ人物なんですかね?」
ボクがそうたずねると――
「まだわかりませんが――これまでに入っている人物は、男性で小太り、黒縁の眼鏡をかけていたと聞いてます」
「――はあ」とボクは気の抜けた返事をする。
先ほどの三人組の中に、小太りで眼鏡をかけた人物はいなかった。と、なると――他にも迷惑行為をしている人物がいるということか――
「あのう、もし可能なら、どのような行為をされていたか聞いてもイイですか?」
受付の女性は――
「そうですね。昨日、受けた話は――」
女性二人組のパーティーに小太りの男性が近寄り、パーティーに入れてほしいと頼んできたそうだ。
女性たちが断ると――
『ゴブリンの狩り方を教える』とか、『自分は運営側に知り合いがいて、パーティーを組んでくれたら、非公開のアイテムをあげる』とか言って、しつこく付きまとってきたらしく、気持ち悪く思って、急いで逃げたらしい。
「今日も、似たような人物に付きまとわれたという女性がいましたので、急ぎチラシを配って、情報を集めているところです」
どうやら、先ほどの三人組とは違うみたいだが、コイツはコイツで困りモノだと思ってしまう。
「わかりました。そのような人物がいましたら、ご連絡するようにします」
ボクがそう言うと、受付の女性は「お願いします」と頭を下げられた。
「綾瀬さん、大丈夫ですか? 送りましょうか?」
受付から離れたところでボクは言う。さっきの男たちがこの辺りにいるかもしれない――そう心配したのだが、綾瀬さんは「大丈夫です」と応える。
「マイルームで着替えて、化粧を落としますから。そうすれば、きっとわからないので――」
うーん、そう言われればそうだな――と、苦笑いしてしまう。
「それではお気をつけて」
「根津くんも――」
そう言って、ボクは綾瀬さんと別れた。
それにしても、迷惑行為か――
いろいろあるなあ――なんて、思うのだった。
その日は、結局、九時まで残業した。
午前中に、室長から頼まれていたプレゼン資料を作成して、提出したのだが、大幅に修正を指示され、結局この時間になってしまう。
いろいろストレスが溜まって、なんかこのまま帰ろうという気分になれない。
「ヨシ! ストレス発散して帰るか!」
そう思い、ボクは直行で『ちょいダン』に向かった。
受付で会員証を見せる。
「根津様ですね。はい、受付ました。レンタルしたい装備はありますか?」
ボクは「ないです」と応える。一応、ドロップアイテムだけで、ひととおり装備が揃っていた。
「わかりました。それではこちらを一読お願いします」
A四サイズの紙を受け取る。
「これは?」
「迷惑行為に対しての、注意書きになります」
内容はチュートリアルに含まれている注意事項と同じらしい。その中から迷惑行為に関する部分を抜き出したそうだ。
「この数日、迷惑行為に対するクレームを数回受けておりますので、あらためて注意喚起しています」
なるほど――と思う。
「もし、迷惑行為を受けたり、見かけた場合には、受付にご連絡お願いします」
迷惑行為が確認されたら対処する――そう言われる。
「あ、はい。わかりました――」
ボクはマイルームに入って、もらったチラシに目を通した。
《禁止事項》
他プレイヤーに対して、攻撃すること。
他プレイヤーへの妨害行為。
その他、他プレイヤーが不快と思われるような行為。(暴言、勧誘等)
ダンジョン内の施設を故意に破壊する。
ダンジョン内に私物を放置する。
ダンジョン内での飲食。
立ち入り禁止エリアへの侵入。
お酒に酔った状態でのプレイ。
改めて言われるまでもなく、一般的に問題行為と言われるモノばかりだ。
違反したプレイヤーは、一定期間、もしくは永久的なダンジョン入場禁止の処置を取る――と書いてあった。
「どんな迷惑行為があったのか知らないけど、アトラクションの運営も大変だな――」
現在、ちょいダンはプレオープンということで、大手町に事務所が置かれている一部の会社社員のみが会員登録できるらしい。会員登録するときに社員証の提示を要求されたので、ヘンな人物はダンジョンに入っていないはずなのだが――
「まあ、会社の外に出ると、ハメをはずす人はどこにでもいるからなぁ……」
しかも、ダンジョンという特殊なエリア。気分が盛り上がり、自制が効かなくなることもあるのだろう――
そんなことを考えながら、ゴブリンを探してダンジョン内をウロウロしていたとき――
「イイ加減にしてください!」
女性が叫ぶ声が聞こえた。
その声――聞き覚えがある。
ボクは声がした方向へ向かった。
そして、目にしたのは――
「――と、いうことで綾瀬さんを見つけた。そんな感じです」
あの時、思わず「ツレ」とか言っちゃったけど、まあ、そうでも言わないと、逆に「オマエは誰だ?」ってなっちゃうよね?
綾瀬さんもそれをわかってくれたようで、そのことについては無視してくれた。
実は、「誰がツレだって?」と怒られないか、ちょっとヒヤヒヤしていたのだ。
受付に戻ったボクと綾瀬さんは、受付の女性に先ほどの迷惑行為を説明した。
「わかりました。男性、三人組ですね」
受付の女性はそう繰り返して、パソコンになにやら入力している。
「さっき、チラシをもらいましたが、最近、起きている迷惑行為と、同じ人物なんですかね?」
ボクがそうたずねると――
「まだわかりませんが――これまでに入っている人物は、男性で小太り、黒縁の眼鏡をかけていたと聞いてます」
「――はあ」とボクは気の抜けた返事をする。
先ほどの三人組の中に、小太りで眼鏡をかけた人物はいなかった。と、なると――他にも迷惑行為をしている人物がいるということか――
「あのう、もし可能なら、どのような行為をされていたか聞いてもイイですか?」
受付の女性は――
「そうですね。昨日、受けた話は――」
女性二人組のパーティーに小太りの男性が近寄り、パーティーに入れてほしいと頼んできたそうだ。
女性たちが断ると――
『ゴブリンの狩り方を教える』とか、『自分は運営側に知り合いがいて、パーティーを組んでくれたら、非公開のアイテムをあげる』とか言って、しつこく付きまとってきたらしく、気持ち悪く思って、急いで逃げたらしい。
「今日も、似たような人物に付きまとわれたという女性がいましたので、急ぎチラシを配って、情報を集めているところです」
どうやら、先ほどの三人組とは違うみたいだが、コイツはコイツで困りモノだと思ってしまう。
「わかりました。そのような人物がいましたら、ご連絡するようにします」
ボクがそう言うと、受付の女性は「お願いします」と頭を下げられた。
「綾瀬さん、大丈夫ですか? 送りましょうか?」
受付から離れたところでボクは言う。さっきの男たちがこの辺りにいるかもしれない――そう心配したのだが、綾瀬さんは「大丈夫です」と応える。
「マイルームで着替えて、化粧を落としますから。そうすれば、きっとわからないので――」
うーん、そう言われればそうだな――と、苦笑いしてしまう。
「それではお気をつけて」
「根津くんも――」
そう言って、ボクは綾瀬さんと別れた。
それにしても、迷惑行為か――
いろいろあるなあ――なんて、思うのだった。
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