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第二章 ちょいとパーティー組む?

第31話 綾瀬さん

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 月曜日、ボクは朝から大忙しとなった。

 と、いうのも、ボクが担当していたフィリピン、カカオ工場の進捗しんちょく状況について、役員へ説明するための資料を作ってほしいと、戦略室長に頼まれたからだ。
 それも明日の午前中までである。

 それって、思い付きだよね?
 ――というような仕事は、ウチの会社では良くあることなので、いまさらなのだが――
 せめて、先週のうちに頼んでくれよ。暇だったのだから……なんて、うらみぶしを口にしたくなる。

「根津くん、プレゼンのテンプレートを送っておいたから、それを使ってくれる?」

 そう声を掛けてくれたのは、ボクと同じ戦略室のメンバーである、綾瀬マリコさん。
 黒く長い髪を後ろで無造作に縛っていて、黒縁の眼鏡をかけた女性。年齢はたしか四つボクより上だったと思う。

「あ、ありがとうございます」
 そうお礼を言って、顔を上げる。綾瀬さんの顔を見てあることに気づき、「あっ――」とつぶやいてしまった。

「えっ? なに?」
 化粧っけのない顔がこちらに向いた。それで確信する。

「綾瀬さん、昨日、『ちょいダン』で会いましたよね?」
「――――えっ?」
「ほらぁ、魔導士のオリエンテーションで、綾瀬さん、ゴスロリの服を着てましたでしょ?」

 すると、綾瀬さんは、急に真っ赤な顔をして、「な、何を言っているの?」と戸惑う。

「いやだって――ほら、ファンシーマギカの悪役キャラ……そう、シシリーのコスプレ!」

 あの時は眼鏡をかけていなかったから、なかなか思い出せなかったけど、こうして見ればはっきりとわかる。

「ちょっと、根津くん⁉」
「いやあ――綾瀬さんって、ああいう格好もするんですね? ちょっと、びっくりしました」

 本当に、今の姿とちょいダンでは同一人物とは思えないほど印象が変わっている。

「ちょ、ちょ、ちょっと――こっちきて」
 いきなり、ボクの腕をつかむと、オフィスの外に連れて行く。

「えっ? どこ行くんですか?」
 だけど、彼女は何も言わない。そのまま、ひとっ気のない階段の踊り場に連れていかれた。そして、ボクを壁に押し付け、彼女の右手がボクの顔の横に、ドンッと音を立てて突いた。いわゆる、壁ドンの態勢――なんか、男女の位置が逆のような気がするけど――

「根津くん、その話、誰かに話した?」
 綾瀬さんは、『般若の面』を思い浮かべてしまうような怖い顔でそう質問してきた。
 ボクと彼女は身長がほとんど同じなので、本当に顔が近い――

「いえ、誰にも――」
 それは事実だ。だって、ボクも今気づいたばかりだから――

 綾瀬さんは「はあ――」とため息をついたあと、「あのね、根津くん」と呼ばれる。

「はい?」
「昨日のこと、会社の人には絶対に言わないでくれる?」

 昨日のこと? ちょいダンのことだよね?

「――どうしてですか?」
「どうしてって、わかるでしょ? 私、会社ではこういうキャラで通しているの。なのに、実は魔法少女のコスプレ趣味がありました――なんて、言えるわけないでしょ?」

 ――そう言われれば、そうかもしれない。
 ちょっと、配慮が足りなかったと反省する。

 それにしてももったいない。あの衣装、とても似合っていたのになぁ。まあ、だからと言って、会社であんな姿でするわけにはいかないかぁ――とも思う。

「わかりました。このことについて、社内はもちろん、外でも話しません」
 ボクがそういうと、綾瀬さんは安心したのか、深いため息をついた。

「そう――わかってもらえれば、それでイイわ」
 それじゃ、席に戻りましょう――そう言うので――

「だけど、ひとつ、お願いしてイイですか?」
 ボクが言うと、彼女は「な、なに?」とひきつった顔でたずねてきた。

「今度、ちょいダンで、パーティーを組みませんか?」
「――えっ?」

 なんかとてもビックリしている。まさか、そんなに驚かれるとは思わなかった。

「ほら、綾瀬さんの魔法、スゴかったじゃないですか? ぜひ、一緒にやりたいなあ――と、思ったのですが――」

 きっと、パーティーを組んだら、ゴブリンをバンバン倒してくれそうな気がする。

「わ、私はソロでやることにしているの」と、とまどいながら彼女は応える。

「――どうしてです?」
「だ、だって、こんなオバサンが、あんなコスプレしてプレイしているのよ! 誰だって一緒にいるところを見られるのがイヤでしょ?」

 ――オバサン?

「綾瀬さんはぜんぜん、オバサンじゃないですよ」
「――えっ?」
「シシリーの衣装、とっても似合ってましたよ」
「なっ⁉」

 なんか、彼女の顔が急に真っ赤になった。

「なにを言い出すの――」
 そのまま顔を背けた。

「いや、本心なんですが――」
 とっても似合っていたし、かわいかったから、別に恥ずかしがらなくてもイイようなきがするんだけどなあ――

 そんなことを思っていると、彼女から――

「か、考えておくわ」
 という返事が――

「はい、お願いします!」とボクは喜んだ。

 うーん、また、ちょいダンに行く楽しみが増えたな!
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