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第一章 ちょいと寄ってく?

第16話 再会

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 ダンジョン入口のところで、ユミさんに会ってしまう。
 うーん、戸越の予言が当たってしまった。なんか、くやしい。

「今来たところですか?」
 そうたずねてみる。
「はい、タカアキさんは終わったところですか?」
「ええ、まあ――」
 うーん、会話が続かない――戸越だったら、洒落しゃれた話題でも出てくるんだろうな……なんて、考えてしまう。
 今度、教えてもらおう。

「おつかれさまでした」
 そう言って、頭を下げられた。
 そのまま、行かれそうになったので、何か言わなければと思う。

「今日は誰かと?」
 そう、言ってみた。

「いえ――実は同僚と一緒に来たのですが、急にお客さんから呼ばれたとかで――」
 ダンジョン入り口で引き返してしまった――そんなことを彼女は話す。

 お客さんに呼ばれる?

「そうなんですか……大変ですね。失礼ですが、どんな職業なんですか?」
 すると彼女は――
「保険会社です。東都損保っていう――」

 東都損保……「ああ――」とボクはつぶやく。

「ウチの会社の近くですね」
 そう伝えてみた。すると、彼女は「――あっ」と声を出す。

「どうかしました?」
「い、いえ――タカアキさんは、どこの会社ですか?」
 そうたずねられたので、「四角よつかど物産です」と素直に答えた。

 すると、彼女は「はあ……」とピンと来ていない顔をしているので――
「知ってます?」といてみた。
「あ、はい。もちろん、知ってます。あの大きなビルの会社ですよね?」

「ハ、ハ、ハ――そうですね。あのビルの会社です」
 ウチの会社のことをそんなふうに表現した人は彼女が初めてだったので、おもわず笑ってしまう。

 すると、彼女はちょっと恥ずかしそうな顔で――
「ご、ごめんなさい――名前とかはよく聞くのですけど、その……どんな仕事をしている会社なのかまでは……」
 勉強不足でゴメンナサイなんて言われてしまった。

「まあ、仕方ないですよ。ウチの会社、コマーシャルとかで宣伝しているわけではないし――」
 逆に新鮮な反応で、面白いなあ――なんて思ってしまう。

 すると――
「学校は――」

 ……えっ?
「学校?」

 なんか、急に彼女が慌てだして、どうしたんだろう――そう考えると――
「え、いや、そうじゃなくて……そう、私の学校からも確か、四角物産に行った人がいたなぁ――なんて」
 ああ、そういうことか――と思う。
「えーと……ユミさんの出身校って?」
「えっ? あ、はい――三田塾大です」

 三田塾?
「もしかして――ユミさんはお嬢さま?」

 女子大といえば、お嬢様――というイメージからそんなことを言ってしまったのだけど、彼女は、顔を真っ赤にして、「ち、違います!」と応えた。

「同級生の中にはお嬢様みたいな人がいましたけど、私はいたってふつうのサラリーマンの娘でして――」
 と、手をパタパタしながら説明される。

「あ、そうなんですね」

 ちょっと失礼だけど、彼女の反応ひとつひとつがカワイくて、おもしろいな――なんて思ってしまう。
 小動物系?

「タカアキさんは⁉」
「――えっ?」
 なんか、彼女の声のトーンが上がった。
「タカアキさんはどこの大学だったのですか?」

 大学までたずねられちゃうんだぁ――
 まあ、彼女の出身校も教えてもらったことだし、仕方ないか――と思う。

「えーと、一応、東大で――」
「――えっ?」
 ユミさんは目を丸くした。

「ス、スゴいですね」
 スゴい? まあ、スゴいんだろうなぁ。ふつうは――

「まあ、ボクの場合、運がヨカッタだけだから――」

 そう言うと、謙遜のように聞こえてしまうかもしれないが、自分の場合、本当に『運がヨカッタ』だけなんだよなぁ――

「そ、そんなことないです! ありがとうございます!」

 ん? なんでお礼を言われる?
 まあ、イイかと思う。

「それじゃ、がんばって」
 ボクがそう言うと、彼女は大きなつえを持ちながら――
「あ、ハ、ハイ……」
 と、なんかの返事になる。

 ああ、そういえば彼女、魔導士だったっけかぁ――
 それで、ボクは袋を手に取る。

「そうそう、さっき、ゴブリンを倒したら杖をドロップして――」
 先ほど手に入れた『タクトマスター』を彼女の前に差し出した。

「えっ? これは?」
「ユミさんにあげます」
「――えっ?」

 なんか、驚かれてしまった。けど、自分は装備できないし、持っているだけじゃ宝の持ち腐れだから、使ってほしい――とお願いする。

「そ、そんな――」
「どうぞ遠慮せずに――そうですね。また、一緒にパーティーを組みましょう」
 流れでそんなことを言ってしまった。まあ、イイよね――

「そ、それじゃ――お友達登録しませんか?」と彼女が言う。

 あ、そうだな。パーティーに誘うんだったら、お友達登録しておかないと――
「はい、お願いします」

 そう言って、スマホを取り出し、アプリを立ち上げる。

「――えーと、たぶん、これで登録できたはずですよ」
 念のため、『お友達リスト』を確認するとちゃんと『ユミ』とあった。

 戸越より先に、女の子をお友達登録するとはな――明日、戸越に自慢してやろう。

 また、楽しみが増えたと思う。
 それどころか――
「あのう、もしよかったら、LINもお願いできませんか?」
「――えっ?」

 さすがにドキッとしてしまう。

「ゴメンナサイ! ダメですよね?」
 そう言われるので、「そ、そんなことないです!」と慌てて否定する。
「それじゃ、お願いします」
 そう言って、今度はLINのアプリも立ち上げた。

「――はい。これで、ボクのIDが行ったと思います」
 彼女のバーコードを読み込んで、自分のLINのお友達の中に、『落合ユミ』という名前が入った。
「はい、タカアキさんの名前があります」
 彼女がそう言うので、ホッとする。

「それじゃ、また」
「はい、また、よろしくお願いします」
 彼女に何度も頭を下げられた。

 うーん、なんか今日もいろいろあったけど――一番の収穫は女の子のLINをゲットしたことだな。
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