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第一章 ちょいと寄ってく?

第11話 初日終了

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 それからも同じ方法でゴブリンを狩り続けた。

 パーティーになってからは十匹。ソロでの二匹を合わせて、十二匹を狩ったところで、スマホから二時間半が経過したことを知らせるアラームが鳴る。

 ただ、結局のところ、ボク一人で狩ったに等しい。ユミさんも『ファイア』を何度か唱えてみたのだが、どれも不発で魔法が発動するところは見られなかった。

「えーと、そろそろ終わろうと思うのだけど、イイかな?」
 そう言うと、ユミさんは「は、はい……」と元気なく応える。

 うーん……ボクばっかり楽しんでいたので、不満を持っているみたいだなぁ……

 せっかく、高い会費を払ってダンジョンに入ったのに、自分にはまったくゴブリンを狩らしてもらえなかった――そう怒っているのだろうか……と、申し訳なく思ってしまう。

「なんか、魔導士ってムズいよね?」
 一応、そうフォローしてみせたのだが――
「はあ、そうなんでしょうか……」
 と、反応が鈍い。

 おいおい――それじゃ、『オマエが魔導士なんて選ぶから悪いんだ』と言っているようなモノじゃないか。気分を害するようなことを言ってどうするんだよ――ああ、自分が情けない。

 だからといって、自分も初心者だし、魔導士とどういうふうに連携すればイイのかわからなかった。ここは、運が悪かったとあきらめてもらうしかないよな。

「それじゃ、近くのワープポイントまで行きましょう」
「はい、お願いします」

 アプリを開いて、マップを見ながらワープポイントまでたどり着く。その間、結局、会話らしい会話もできなかった。

「これって、どうすればイイのでしょうか?」
 ユミさんに言われて、チュートリアルで説明していたことを思い出す。

「たしか、スマホのアプリを起動したまま、この石像に触ると――」

 スマホの画面に、『どちらに行かれます?』というコメントが出て、ワープ可能な行き先が表示された。今は、『ダンジョン入口』しか表示されない。

「これで、ダンジョン入口を選択すればイイはずですよ」
 そう伝えると、「わかりました。ありがとうございます」とていねいに礼を言われた。

 先にユミさんの姿が見えなくなったので、自分もダンジョン入口を選択し、『はい』を押した。
 すると――

 目の前に石像はあるのだが、一瞬で大きくなる。つまり、別の石像だ。
 なるほど――各ワープポイントで石像の大きさや形が違うんだな。

 となりにユミさんがいたので、声をかける。
「どうやら、入口まできたみたいですね」

 初めての転送ワープだったが、あまりにも呆気あっけなくて、思ったより感動が湧いてこない。

「そうですね」と彼女も拍子抜けしたような表情で応えた。

 スマホを見ると、『パーティーが解散しました』という文字が――ワープポイントを利用するとパーティーが解散する仕組みのようだ。

 本人はとなりにいるので、本当に離れ離れになったわけではないのだが、なんか残念な気持ちになってしまう。

 そのまま、ロビー方面のトンネルを進み、受付に到着した。

「おつかれさまでした」と受付の女性がにこやかに言う。

「ありがとうございます。えーと、ドロップアイテムの換金は今でもイイですか?」
 そうたずねると、「ハイ、大丈夫ですよ」と言われた。

「それじゃ――」と袋から魔石を十二個取り出す。

「えーと、ドロップしたのが武器でしたら、必ずしも換金しなくてイイのですよね?」
 つまり、『大盗賊のダガー』のことだ。けっこう、使い勝手が良かったので、次回以降もこの武器を使いたい。

「はい、ドロップした武器や防具は、そのままご自分で所持して、次回以降それを装備してかまいません」
 そう言われて安心する。

「ただし、現実世界に持ち出そうとすると消滅してしまいますので、ご注意ください。手に入れたアイテムは必ずマイルームへ置いて帰るようにお願いします」
 そういえばチュートリアルでも同じようなことを言っていたな――

「それじゃ、魔石だけ換金お願いします」
「わかりました。分配は均等でよろしいでしょうか?」

 そう言われて、そうだった――と思い出す。
「タカアキのほうに七個分、ユミのほうに五個分でお願いします」
 パーティーになってから、十個の魔石を手に入れたので、それを均等に分配した形だ。

 すると、ユミさんが「えっ?」とすこし驚いた声で――

「そんな――私は何もしていないので、タカアキさんに全部でイイですよ」
 そう言われるのだが、「いえいえ、パーティなのですから、半分づつで」と改めて伝える。

「ですけど――」と彼女は納得していないという表情だったので――

「また、ココに来てほしいので――少しでも足しにしてください」と笑顔で言った。

 ここってウチも出資していると戸越が言っていたモノな。ボクも社員として売り上げ促進そくしんに協力しないと――なんて、打算的なことを考えた。もちろん、口には出さない。

 すると、彼女は恥ずかしそうにうつむきながら「ありがとうございます」と応える。

 あれ? ボク、ヘンなことを言っちゃった?
 ユミさんの反応に内心慌てる。

「タカアキ様に七百ダル、ユミ様に五百ダルをそれぞれ振込みましました。アプリでご確認してください。他になにかありますでしょうか?」

 そう質問されるとユミさんが――
「あ、今ココでお借りしていたモノをお返ししてもよろしいのでしょうか?」
 そうたずねる。ダンジョンに入る前に借りた武器や防具のことだ。

「はい、今でも大丈夫ですし、帰るときでも大丈夫です」と受付が応えるので――
「それじゃ、今、お返します」とユミさんはローブを脱ぎ始めた。
「なら、ボクも――」と自分も防具を取り外す。

「――はい、すべてお返しいただけました。それでは、マイルームに預けておいたモノをお忘れがないようにお帰りください。本日はありがとうございました」
 そう言って、受付の女性が深々と頭を下げた。

 それから、マイルーム入口にまで二人で向かう。

「今日は本当にありがとうございました。たすかりました」
 ユミさんがマイルームに入る前に頭を下げるので――

「こちらこそ、うまくやれなくて――すみませんでした」
 と、自分だけ楽しんでしまったことを謝る。

「いえ、そんなことはありません! それでは、おやすみなさい」
「あ、はい、おやすみなさい」
 
 そう言って、二人はマイルームに入った。

 ふう、なんか疲れちゃったな――

 楽しかったのは、楽しかったのだが、見知らぬ女性とパーティを組むというのは、なかなか神経を使うモノだ――と、あらためて思う。

 マイルームに預けていたジャケットとカバンを手に取ると、マイルームを出る。一応、辺りを確認したが、彼女の姿はなかった。
「はあ――」とため息をつく。

 そういえば――
 自分のスラックスを確認する。ゴブリンの石斧で汚れたはずの部分がキレイになっていた。
 うーん、やっぱりファンタジーだ……

 そんなことを思いながら、ロビーを出て、帰路にく。
 ふと時計を見ると、まだ十九時を回ったところである。本当に、ダンジョンと現実世界では時間の進み方が違うんだと、改めて思うのだった。

 それにしても……今日は驚くことばかりだったなあ。
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