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第四章 王宮
第五十八話
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それから十日ほど過ぎると、クーデターで破壊された王宮のがれき撤去もおおかた終わった。手作業なら数カ月、数年かかってもおかしくないほど大変な作業だったのだが、さすが魔法があるとあっという間に終わってしまう。
がれきの中から巻き込まれた冒険者達の遺体が回収された。しかし、一緒にいたはずのプレセルタのメンバーは数人を残して消えていたらしい。マスケラも見つからなかった。
マスケラはホムンクルスだった。そして、ホムンクルスは不死である。魔力とスキルはエリオットの『貪食』によって奪われたが、おそらく、まだ生きているはずだ。
そして、プレセルタのメンバーも――プレセルタは『魔人化』によって、人間に進化をもたらす――そう主張している。盟主である『選ばれし者』が『魔人化』の施術を行っているらしいのだが――
『つまり、魔人化とはホムンクルスのことなのだろう』
元の人間が『魔人化』によって、新たなスキルを手に入れたわけではない。特別なスキルを持つホムンクルスに、元の人間の記憶を移し替えているのだ。ホムンクルスに自我を持たせるためだけに――
『それって、記憶を移された元の人間は――』
あまりにもおぞましいことを想像してしまう。エリオットはそれ以上、考えるのをやめた。それにしても、プレセルタの盟主である『選ばれし者』とは――ホムンクルスを生み出し、元の人間とすり替えてしまうような芸当のできる人物とは、いったい――
エリオットは思い出していた――王宮が崩れる前に感じた、背筋が凍るほど(まあ、背筋はないのだが)の巨大な気配――あれがもし、『選ばれし者』の気配だったとしたら――
もちろん、今のところそれを裏付ける部分は、何もないのだが……
「タバサ、迎えに来たよ」
セシルの声である。屋敷が燃やされてしまったため、ロードスター伯の家族はしばらく迎賓館で寝泊まりをしていたのだが、空き家になっていた旧貴族の屋敷を借りられることになり、昨日引っ越したばかりだ。セシルの話では、前の屋敷より広く装飾も華やかなので落ち着かないらしい。
「お、おはようございますぅ。セシルさん……」
恥ずかしそうに顔を出したタバサ。その理由は――
「うわぁ! タバサ、カワイイ! 制服似合っているよ!」
「そ、そうですか?」
今日から王立学校へ通うことになったタバサが恥ずかしそうに制服姿を披露した。
「ねえ、エリオットもカワイイって思うでしょ?」
セシルの隣に現れたエリオットの幻影がタバサを見る。
『うん、そうだね……』とタバサの胸元辺りで目線が止まり――
『実は着やせするタイプ?』なぜか残念そうな表情を見せる。
「エリオットぉ~。殺すわよ~」と、セシルの怒った声。
(いや、死んでるんですけど……)
「エリオットも久しぶりの制服ね!」
そう、エリオットの幻影も王立学校の制服を着ていた。なぜなら――
『ねえ、本当に僕も授業に出るの?』
「当然でしょ。タバサが学校に行くとなれば、必然的にエリオットも行くのだから」
エリオットはタバサに取り憑いている。ということで、エリオットも学校に行かざるを得ないのだが、そのことをヘルマイヤ・アレスト校長に相談したところ、「おもしろそうだから、エリオットも授業に出なさい」ということになったのだ。
(なんか、ハメられた気もするけど……)
まあ、悪霊になっても勉強させてもらえるのだからイイことにしよう――と、一応納得はしたのだが……
そんな時に、王族の馬車がスレイマンの家の前に止まった。何事かと通行人が立ち止まってのぞき見ると、中から美しい銀髪の少女が下りてくる。彼女も王立学校の制服だ。
「フローネ、おはよう」
「おはようございます。セシルさん、エリオットさん、タバサさん」
『おはよう……て、なんで殿下が?』
「もちろん、エリオットさんたちと一緒に学校へ登校するためですよ。それに同級生なのですから、殿下でなく、フローネです」
「そうよ、エリオット。ちゃんとフローネって呼んであげなさい」
『う、うん、フローネ……さん』
「はい! エリオットさん!」
満面の笑みを見せるフローネ。それにしても美しい。ドレス姿も魅力的だが、制服姿も歳相応でカワイイ。
「おい、悪霊。姫様をジロジロみるな」
そう言って、ナイフをエリオットの幻影に近づけるメイド姿のアンリエッタ。
『え、えーと……アンリエッタさんも学校へ』
「当然だ。私は姫様専属の使用人だからな」
学校から許可が下りれば、付き人ひとりまでの同行が許されるらしい。
『ハ、ハ、ハ……』
なんか、メンバー勢ぞろいしちゃったな……そう思うエリオットだった。
こうして始まった新たな学園生活。彼らは『かりそめの平和』を少しだけ楽しむことになる――
がれきの中から巻き込まれた冒険者達の遺体が回収された。しかし、一緒にいたはずのプレセルタのメンバーは数人を残して消えていたらしい。マスケラも見つからなかった。
マスケラはホムンクルスだった。そして、ホムンクルスは不死である。魔力とスキルはエリオットの『貪食』によって奪われたが、おそらく、まだ生きているはずだ。
そして、プレセルタのメンバーも――プレセルタは『魔人化』によって、人間に進化をもたらす――そう主張している。盟主である『選ばれし者』が『魔人化』の施術を行っているらしいのだが――
『つまり、魔人化とはホムンクルスのことなのだろう』
元の人間が『魔人化』によって、新たなスキルを手に入れたわけではない。特別なスキルを持つホムンクルスに、元の人間の記憶を移し替えているのだ。ホムンクルスに自我を持たせるためだけに――
『それって、記憶を移された元の人間は――』
あまりにもおぞましいことを想像してしまう。エリオットはそれ以上、考えるのをやめた。それにしても、プレセルタの盟主である『選ばれし者』とは――ホムンクルスを生み出し、元の人間とすり替えてしまうような芸当のできる人物とは、いったい――
エリオットは思い出していた――王宮が崩れる前に感じた、背筋が凍るほど(まあ、背筋はないのだが)の巨大な気配――あれがもし、『選ばれし者』の気配だったとしたら――
もちろん、今のところそれを裏付ける部分は、何もないのだが……
「タバサ、迎えに来たよ」
セシルの声である。屋敷が燃やされてしまったため、ロードスター伯の家族はしばらく迎賓館で寝泊まりをしていたのだが、空き家になっていた旧貴族の屋敷を借りられることになり、昨日引っ越したばかりだ。セシルの話では、前の屋敷より広く装飾も華やかなので落ち着かないらしい。
「お、おはようございますぅ。セシルさん……」
恥ずかしそうに顔を出したタバサ。その理由は――
「うわぁ! タバサ、カワイイ! 制服似合っているよ!」
「そ、そうですか?」
今日から王立学校へ通うことになったタバサが恥ずかしそうに制服姿を披露した。
「ねえ、エリオットもカワイイって思うでしょ?」
セシルの隣に現れたエリオットの幻影がタバサを見る。
『うん、そうだね……』とタバサの胸元辺りで目線が止まり――
『実は着やせするタイプ?』なぜか残念そうな表情を見せる。
「エリオットぉ~。殺すわよ~」と、セシルの怒った声。
(いや、死んでるんですけど……)
「エリオットも久しぶりの制服ね!」
そう、エリオットの幻影も王立学校の制服を着ていた。なぜなら――
『ねえ、本当に僕も授業に出るの?』
「当然でしょ。タバサが学校に行くとなれば、必然的にエリオットも行くのだから」
エリオットはタバサに取り憑いている。ということで、エリオットも学校に行かざるを得ないのだが、そのことをヘルマイヤ・アレスト校長に相談したところ、「おもしろそうだから、エリオットも授業に出なさい」ということになったのだ。
(なんか、ハメられた気もするけど……)
まあ、悪霊になっても勉強させてもらえるのだからイイことにしよう――と、一応納得はしたのだが……
そんな時に、王族の馬車がスレイマンの家の前に止まった。何事かと通行人が立ち止まってのぞき見ると、中から美しい銀髪の少女が下りてくる。彼女も王立学校の制服だ。
「フローネ、おはよう」
「おはようございます。セシルさん、エリオットさん、タバサさん」
『おはよう……て、なんで殿下が?』
「もちろん、エリオットさんたちと一緒に学校へ登校するためですよ。それに同級生なのですから、殿下でなく、フローネです」
「そうよ、エリオット。ちゃんとフローネって呼んであげなさい」
『う、うん、フローネ……さん』
「はい! エリオットさん!」
満面の笑みを見せるフローネ。それにしても美しい。ドレス姿も魅力的だが、制服姿も歳相応でカワイイ。
「おい、悪霊。姫様をジロジロみるな」
そう言って、ナイフをエリオットの幻影に近づけるメイド姿のアンリエッタ。
『え、えーと……アンリエッタさんも学校へ』
「当然だ。私は姫様専属の使用人だからな」
学校から許可が下りれば、付き人ひとりまでの同行が許されるらしい。
『ハ、ハ、ハ……』
なんか、メンバー勢ぞろいしちゃったな……そう思うエリオットだった。
こうして始まった新たな学園生活。彼らは『かりそめの平和』を少しだけ楽しむことになる――
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