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第四章 王宮
第五十話
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さて、どんなワナが待っているのか?
あえて、念動力で扉を堂々と開けてみせた。
謁見の間の奥は真っ暗だ。しかし、この部屋に少なくても数十人いることは気配でわかる。
「エリオット、遅かったな」
そんな声が聞こえた。マスケラだ。
「姿が見えないのはやりづらいな。得意の幻影で姿を見せたまえ」
そう要求してくる。
命令されるのは不本意だが、ここは言われたとおりにしてやろう。
『大層なお出迎えで恐れ入ります、国務尚書閣下』
白々しくエリオットが応えながら、幻影を見せた。
「ほう、まるでそこにいるようだな」
褒められてもうれしくない。
『いろいろと演出していただいているようで、恐れ入ります。しかし、度が過ぎると興ざめしますよ。そろそろ、姿を見せてもらえますか?』
「……よかろう」
その言葉と同時に、閉め切っていたカーテンが一斉に開き、日差しが中に入ってきた。
「――!?」
まず目に入ったのは、玉座に座る国王ベルフェルムの姿。
『陛下!』
そして、その横に立つ灰色の長髪で顔の半分を隠した優男――マスケラだ。自分を殺した憎き敵を前にして、沸き起こる感情を押し留める。
(今、アイツを攻撃すれば陛下まで巻き込んでしまう)
マスケラとベルフェルムの距離が近すぎる。もちろん、それが相手の狙いだということも理解していた。しかし――
(もし、アイツのスキルが精神支配でなく、『絶対支配』であるなら、遠ざけただけでもダメだ。陛下へ自殺するように仕向けられたら、それで終わりだ)
もちろん、国王には簡単に手を出さないだろうが、追い込まれれば何だってやるはず。
(さて、どうする?)
エリオットは他の様子も確認する。玉座の周りを囲んだ黒ローブの集団、そしてそれぞれが思い思いの防具を身にまとった男たち。彼らは――?
『プレセルタに……冒険者?』
玉座に似つかわしくない顔ぶれが並んでいた。
『これは、何のつもり?』
「何の? もちろんキミに復讐してもらうためだ」
『僕に? 復讐?』
「プレセルタ、冒険者――エリオットや吸収した魂、彼らを死に追いやった元凶を集めてやったのだ。感謝してほしいね」
そう言って、マスケラは笑う。 なるほど、この苛立ちはマスケラだけではなかったんだな――と納得する。だが、今なら制御できないほどではない。
「た、助けてくれ……」
冒険者がそう声にする。全員、恐怖の表情を浮かべている。どうやら、カラダが動かないらしい。首から下だけマスケラが支配しているのだろう。
(精神支配には、そんな芸当もできるのか……)
「――どうした? もっと喜んでもらえると思ったのだが、ずいぶんと冷静だな?」
プレセルタや冒険者の姿を見せて、トルド村の時のように悪霊の魂を暴走させようと考えていたのだろうか?
『そうだね。復讐にもさまざまな方法がある……て、気がついたからね』
エリオットの返答に、マスケラは怪訝な表情を見せる。
「それはどういう意味だ?」
エリオットは先ほどジークフリードに『復讐』した。それは、相手に罪への意識を持たせるというモノだった。『ごめんなさい――』ジークフリードから発せられたあの言葉は、エリオットだけでなく、不遇な最期を遂げた魂たちにとっても憎悪の念を静ませる効果があったようだ。
(それに気づかせてもらったところは、ジークフリードに感謝しないとな)
ただ、言葉でマスケラに伝えても意味がないと思えるし、その義務もない。なら、行動で示すことにした。
『たとえば――』
すると、黒ローブのプレセルタメンバー、冒険者達が、立ったまま突然意識を失う。
「――何のマネだ?」
『誘眠という、魔物のアビリティで眠らせました』
なんだかんだ言って、これを一番使っているよな――とエリオットは苦笑いになる。
『これって、ただ眠らせるだけでなく、見せたいと思った夢を相手に見せられるんだ』
「――!?」
眠っているプレセルタメンバーや冒険者が苦しみ出し、悲鳴のような声をあげる。
『今ね、悪夢を見てもらっているんだよ』
それはエリオットの中に取り組んだ悪霊たちの魂が最後に見た記憶――つまり、死ぬ瞬間の映像である。それをいくつもつなぎ合わせて、『悪夢』として見せていたのだ。
(僕もこれでひどい目に遭ったからね……)
あの恐怖を他の人にも味わってもらわなければと考えていたので、エリオットとしても願ったりだ。
『どう? これも復讐だと思わない?』
まあ、一方的な満足感なのかもしれないが……相手を殺したとして、達成感はあっても残るのは空虚だけ――本当にやりたいことは、『自分がこんなに恐怖を味わったんだということを知ってほしい――』きっと、それなのだ。
「――つまらん」
不満そうな表情を見せるマスケラ。手を上に向けると――
「ファイアボール」
(――えっ?)
マスケラの手から放たれた火の玉が天井にぶつかって爆発。がれきが崩れ落ちると、プレセルタメンバーと冒険者の上へ――
グシャーン!
轟音とともに砂煙をあげた。
あえて、念動力で扉を堂々と開けてみせた。
謁見の間の奥は真っ暗だ。しかし、この部屋に少なくても数十人いることは気配でわかる。
「エリオット、遅かったな」
そんな声が聞こえた。マスケラだ。
「姿が見えないのはやりづらいな。得意の幻影で姿を見せたまえ」
そう要求してくる。
命令されるのは不本意だが、ここは言われたとおりにしてやろう。
『大層なお出迎えで恐れ入ります、国務尚書閣下』
白々しくエリオットが応えながら、幻影を見せた。
「ほう、まるでそこにいるようだな」
褒められてもうれしくない。
『いろいろと演出していただいているようで、恐れ入ります。しかし、度が過ぎると興ざめしますよ。そろそろ、姿を見せてもらえますか?』
「……よかろう」
その言葉と同時に、閉め切っていたカーテンが一斉に開き、日差しが中に入ってきた。
「――!?」
まず目に入ったのは、玉座に座る国王ベルフェルムの姿。
『陛下!』
そして、その横に立つ灰色の長髪で顔の半分を隠した優男――マスケラだ。自分を殺した憎き敵を前にして、沸き起こる感情を押し留める。
(今、アイツを攻撃すれば陛下まで巻き込んでしまう)
マスケラとベルフェルムの距離が近すぎる。もちろん、それが相手の狙いだということも理解していた。しかし――
(もし、アイツのスキルが精神支配でなく、『絶対支配』であるなら、遠ざけただけでもダメだ。陛下へ自殺するように仕向けられたら、それで終わりだ)
もちろん、国王には簡単に手を出さないだろうが、追い込まれれば何だってやるはず。
(さて、どうする?)
エリオットは他の様子も確認する。玉座の周りを囲んだ黒ローブの集団、そしてそれぞれが思い思いの防具を身にまとった男たち。彼らは――?
『プレセルタに……冒険者?』
玉座に似つかわしくない顔ぶれが並んでいた。
『これは、何のつもり?』
「何の? もちろんキミに復讐してもらうためだ」
『僕に? 復讐?』
「プレセルタ、冒険者――エリオットや吸収した魂、彼らを死に追いやった元凶を集めてやったのだ。感謝してほしいね」
そう言って、マスケラは笑う。 なるほど、この苛立ちはマスケラだけではなかったんだな――と納得する。だが、今なら制御できないほどではない。
「た、助けてくれ……」
冒険者がそう声にする。全員、恐怖の表情を浮かべている。どうやら、カラダが動かないらしい。首から下だけマスケラが支配しているのだろう。
(精神支配には、そんな芸当もできるのか……)
「――どうした? もっと喜んでもらえると思ったのだが、ずいぶんと冷静だな?」
プレセルタや冒険者の姿を見せて、トルド村の時のように悪霊の魂を暴走させようと考えていたのだろうか?
『そうだね。復讐にもさまざまな方法がある……て、気がついたからね』
エリオットの返答に、マスケラは怪訝な表情を見せる。
「それはどういう意味だ?」
エリオットは先ほどジークフリードに『復讐』した。それは、相手に罪への意識を持たせるというモノだった。『ごめんなさい――』ジークフリードから発せられたあの言葉は、エリオットだけでなく、不遇な最期を遂げた魂たちにとっても憎悪の念を静ませる効果があったようだ。
(それに気づかせてもらったところは、ジークフリードに感謝しないとな)
ただ、言葉でマスケラに伝えても意味がないと思えるし、その義務もない。なら、行動で示すことにした。
『たとえば――』
すると、黒ローブのプレセルタメンバー、冒険者達が、立ったまま突然意識を失う。
「――何のマネだ?」
『誘眠という、魔物のアビリティで眠らせました』
なんだかんだ言って、これを一番使っているよな――とエリオットは苦笑いになる。
『これって、ただ眠らせるだけでなく、見せたいと思った夢を相手に見せられるんだ』
「――!?」
眠っているプレセルタメンバーや冒険者が苦しみ出し、悲鳴のような声をあげる。
『今ね、悪夢を見てもらっているんだよ』
それはエリオットの中に取り組んだ悪霊たちの魂が最後に見た記憶――つまり、死ぬ瞬間の映像である。それをいくつもつなぎ合わせて、『悪夢』として見せていたのだ。
(僕もこれでひどい目に遭ったからね……)
あの恐怖を他の人にも味わってもらわなければと考えていたので、エリオットとしても願ったりだ。
『どう? これも復讐だと思わない?』
まあ、一方的な満足感なのかもしれないが……相手を殺したとして、達成感はあっても残るのは空虚だけ――本当にやりたいことは、『自分がこんなに恐怖を味わったんだということを知ってほしい――』きっと、それなのだ。
「――つまらん」
不満そうな表情を見せるマスケラ。手を上に向けると――
「ファイアボール」
(――えっ?)
マスケラの手から放たれた火の玉が天井にぶつかって爆発。がれきが崩れ落ちると、プレセルタメンバーと冒険者の上へ――
グシャーン!
轟音とともに砂煙をあげた。
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