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第二章 王都ブリド

第二十七話

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『タバサ、まだか?』

 フローネの件を相談するため、ギルバートのいる衛兵本部へ向かう準備をしていたエリオット。
 すぐ出かけたいのに、タバサが「おナカが空いた」とうるさいので、仕方なくテーブルの上にあるお菓子を食べ終わるまで待ってやることにした。だが、次から次へと口に頬張り、まったく止めようとしない。
 ついイライラしてしまう。

「これを食べたら、行きますよぉ」
 そう言って、またビスケットを口に運ぶ。

『もう! サッサと行くぞ!』
 念動力でタバサの右手を引っ張ると――

「うぁ、うぁ、待ってくばはい――」

 まだ口に食べ物が入った状態で、何か言っている。

『今度はなんだよ!』

 タバサは食べ物を飲み込むと、「トイレに行かせてください。も、漏れちゃいます」と涙目になる。

『あーっ! もう! 早く行ってこい!』
 取りいてしまったのだから仕方ないのだが、自分の思い通りに動けない不便さにもどかしさを感じてしまう。
 そのとき、「ただいま!」とタバサと入れ替わりで、部屋に入ってくる少女。

『えっ? セシル? 学校は?』

 まだ午前中である。当然、エリオットは不思議に思う。
「それが聞いてよ――」と言いかけたときに、セシルは知らない二人が部屋にいることに気づく。

「えーと、どちら様ですか?」

 アザ―ブルーのドレスにティアラを頭に乗せた銀髪の少女。その振る舞いから高貴な方だと察しがつくのだが――

「誰だ! オマエは!」
「――えっ?」

 メイドの娘がセシルに対して強い口調で言い放つので、セシルは萎縮してしまう。

「私の娘で、セシルと言います。殿下」
 マーガレットがそう紹介すると、セシルはまた驚く。「で、殿下?」

 それから、エリオットがフローネ達と街で出会って、屋敷まで連れてきた経緯を説明した。

「ちょっと、待って。タバサに憑依ひょういしたって、どういうこと?」
 あれ? 引っかかる部分はそこなの?

「憑依していることをイイことに、変なことをしてないでしょうね?」

 変なことを考える余裕なんてなかったよ――と、思うエリオット。いや、別に余裕があったら変なことをしていたわけじゃないけど……多分。

『そ、それより、学校はどうしたの?』
 しれっと話題を変える。

「そう! それよ!」
 
 それは一時間ほど前のこと――


 セシルは次の授業のため、友達と一緒に教室を移動したところだった。
 さて、席に座ろうとした時――軍服を着た男たちが数人入ってきた。

「セシル、あの人逹って衛兵?」
 友達の質問に、「違うわ」とセシルは答える。

「あの服は――よ」
「――えっ?」

 赤茶色を基調とした衛兵と違い、濃い緑の軍服。王都の街中でもめったに見ない。それがどうして学校に?
 生徒たちがざわつくと、軍服の男が教壇に立って、「静かにしろ!」と怒鳴る。
「これ以降の授業は休講だ。すぐに帰宅しろ!」

 全員驚く。騒ぎ出した生徒たちに教卓をたたいて、黙らせる。

「何度も言わせるな! 黙って帰れ!」

 軍人が激しい口調で叫ぶので、さすがに怖くなる。生徒たちはそそくさと荷物をまとめ、教室を出た。
 校舎を出ると、軍人が至る所に立っている。

「――ねえ? なんだと思う」
 友達の質問に、「う、うん……」と生返事をするセシル。正直、何も思いつかない。しかし――

「何か、起きているのは確かね……」
「それって、事件かしら?」

 楽しそうな表情をする友達だが――

「そこ! ムダ話をするな! さっさと校内から出ろ!」

 軍人が手にした剣を自分たちに向けるので、ビビってしまう。そのまま無言で校門を潜り、「それじゃ」とだけ挨拶あいさつをして別れた。


 ――そんなことがあったと、セシルは少し憤慨しながらまくしたてる。

「それだけじゃないの! 街の至るところに王国軍の兵が立っていて、王都の中心部は入れなくなっているの」

 王都の中心部とは、王宮や王国政府の省庁が立ち並ぶエリアのことである。ギルバートにいる衛兵総本部もその中に含まれていた。

「ねえ、この状況ってなんだと思う?」

 セシルの質問に、エリオットは真剣な顔で『これは……間違いない』とつぶやく。

「間違いない……って?」
『――クーデターだ』
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