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第二章 王都ブリド

第二十四話

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「あ、あのう……」

 首もとに冷たいモノを感じて、震え上がるタバサ。

「なぜ私たちをつけ狙う? どこの者だ?」

 私たち――?
 タバサにナイフを突き付けている者は黒ローブのフードを深く被り顔を見せない。そして背後に隠れている者がもうひとり。やはり、黒ローブでフードを深く被っている。

(黒ローブ……ということは、プレセルタなのか?)

「た、助けて――」
 タバサがなんとか声を出す。

「お、女の子!?」

 タバサを捕まえていた人物は、相手が少女だと気づき、つかんでいた手が緩む。すると、ダバサはその手を振り払って駆け出した。

『うわっ! ダバサ、逃げるな!』

 エリオットは思念伝達で伝えるが、パニックになった彼女は脚を止めない。

「し、しまった!」

 黒ローブの人物が声をあげる。

(マズい。これではダバサが危ない)

 逃げられるのを恐れ、口封じのため命を奪う選択をしてくるかもしれない。しかし、今の声は……

 ダバサは自慢するほどの運動音痴である。つまり、逃げ切れるような脚の速さはない。案の定、すぐに追い付かれてしまう。「来ないでぇ!」と、今度は手にした大きな杖を振り回し始めた。

『うわっ! うわっ! コラッ! やめろ!』

 抵抗すればするほど、自分の身が危なくなるというのに!

「――やむを得ない!」

 黒ローブの人物がそうつぶやくと、振り回す杖をウマくかいくぐる。そのままダバサの懐に入り込むと、ナイフを突き刺そうとした!

(マズい――緊急事態だし、あの手を使うか?)
 エリオットはダバサの『体内に入り込む』イメージをする。
 ナイフがタバサの首もとに刺さる瞬間――腕を払った!

「――!?」

 相手は一瞬だけ慌てた――が、すぐに体勢を整え、もう一度ナイフを突き出す。しかし、今度はカウンターで杖が向かってくると、かわすのが精一杯となった。

「な、なんだ!? 動きが変わった!」

 いきなり、相手が剣士レベルの身のこなしに変化したことで、黒ローブの人物は面食らう。もちろん、タバサが剣士レベルの護身術を会得しているはずはない。実はエリオットがタバサの体に憑依ひょういして、体を操っていたのだ!

「スミマセン! 話を聞いてくれませんか!?」

 ダバサ――に憑依したエリオットが声をかけるのだが、相手は構わずナイフを振り回す。

「その必要はない!」

 動きが速くなった! 明らかに殺意を持った攻撃だ! かろうじて躱す。ギルバートと毎週鍛錬した成果――なのだが……

(まいったなあ……かえって、玄人プロだと思われてしまったようだ)
 余計、会話できる状況ではなくなってしまう。ムキになって向かってくる相手に苦労していると――

「アンリエッタ!」

 もう一人の人物が駆け寄る。鈴を転がしたような美しい声である。

「近寄ってはダメです! 離れてください!」

 相手の意識がこちらから逸れたので、タバサ――もう一度言うが、中身はエリオットである――は背後に回り込んで手を回し、相手の胸元を押さえた。

「きゃあ!」
(――えっ!?)

 女性の悲鳴に驚きエリオットがひるむと、相手は腕を振り払って数メートル離れた。その時にローブが脱げ、相手の容姿があらわになる。その姿とは――

「メ、メイドォォォォッ!?」

 黒いドレスに白いエプロン。頭にはホワイトブリム。日本の歓楽街に生息するアレである。

「ど、どこを触ってるの!」

 自分のムネに手を当て、顔を真っ赤にしながら叫ぶメイド。

「ゴ、ゴメン! そ、そんなつもりじゃ……」

 謝るエリオットだが――考えてみれば、こっちも女の子だ。中身はともかく――

「大丈夫ですか!?」

 もう一人の人物が近寄る。この声、間違いない。こっちも女の子だ。

「来ないでください! こちらは私に任せて、早くロードスター伯の屋敷へ!」
「――――――――えっ?」

 今、なんて言った?

「私もコイツを始末したら、すぐに向かいます!」

 どういうこと? 彼女逹はギルバートに助けを求めている?

「ま、待って! 僕、ロードスター伯爵の知り合いなんです!」

 それを聞いて目を丸くするメイド姿の女の子――

「そ、そんな口から出任せを!!」
 そう叫んで、ナイフを振り上げた時――

「アンリエッタ! お止めなさい!」

 その声にメイドの動きがピタッと止まる。

「――姫様?」

 えっ? 今なんて――
 もう一人がフードを下ろすと、サラサラの銀髪に黄金のティアラが現れた。

「今、『未来』が見えました。彼女の言っていることは本当です」

(未来――? どういう意味だ? それに『姫様』って?)

「私は国王ベルフェルム・アウス・ブリドの娘、フローネです。伯爵のお屋敷まで連れて行っていただけますか?」
「――!?」
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