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第二章 王都ブリド
第二十話
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いったん、ギルバートと別れ街中に出たスレイマンとタバサ。指定された場所で待っていると一台の馬車がやってきて、二人はそれに乗り込む。中にはギルバートがいた。そのまま、ギルバートの屋敷に向かう。
「パパ! エリオットが見つかったって本当なの!?」
サラサラ金髪に大きな瞳。人形のようなカワイイ容姿に、タバサが「うわぁ……」と声を漏らす。馬車を玄関に横付けするや否や、セシルが飛び出してきたのだ。実は一足先にギルバートが手紙を送っており、家族に知らせていたのである。
「居間で待っているように――と書いてあったはずだが……」
苦笑いするギルバートの言っていることを無視して、続けざまに質問する。
「エリオットはどこにいるの? この人たちは?」
辺りを見回すが、エリオットの姿が見当たらないことで不安な表情を見せた。
「とにかく、屋敷へ戻りなさい」
スレイマンとタバサにも入るように促す。
屋敷の中をスレイマンは見渡した。伯爵家としては質素な飾り、その代わり清掃が行き届いている――という印象だ。彼らが居間に入ると美しいご婦人が中にいた。
「あなた、お帰りなさい……それで、エリオットちゃんは?」
ロードスター伯爵夫人、マーガレット・ロードスターは、夫の姿をチラ見程度に済ませその後方を覗きこむ。
「ただいま。まずは座りなさい」
言われたとおり全員、真ん中にあるソファーに座った。
「それで、エリオットはどこなの?」
急かすセシルに、「落ち着きなさい」と念を押すギルバート。
それでも、そわそわしているセシルに、ギルバートはため息をつく。
「いいかい? とにかく、冷静でいるように――」
セシルと夫人が息を飲む。ギルバートが「それじゃ……エリオット君……」と声をかけた。
「……………………えっ?」
突然現れた、カワイイ男の子――
『セシル、おばさん、えーと……僕、死んじゃいました』
ちょっと引きずった笑顔でエリオットが伝えると、セシルと夫人は目を見開いたまま硬直する。
『えーと……セシル?』
バタッ! バタッ!
二人ほぼ同時に気を失った――それから夫人は熱を出し、寝室まで運ばれる騒ぎとなる。
(あと何人、同じリアクションを見ることになるのだろう……)
エリオットは頭を掻いた。
「……わかったわ」
意識が戻ったセシルはエリオットからひと通りの経緯を聞かされると、おもむろに立ち上がり部屋の出口へと向かう。それを見たギルバートが「どこへ行くんだ?」とたずねた。
「決まっているでしょ! あのデブを捕まえるのよ!」
デブ――つまり、エリオットの兄、ジークフリードのことだ。しかし、捕まえる――逮捕するとしても証拠がない。そもそも、セシル自身には何の権限もないのだけど……
「証拠!? だって殺された本人が言っているのよ! これ以上の証拠なんて必要ないでしょ!?」
いやいや、まさか悪霊が証人として裁判に立つわけにはいかないでしょ?
――そう、エリオットは説明する。
「だったら、ジークフリードに吐かせればいいじゃない!」
「それも無理だ。貴族には既得権がある。令状なしに連行する事はできない」
それに、臆病な兄――ジークフリードが自分からこんな暴挙に出たとは思えない。おそらく、ルガーという義母の愛人からそそのかされたのだろう。エリオットとギルバートのつながりに気づいて、エリオットを消しに掛かった――そう考えると納得がいく。つまり、真の首謀者はその男だということだ。ジークフリードを巻き込んだのは、いざとなれば彼に罪を全部被らせるつもりなのだ――と推測する。
「それじゃ、そのルガーという男を捕まえればイイじゃない! そして、ジークフリードも共犯だと吐かせれば、令状は出るんでしょ?」
セシルは簡単に言うが、それも難しい――と説明する。
「相手は魔法で顔を変えていた。もう、その顔で現れることはないだろうから、人相で見つけ出すことはできないよ――」
科学の発達した日本では、指紋や声紋、DNA鑑定だってある。しかし、この世界だと顔を変えられたら立件することは不可能なのだ。
「そんなあ――」
がっくりとするセシル。その絶望ぶりにエリオットの方が申し訳なく思ってしまう。
(だけど、セシルは本当に僕のことを思ってくれていたんだ……)
そう思うと――ヘンな言い方だが――なぜか嬉しくなった。
「セシル、大丈夫だよ」
「――えっ?」
『法的には裁けなくても、僕はヤツらを許すつもりはないから』
「パパ! エリオットが見つかったって本当なの!?」
サラサラ金髪に大きな瞳。人形のようなカワイイ容姿に、タバサが「うわぁ……」と声を漏らす。馬車を玄関に横付けするや否や、セシルが飛び出してきたのだ。実は一足先にギルバートが手紙を送っており、家族に知らせていたのである。
「居間で待っているように――と書いてあったはずだが……」
苦笑いするギルバートの言っていることを無視して、続けざまに質問する。
「エリオットはどこにいるの? この人たちは?」
辺りを見回すが、エリオットの姿が見当たらないことで不安な表情を見せた。
「とにかく、屋敷へ戻りなさい」
スレイマンとタバサにも入るように促す。
屋敷の中をスレイマンは見渡した。伯爵家としては質素な飾り、その代わり清掃が行き届いている――という印象だ。彼らが居間に入ると美しいご婦人が中にいた。
「あなた、お帰りなさい……それで、エリオットちゃんは?」
ロードスター伯爵夫人、マーガレット・ロードスターは、夫の姿をチラ見程度に済ませその後方を覗きこむ。
「ただいま。まずは座りなさい」
言われたとおり全員、真ん中にあるソファーに座った。
「それで、エリオットはどこなの?」
急かすセシルに、「落ち着きなさい」と念を押すギルバート。
それでも、そわそわしているセシルに、ギルバートはため息をつく。
「いいかい? とにかく、冷静でいるように――」
セシルと夫人が息を飲む。ギルバートが「それじゃ……エリオット君……」と声をかけた。
「……………………えっ?」
突然現れた、カワイイ男の子――
『セシル、おばさん、えーと……僕、死んじゃいました』
ちょっと引きずった笑顔でエリオットが伝えると、セシルと夫人は目を見開いたまま硬直する。
『えーと……セシル?』
バタッ! バタッ!
二人ほぼ同時に気を失った――それから夫人は熱を出し、寝室まで運ばれる騒ぎとなる。
(あと何人、同じリアクションを見ることになるのだろう……)
エリオットは頭を掻いた。
「……わかったわ」
意識が戻ったセシルはエリオットからひと通りの経緯を聞かされると、おもむろに立ち上がり部屋の出口へと向かう。それを見たギルバートが「どこへ行くんだ?」とたずねた。
「決まっているでしょ! あのデブを捕まえるのよ!」
デブ――つまり、エリオットの兄、ジークフリードのことだ。しかし、捕まえる――逮捕するとしても証拠がない。そもそも、セシル自身には何の権限もないのだけど……
「証拠!? だって殺された本人が言っているのよ! これ以上の証拠なんて必要ないでしょ!?」
いやいや、まさか悪霊が証人として裁判に立つわけにはいかないでしょ?
――そう、エリオットは説明する。
「だったら、ジークフリードに吐かせればいいじゃない!」
「それも無理だ。貴族には既得権がある。令状なしに連行する事はできない」
それに、臆病な兄――ジークフリードが自分からこんな暴挙に出たとは思えない。おそらく、ルガーという義母の愛人からそそのかされたのだろう。エリオットとギルバートのつながりに気づいて、エリオットを消しに掛かった――そう考えると納得がいく。つまり、真の首謀者はその男だということだ。ジークフリードを巻き込んだのは、いざとなれば彼に罪を全部被らせるつもりなのだ――と推測する。
「それじゃ、そのルガーという男を捕まえればイイじゃない! そして、ジークフリードも共犯だと吐かせれば、令状は出るんでしょ?」
セシルは簡単に言うが、それも難しい――と説明する。
「相手は魔法で顔を変えていた。もう、その顔で現れることはないだろうから、人相で見つけ出すことはできないよ――」
科学の発達した日本では、指紋や声紋、DNA鑑定だってある。しかし、この世界だと顔を変えられたら立件することは不可能なのだ。
「そんなあ――」
がっくりとするセシル。その絶望ぶりにエリオットの方が申し訳なく思ってしまう。
(だけど、セシルは本当に僕のことを思ってくれていたんだ……)
そう思うと――ヘンな言い方だが――なぜか嬉しくなった。
「セシル、大丈夫だよ」
「――えっ?」
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