春の言わんとする処

おりぃ

文字の大きさ
上 下
9 / 10

夏の嵐

しおりを挟む

人から返信がくるのがこんなに待ち遠しく感じたのはいつ以来だろう。
前に感じた不安の胸騒ぎが、初恋の高鳴りみたいになっていた。何を期待しているだと自問しても自答はでてこない、思春期時代に戻ったかのようだった。



授業と授業の合間に、メッセージを開いては閉じてをしていた。
直接会うタイミングがまたあればと思ったが、そもそも所属している学科が真逆の位置にあるためあんまり出会える機会も接点もない。
この前のように偶然あのベンチで会えたらと思っていた。


その日の昼のことだった。
いつも通り東食堂へ向かっている最中、メッセージの通知が鳴った。


ついにその時が来たか。と、メッセージを開いた。




送信者は佳祐だ。


なんだよこいつ。とつい小声で言ってしまったが、悪気はない。
どうやら課題の提出やらコピーやらで忙しいらしく、先に東食堂で席取って飯食っててくれとのことだ。



今日は焼肉定食が出ていた。なんだかそういうのにがっつきたい気持ちになってしまった。
頼んだ定食をのせたおぼんをもち、いつもの席に行こうとしたら先客がいた。
あそこは冷水機が近くて、窓に近く、そしてなにより風の流れがいいお気に入りの場所だったから、すこし残念な気がした。


仕方なく奥の方の扉に近い席に座って、荷物と定食を置き、少し遠い冷水機へ水をくみに行こうとした時だった。


席に近い扉が急に開いたと思ったら、誰かが出てきた。
あまりにも不意のことだったから、避けようとして体を後ろにひくと、食堂の椅子に足を引っ掛けて倒れた。


と、思った。転んで地面に着く寸前で、誰かが俺の手を掴んで助けてくれた。

転んだことに驚いて閉じていた目をゆっくり開くと、そこにはひんやりとした白く細長い手。

とてもじゃないが、男の俺が倒れてるところを助けたのとは思えなかった。



「ありがとうございます…」と言いながら、その手の引いた先を見た。
どこかで見たことあるような、でも会ったことのない女の子だった。


その女の子は俺の顔を見るなり、少し驚いた顔をして、そのまま何度も頭を下げたかと思うと、入ってきた扉から出て行った。

一緒についてきていた同級生らしい女の子たちも、

「ちょっと!どこ行くのよ!!」

「おひるどーすんのー?!」

と言いながら後を追って走っていった。




まるで一瞬のことで、嵐が過ぎ去ったあとみたいになっていた。
その様子を見ていた他の学生たちがざわつきだし、恥ずかしい思いをしたと気づいたときには、無我夢中で焼肉定食にがっついていた。


今日は最悪な日だ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜

月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。 だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。 「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。 私は心を捨てたのに。 あなたはいきなり許しを乞うてきた。 そして優しくしてくるようになった。 ーー私が想いを捨てた後で。 どうして今更なのですかーー。 *この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

ヤマネ姫の幸福論

ふくろう
青春
秋の長野行き中央本線、特急あずさの座席に座る一組の男女。 一見、恋人同士に見えるが、これが最初で最後の二人の旅行になるかもしれない。 彼らは霧ヶ峰高原に、「森の妖精」と呼ばれる小動物の棲み家を訪ね、夢のように楽しい二日間を過ごす。 しかし、運命の時は、刻一刻と迫っていた。 主人公達の恋の行方、霧ヶ峰の生き物のお話に添えて、世界中で愛されてきた好編「幸福論」を交え、お読みいただける方に、少しでも清々しく、優しい気持ちになっていただけますよう、精一杯、書いてます! どうぞ、よろしくお願いいたします!

好きな人がいるならちゃんと言ってよ

しがと
恋愛
高校1年生から好きだった彼に毎日のようにアピールして、2年の夏にようやく交際を始めることができた。それなのに、彼は私ではない女性が好きみたいで……。 彼目線と彼女目線の両方で話が進みます。*全4話

僕は君を思うと吐き気がする

月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。

【完結】カワイイ子猫のつくり方

龍野ゆうき
青春
子猫を助けようとして樹から落下。それだけでも災難なのに、あれ?気が付いたら私…猫になってる!?そんな自分(猫)に手を差し伸べてくれたのは天敵のアイツだった。 無愛想毒舌眼鏡男と獣化主人公の間に生まれる恋?ちょっぴりファンタジーなラブコメ。

処理中です...