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夏
もう一度
しおりを挟む夕暮れもだいぶ落ちてきて、夏の夜を向かえようとしていた頃、佳祐とは学園の最寄り駅で電車を待ちながら、さっきまでの会話の続きをしていた。
「やっぱり、妹さんなにかあったのかな。」
日頃楽観的な佳祐が、まるで自分のことかのように落ち込んだ表情で心配をしていた。
それは二人して電車の窓にうつり変わる風景を見ていたようで、反射する車内の僕らを見ていたからわかった。
「まぁ、あの感じだとそうなんだろうな。さすがにまた今度あの続きを聞こうだなんてこと、できやしないし…」
「俺本当に間が悪かったな。ほんとごめん。」
「いやいや、そもそも俺が変なこと考えながらあそこのベンチに座ったのが発端なんだし。」
『残酷なのは、私のせいよ。』
あのときのいつもとは違う少しだけ澄んだ声とあの横顔。
ずっと頭から離れずにいて苦しめられているようだった。
「そういやさ。お前が言ってたあの交流会の話ってなんだよ。」
そんなことすっかり忘れていた。
というより、話したくて仕方なかったあのもやもやは、もうすでに真優さんの前で吐ききってしまってスッキリしていたからだと思う。
なんだか、その話をまた一から佳祐に話すのは半分面倒くさいという気持ちと、また複雑な気持ちにさせる人を増やしたくないという遠慮な気持ち半分だった。
「んー、まぁ簡単に言うとだな。」
「言葉を見て、聞いて、わかって、誰かに伝えられるって、すごく当たり前のようだけど、俺ら恵まれてるよなって話。」
「ふーん…」
少し間があいて、その間の無音を電車の音がかき消していた。
「なるほどね。たしかにそれはわかるかな。」
珍しく佳祐がこういう哲学的な話に乗っかってきた。
「俺のばあちゃん、もうすぐ米寿迎えるんだけど、耳は遠くなってるし、しゃべるのもむずかしそうにがんばって口動かしてるんだよ。」
「でもやっぱり伝わらないとき、聞こえないとき、わからないときはあるんだよ。そういうときに、ばあちゃんすごく悔しいし悲しいだろうなって思ってさ。」
「どうやったらうちのばあちゃん、よくなるのかなって考えてみたりするけど、もうそれは無理なのかなって思ったりしてさ。」
そして俺も珍しく、そんな真面目な佳祐の言葉を心の中でぐっと捕まえて理解しようとしていた。
たしかに俺もいつかそうなるかもしれない。
それが明日事故にでもあったりしてそうなったなら、どう感じるんだろうかと思った。
自分ならどうなんだろう。
考えたことのない、考えても答えがない答えを、考えるのに余裕のない僕が、一生懸命にあるものにしようとしていた。
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