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夏
はじめての顔
しおりを挟む一瞬、聞き間違えたのかと思った。
どうしたんですか。なんて質問をあの悲しげな横顔を見て、できるわけがない。
「真優さん、今なんて…。」
素直に口から漏れてしまっていた。
「ごめんね。つい昔のことを思い出しちゃってさ。」
すこし、泣いてるようにも見えた。でもその作り笑顔を崩してしまいそうだった。
涼しげな真優さんの横顔。初めて真優さんの顔を見て切ないと思った瞬間だった。
「僕で良かったら話聞かせてくださいよ」
「ちょっと重たい話になるんだけど、いいかな?」
「そんなの全然気にしないでください。むしろ僕の方が悪いことしたのに。」
「昔、私の妹がね。」
「………って、あれ。」
花壇の奥先で真優さんが何かを見つけたようだ。
「おーい!拓馬!なにしてんだ…って、真優さんじゃないですかー!!」
元気に校舎へ反響して聞こえる声。
「ふふ。佳祐くん、相変わらずね。」
無邪気に大きく手を振りながら駆け寄って来る佳祐を見て、さっきまでの作り笑顔がやっと崩れて、いつもの真優さんの笑顔がそこにあった。
「あ、そうだった。俺あいつと待ち合わせしてるんでした…。すっかり忘れてました。」
真優さんの笑顔を見てほっとした。
そんな自分からも笑顔がこぼれていた。
「佳祐くんと相変わらず仲がいいのね。またよかったら、遊びにでも誘って。」
「君たちを見てるとなんだか元気が出るのよ。楽しかったわ。」
「またね」
僕の『えっ。』という心の声をかき消すかのように、真優さんは立ち上がり、佳祐の方へと歩いていく。
僕はまだ座ったままで、押し殺された心の声が渇いた喉に詰まってうまく消化できずに変な苦しさがあった。けれども、新しい心の声は『うれしい』になっていた。
遠くからだったもので、はっきりとはわからなかったけれども、真優さんは佳祐と少し挨拶をして、『またね』という口の動きで小さく手を振り、佳祐はそれにあわせて深くお辞儀をしていた。
真優さんが校舎の角を曲がって姿が見えなくなると、さっきよりも早く走ってこっちへ佳祐が向かってくる。
そして、少しずつ満面の笑みが近づいてきて、さっきまで真優さんが座っていた席へ、どんと座ってきた。
「おいおい!どうゆうことだよ!俺に内緒で真優さんと二人ベンチで楽しく会話ってよ!」
「いやいや、わりぃわりぃ。気がついたら真優さんと話しててさ…」
「それよりもさ!さっき真優さんから聞いたんだけど、拓馬くんによろしくいってあるからねってなんだよ!おいおい!!」
ぐりぐりとこっちへ近づいてくる佳祐。
さっきまでの雪のベンチが真夏の海岸のベンチにでも変わったかのようだ。
うっとおしいなぁと小声で佳祐の肩を少し押し、じゃれてくる犬を諭すように、さっきまでのことを一通り話した。
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