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夏
震えた心の声
しおりを挟む大学一年のころに聴覚や声帯に障害がある人たちと交流する会があったのを、ふと思い出した。
5人の来校者の方々それぞれに理由もそれぞれ。
生まれついてから聴こえない人、病気で声が出なくなった人、事故で目が見えなくなった人。
さまざまだった。
その中で一年の俺たちと同じ年齢で聴覚に障害があって物音が一切聴こえない女の子がいた。
同年代というのもあって、他の大人の方々よりも話しやすそうとおもって話しかけてみたものの、「声」という当たり前の伝言ツールが使えないという壁は思っているよりも分厚く大きかった。
その時のことを思い出しながら、俺は佳祐に聞いてみた。
「その真優さんの妹さんの名前、わかった?」
「さくらさんって言うんだよ。ひらがなで『さくら』らしいよ。」
「さくらさんか。可愛らしい名前だな。」
「どうやって名前を知ったんだ?」
「え、そんなのさくらさんの友達が名前呼んでるからだよ。」
「そっか。耳は聞こえるんだもんな。」
なんだか安心した気持ちになった。
「どうしたんだお前。さくらさんのこと知ってたの?」
少し暗い表情を見せてしまっていたのだろう。
佳祐が俺の顔色を伺う。
「そういやお前。一年のころの障害者交流会、欠席してたもんな。そのときのことを思い出してよ。」
「あぁ、あれか。確か俺その時部活の練習試合だったんだよ。」
「そのときなんかあったのか?」
また佳祐が念を押すかのように、俺の顔色を伺って、おとなしく話す。
「それがさぁ。」
ピンポーン。
俺の声を打ち消すかのように、学園のチャイムがなった。
「なんだよ、空気読まないなぁ。ここのチャイムは。」
「さぁ、いこうぜ。続きは放課後な。」
佳祐の明るい声とまだ残響するチャイムで、
俺の長くなるはずの話も、少し長いと思えた昼休憩も、泡のように無くなった。
震えていたあのときの自分と、それよりも震えていたあの子の心の声を、この夏の暑さが鮮明に思い出させてきたように思えて、ますますこのじれったい暑さが嫌になりそうだった。
その喉の乾きを、まだ少し残っていたカフェオレでごくりと潤して、俺は授業のある教室へ向かうことにした。
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