春の言わんとする処

おりぃ

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10年の夏

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「この間、例の人にあったよ。相変わらず大学内で有名なだけあるなぁ。美人さんだったよ」

キャンパスの少し離れたところにある食堂で、カツカレーを元気よく頬張りながら、こないだ茶髪に仕立てたばかりの佳祐がそう話す。

「お前ほんとにそれ好きだよな。」

「だって、俺の好みにばっちりなんだよ。スタイルも性格も声の色も。」

「真優さんのことじゃなくて、今お前が食ってるやつのこと。」

「なんだ、カツカレーのことか。」
「だって安くて美味くてボリュームがある。お金がなくて学業に励む学生の味方なんだぞ?」

佳祐のこういう楽観的に過ごしてるのを見るのは嫌いではない。
食事のときに汗かきながら身振り手振り多く、口の中に最後までとっておいたカツを頬張りながら話をすること以外は。

同じ学部の佳祐とは、よくキャンパス東食堂で昼食をともにして、こうやって他愛もない会話をしている。


「ていうか、真優さんの話に興味ないのかよ。」

「なんの話。」

腹が減ったからと大盛りにしたカツカレーをまだ食べ終わっていない佳祐が、水滴のついたコップの水をぐっと飲み干して言った。


「今度真優さんの発表会があるんだよ。それも真優さんが主役なんだってよ。」


思わず佳祐につられて飲んだペットボトルのカフェオレを吹きこぼしそうになった。

「まじかそれ。」
「やっぱりすごいな、あの人。」

「ほーら、食いついた。やっぱりあの人はすごいんだよ。」

最後の一口のカツカレーをスプーンで口へ運び、飲み込んだ佳祐が一言。




「拓馬。一緒にその発表会行かないか?」




嬉しい言葉ではあったのだが、その時の俺は外の暑さとは関係ないぐらい冷静に話を続けた。


「そりゃあ行きたいけども。でもお前チケット持ってるのか?」

「心配なく。チケットを貰えるアテがあるんだよ。」

「まさかこないだ行った飲み会で…とか言うなよ。」


「よくわかったな!そう!正解!」


こいつが茶髪に染めた理由はそれのためだったのだ。

別の大学の女子大生との飲み会があるといって、張り切って似合いもしない茶髪でモテようと必死になったけども、結果は言わずもがなである。

それもそうだ。こんなマナーも悪くて楽観的なモテることに必死なやつだからな。

「おいおい、まさかとは思うが。それ真優さんの知り合いとか友達からもらったのか?」


「いや、そうじゃないんだよ。」


「じゃあどんな人から?」


「真優さんの妹さん」
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