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第六章 加速する愛

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 ゼンとゼルは、自分で説明しておきながらも、やはり苛つくのか、俺を力強く抱きしめて落ち着こうとしていた。


「ゼン、ゼル、大丈夫だよ。俺は二人以外と番う気はないし、そもそも番えない。それを知らないから、みんな俺を番にしようとしてるんだ。そんな事よりも、あとの一人が何を考えてるか分からなくて怖いよ」


「それなら大丈夫だよ。カカ様、あっちに帰ろう」


 スイセンが急に現れると、口にはボロボロになった、ゲッカとカンザシが咥えられていた。


「ゲッカとカンザシは、カカ様がこの世界の為に生んだんだ。悪魔と魔族に強いし、穢れも少しずつなら祓える。バァ様から、ゲッカとカンザシは役目を貰ってきたんだよ」


 母様……何をしたら、この二人をこんなにボロボロに出来るんだ。


「ゲッカとカンザシは、世界樹に集まる穢れ祓いと、悪魔と魔族の魂の回収、それとここを護るように頼まれてた。カカ様とは、今回はお別れ」


『やだ!! 兄様ばっかり狡い!!』


「ゲッカもカカ様について行きたい!!」


「カンザシだって、カカ様にくっつきたい!!」


 二人とも子供の姿なため、精神年齢が幼く、ポロポロと涙をこぼしていた。


 まあ、確かに可哀想ではあるよね。俺は起きたばっかりだし……俺も全然触れ合えてない。


「洸とスイセンは先に戻って貰ってもいい?? 俺もこっちであと二日は過ごしたい。ゲッカとカンザシは、スイセンの時と違って、お腹の中に居た時も可愛がってあげれなかったし……」


「しゃーないな。あと二日やで。凛くん、そろそろ練習もせんとアカンやろ??」


「せやで、俺等全く練習できとらんのやし、凛と俺はそろそろ大学も行き始めんと」


「なんか、久しぶりに聞いたなあ……俺も一回でいいから帰りたかった」


 愁が静かに呟くと、母様の声が俺達全員に聞こえるように、頭に響いてきた。


「いいよ。許可しよう。シュウとシュンはよくやってくれているし、今回はゲッカとカンザシも生んでくれた。シュンがこちらに居るなら、リンに呼ばれた時のみ行けるようにしよう。コウと同じで、リンが呼べば行けるが、呼ばなければ行く事は出来ない。ゲッカとカンザシもだよ。どっちかがこちらの世界に居るなら、スイセンが迎えに来れば行く事を許可する」


『兄様!!』


「僕の気分次第だよ。ゲッカとカンザシは、僕をカカ様から遠ざけようとするし」


「カンザシはするかもだけど、ゲッカはしない!!」


「ゲッカは絶対にするけど、カンザシは絶対にしない!!」


「あー、言い忘れてたけど、魔族とまでは言わないから、悪魔の魂を全員分回収してからだ。リンが帰れば、隔離から解き放つ。リンに会いたかったら頑張る事だ。あれだけ迷惑をかけたんだし当然だろう?? 本当はシュウとシュンに任せて、悪魔と魔族は放っておこうとしたけど、ゲッカとカンザシが居るなら、早くヴァルシアに持って来た方がいいからね。それじゃリン、いつでもこっちの世界に来ていいからね」


 え!? 解き放つって……しかも、この二人は本当に大丈夫なのか!?


「また爆弾を……ゲッカ、カンザシ、頼んだよ。凛くんの為になる」


「分かった!! ゲッカ全力で頑張る!!」


「カンザシもすぐに終わらせるから!!」


『だからカカ様、抱っこして!!』


 うちの子って、やっぱり可愛いよね?? スイセンもゲッカもカンザシも、みんな可愛いし、ちゃんと言えば分かってくれる。


 スイセンに咥えられた状態で、ゲッカとカンザシが俺に向かって手を広げてくる姿は可愛く、二人を同時に抱きしめると、二人とも俺の匂いを嗅いでいるのが分かるが、これはスイセンが俺に擦り寄ってくるのと、同じような感じだろう。スイセンが二人を離したため、抱っこしたままゼンとゼルの間に座り直すと、少し身体がこわばった二人が俺にしがみついてくる。


「そんな怖がらんでも、基本凛くんに何もせんかったら、俺等も放っとくで」


「凛に甘えたいんやったら、普通に凛の子として甘えたらええんや。それくらいは許したるわ」


「ゼンもゼルも優しいから大丈夫だよ。それに、少し魂が欠けても大丈夫。俺は母様に真っ二つに割って貰ったし、ゼンとゼルには尻尾を少し食べられたからね。番の印は、合計で四回もつけられたし、首は魂まで噛まれてる。だから、少しくらい欠けても大丈夫だよ」


 その瞬間、甘えてきてたはずの二人が、俺から離れて洸と愁の所に行ってしまい、抱っこされた二人はまた俺の所に戻された。


「言ったでしょ?? 凛が一番怖いんだって。それじゃ、俺はスイセンと一緒に先に帰ってるね。凛、あっちで待ってるよ」


「カカ様、僕もユラと一緒に待ってる!!」


 二人はあっさり居なくなってしまい、ゲッカの方は洸が居なくなって不安になったのか、本気で泣き始めてしまった。


「はぁ……しゃーないな。ほれ、こっちに来てみぃ。お前等も凛の記憶は、少し見たんやろ?? 特にゲッカは凛の命が削られてくとこは、恐怖でしかなかったんやないか??」


 ゲッカがゼルに抱えられると、次はカンザシがゲッカの方に手を伸ばして泣き始めてしまい、ゼンが自分の膝の上に座らせる。


「カンザシは音に敏感やし、凛くんの悲鳴とか、パニックになっとる時の凛くんを見るんは怖かったやろ。スイセンも、最初は凛くんの記憶を怖がっとった。お前等、凛くんに甘えたいけど怖いんやろ?? 流石にお前等は泣きすぎなんや。凛くんの気を惹きたい以前の問題やな。ずっと本気で泣いとるやんか。凛くんが怖いんか、その記憶が怖いんか……それとも凛くんが消えてまいそうで怖いんか??」


 二人は声を揃えて、なんの迷いもなく『全部怖い』と、泣きながら言った。

 




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