上 下
310 / 361
第五章 もう一つの世界

61

しおりを挟む


 リュカはかなり疲れきっていて、愁も疲れている様子で、俺の頭をひたすら撫でてくる。


「愁もリュカも疲れとるなあ。何があったんや??」


「ゼン……何があった?? じゃない!! この世界樹のお陰で、他国からも手紙が何通もくるわ、国内からも神聖な木を調べに行って、この国の為に利用しようなんて、馬鹿な事言い出す奴等が出てきたんだよ。そこにもってきて悪魔が凛くんを探し回ってる」


「世界樹のお陰っちゅうくらいやから、良い事でもあるんやろ?? 愁さんは深く考えすぎや。悪魔は油断できんけど、穢れが増えたんやったら、世界樹が吸い取ってくれるんやし、大丈夫やって夜に喋ったやろ」


「それはいい事だ。でもね……ヒトはすぐに穢れる。利用できそうな物は、利用して自分の物にしようとする。俺とライアへの裏切り者も出てきてる。それはまだいい……一番は他国からが厄介すぎるんだよ。特に獣人の国が厄介だ。凛くんを探してる。この国に居る獣人より、獣に近いんだと思うけど、獣王が居る筈だと言ってきててね……」


 世界樹って言うくらいだから、俺のマナも混ざってるせいで、この世界中に俺とゼンとゼルの存在が、バレちゃったって事か。それでも居場所が分からないのは、お義母さんの隠す魔術と、母さんの守りの魔術のお陰かな。


「まあ、そうなるやろな。そんで、他国の天界の住人はなんやって?? 何人かは居るんやろ?? 凛くんに会いたいとでも言っとるんか??」


「それはそうなんだけど……い、言わないとダメか??」


「言いたくないんやったら、言わんでもええよ。愁さん達が、ちゃんと処理してくれるんやったらな。それで俺等の所に押し寄せてくるんやったら、俺等は帰る。こんなもん勝手に生やしといて、無責任やって言うんやったら、話してくれんと困るんや。俺等は別に世界がどうなろうが正直どうでもええし、寧ろ一旦壊せばええと思っとる。俺等が魂を管理すればええだけやしな」


 なんか……ゼンもゼルも、だんだん考え方が神になってきてるんだよな。特にこっちの世界には厳しい気がする。何か考えがあるんだろうけど……俺はどんな二人になってもサポートをする。愁と駿も変わりつつあるから、これからが重要だ。


「じゃあ言うけど、暴れたりするなよ。まず獣は、凛くんを番にしたがってる。そして天使は、本当に真っ白な存在が居るのかと疑っていて、リュカが世話になった天使もその一人だ。そしてルシアンの息子だと分かってる者は、凛くん達が接触した奴等だけだ。それに水星の誕生も疑っているね」


「あ!? 番やって?? そんなん許すわけないやろ。ちゅーか、存在を疑うんは構わんで。正直どうでもええし、疑いたいなら勝手に疑ってろや。その領主になっとる天使にも会う気はない。凛くんが会いたくなさそうやからな」


「せやなあ。凛が会いたくないと思っとる奴に、俺等が会わせる訳ないやん。今はここを離れる方が危険や。俺等に会いたい奴等は、ここに来たらええんや。やましい事がないなら、ここまで来れる筈やで。愁さんが大変なんやったら、世界樹を目指せって言ってもええよ」


 ゼンとゼルには気づかれてたのか。俺が領主に会いたくないって事……きっとその天使は、リュカが欲しかった筈だ。だから俺の存在を疑うし、自分の目で確かめたいんだろうけど……


「ゼンとゼルの言う通り、会いたいならここまで来たらいい。疑うなら自分の目で確かめればいい。愁を巻き込むな。この国を巻き込むな」


「(リン様の望みに我等は応えます!!)」


 ルイが遠吠えをあげると、森中の獣が鳴き声をあげ、獣から獣へと伝わっていく。


「愁、良かったな。これで解決や。その証拠にライアが飛んできたで」


 ズドンッと音を立てて着地したライアは、巨体を人形に戻して俺に撫でろと、頭を突き出して訴えてくる。


「(リン様、我がドラゴンを連れて参りました。空の護りはあのドラゴンにお任せ下さい)」


 え……ドラゴン??


 空を見上げると、確かにドラゴンが飛んでいて、世界樹に止まった後はジッとこちらを見て、ペコリと頭を下げてくる。


「かっこいい」


「確かにカッコええなあ。ちゅーかあのドラゴン、どうするんや?? 凛くんの配下になりたいとか言わんよな??」


「(リン様の配下になりたいそうです。しかし、リン様が嫌なら、放っておいて構いません。我のように獣が混ざっている訳ではありませんから)」


 配下になりたいの?? でも、あの大きさ……空間に入らないし、ここを護ってもらうしかないんだよな。


「配下にしたらええやん。空間に入れんでも、ここに置いといたらええんやし。集まってきたら大変やけど、あいつだけなら問題ないやろ」


「あいつは獣やないで。凛くんに何かしたらどないするんや。俺は反対や」


 でも、配下にしない方がもっと危険だよな……あ、そうだ。


「ゼンとゼルの配下にしたら?? 水星の配下なら、何も出来ないと思うよ。君もおいで!!」


 ドラゴンは今の会話を聞いていたのか、渋々降りてくると、ビクビクしながらも二人に頭を下げた。


 どんだけ怖いんだ。それにコア……お前も怖がってどうする。


「はぁ……しゃーないな。非常食として配下にしとくか。俺に配下はいらんし、ゼルの配下にしときや」


「兄貴だけの配下にしたらええやん。俺はいらん」


「あ!? お前が配下にしないんやったら、誰が配下にするんや」


「兄貴が配下にしたらええやんか!!」


 あー……可哀想。ドラゴンが助けを求めてきてる。あのかっこいいドラゴンが、震えながらこっちをチラチラ見てくるよ。仕方ないか……


「よろしくね。リュカに呼び名を付けてもらおうか」


「ヴィンでいいんじゃない?? それより凛……怒ってないの??」


「ヴィンだって。これからここの護りを獣達と一緒によろしく。それとリュカ、俺はリュカには怒ってないよ」


「凛くんの配下に……獣じゃない奴が……」


「凛の配下が一番やろ。まあ、凛に何かしようもんなら許さんけどな」


 ヴィンはコクコクと頷きながら、また世界樹の上に行き、リュカには腰を休めるように言うと、ショックを受けた後に愁を睨んだが、リュカに睨まれた愁は首を横に振っていた。






しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

転生したら激レアな龍人になりました

BL / 完結 24h.ポイント:340pt お気に入り:3,013

レティシア公爵令嬢は誰の手を取るのか

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:241pt お気に入り:40

垂れ耳兎スピンオフ

BL / 完結 24h.ポイント:213pt お気に入り:196

【短編】王子の婚約者なんてお断り

恋愛 / 完結 24h.ポイント:213pt お気に入り:592

当て馬にも、ワンチャンあってしかるべき!

BL / 完結 24h.ポイント:461pt お気に入り:2,405

処理中です...