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第五章 もう一つの世界
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しおりを挟むリュカはかなり疲れきっていて、愁も疲れている様子で、俺の頭をひたすら撫でてくる。
「愁もリュカも疲れとるなあ。何があったんや??」
「ゼン……何があった?? じゃない!! この世界樹のお陰で、他国からも手紙が何通もくるわ、国内からも神聖な木を調べに行って、この国の為に利用しようなんて、馬鹿な事言い出す奴等が出てきたんだよ。そこにもってきて悪魔が凛くんを探し回ってる」
「世界樹のお陰っちゅうくらいやから、良い事でもあるんやろ?? 愁さんは深く考えすぎや。悪魔は油断できんけど、穢れが増えたんやったら、世界樹が吸い取ってくれるんやし、大丈夫やって夜に喋ったやろ」
「それはいい事だ。でもね……ヒトはすぐに穢れる。利用できそうな物は、利用して自分の物にしようとする。俺とライアへの裏切り者も出てきてる。それはまだいい……一番は他国からが厄介すぎるんだよ。特に獣人の国が厄介だ。凛くんを探してる。この国に居る獣人より、獣に近いんだと思うけど、獣王が居る筈だと言ってきててね……」
世界樹って言うくらいだから、俺のマナも混ざってるせいで、この世界中に俺とゼンとゼルの存在が、バレちゃったって事か。それでも居場所が分からないのは、お義母さんの隠す魔術と、母さんの守りの魔術のお陰かな。
「まあ、そうなるやろな。そんで、他国の天界の住人はなんやって?? 何人かは居るんやろ?? 凛くんに会いたいとでも言っとるんか??」
「それはそうなんだけど……い、言わないとダメか??」
「言いたくないんやったら、言わんでもええよ。愁さん達が、ちゃんと処理してくれるんやったらな。それで俺等の所に押し寄せてくるんやったら、俺等は帰る。こんなもん勝手に生やしといて、無責任やって言うんやったら、話してくれんと困るんや。俺等は別に世界がどうなろうが正直どうでもええし、寧ろ一旦壊せばええと思っとる。俺等が魂を管理すればええだけやしな」
なんか……ゼンもゼルも、だんだん考え方が神になってきてるんだよな。特にこっちの世界には厳しい気がする。何か考えがあるんだろうけど……俺はどんな二人になってもサポートをする。愁と駿も変わりつつあるから、これからが重要だ。
「じゃあ言うけど、暴れたりするなよ。まず獣は、凛くんを番にしたがってる。そして天使は、本当に真っ白な存在が居るのかと疑っていて、リュカが世話になった天使もその一人だ。そしてルシアンの息子だと分かってる者は、凛くん達が接触した奴等だけだ。それに水星の誕生も疑っているね」
「あ!? 番やって?? そんなん許すわけないやろ。ちゅーか、存在を疑うんは構わんで。正直どうでもええし、疑いたいなら勝手に疑ってろや。その領主になっとる天使にも会う気はない。凛くんが会いたくなさそうやからな」
「せやなあ。凛が会いたくないと思っとる奴に、俺等が会わせる訳ないやん。今はここを離れる方が危険や。俺等に会いたい奴等は、ここに来たらええんや。やましい事がないなら、ここまで来れる筈やで。愁さんが大変なんやったら、世界樹を目指せって言ってもええよ」
ゼンとゼルには気づかれてたのか。俺が領主に会いたくないって事……きっとその天使は、リュカが欲しかった筈だ。だから俺の存在を疑うし、自分の目で確かめたいんだろうけど……
「ゼンとゼルの言う通り、会いたいならここまで来たらいい。疑うなら自分の目で確かめればいい。愁を巻き込むな。この国を巻き込むな」
「(リン様の望みに我等は応えます!!)」
ルイが遠吠えをあげると、森中の獣が鳴き声をあげ、獣から獣へと伝わっていく。
「愁、良かったな。これで解決や。その証拠にライアが飛んできたで」
ズドンッと音を立てて着地したライアは、巨体を人形に戻して俺に撫でろと、頭を突き出して訴えてくる。
「(リン様、我がドラゴンを連れて参りました。空の護りはあのドラゴンにお任せ下さい)」
え……ドラゴン??
空を見上げると、確かにドラゴンが飛んでいて、世界樹に止まった後はジッとこちらを見て、ペコリと頭を下げてくる。
「かっこいい」
「確かにカッコええなあ。ちゅーかあのドラゴン、どうするんや?? 凛くんの配下になりたいとか言わんよな??」
「(リン様の配下になりたいそうです。しかし、リン様が嫌なら、放っておいて構いません。我のように獣が混ざっている訳ではありませんから)」
配下になりたいの?? でも、あの大きさ……空間に入らないし、ここを護ってもらうしかないんだよな。
「配下にしたらええやん。空間に入れんでも、ここに置いといたらええんやし。集まってきたら大変やけど、あいつだけなら問題ないやろ」
「あいつは獣やないで。凛くんに何かしたらどないするんや。俺は反対や」
でも、配下にしない方がもっと危険だよな……あ、そうだ。
「ゼンとゼルの配下にしたら?? 水星の配下なら、何も出来ないと思うよ。君もおいで!!」
ドラゴンは今の会話を聞いていたのか、渋々降りてくると、ビクビクしながらも二人に頭を下げた。
どんだけ怖いんだ。それにコア……お前も怖がってどうする。
「はぁ……しゃーないな。非常食として配下にしとくか。俺に配下はいらんし、ゼルの配下にしときや」
「兄貴だけの配下にしたらええやん。俺はいらん」
「あ!? お前が配下にしないんやったら、誰が配下にするんや」
「兄貴が配下にしたらええやんか!!」
あー……可哀想。ドラゴンが助けを求めてきてる。あのかっこいいドラゴンが、震えながらこっちをチラチラ見てくるよ。仕方ないか……
「よろしくね。リュカに呼び名を付けてもらおうか」
「ヴィンでいいんじゃない?? それより凛……怒ってないの??」
「ヴィンだって。これからここの護りを獣達と一緒によろしく。それとリュカ、俺はリュカには怒ってないよ」
「凛くんの配下に……獣じゃない奴が……」
「凛の配下が一番やろ。まあ、凛に何かしようもんなら許さんけどな」
ヴィンはコクコクと頷きながら、また世界樹の上に行き、リュカには腰を休めるように言うと、ショックを受けた後に愁を睨んだが、リュカに睨まれた愁は首を横に振っていた。
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