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第五章 もう一つの世界

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「カカ様連れ戻せたー!!」


「凛!! 兄さん!! おかえり……そ、それで……えっと、あの内容は……」


 玄関のドアを開けると、スイセンと洸がお出迎えに来てくれて、洸は俺に抱きつきたいのか、手を出したり引っ込めたりしている。


「凛くん、洸がソワソワしとるから、落ち着かせてやってや。話はそれからやな」


 俺がゼンに下ろして貰うと、洸は優しく俺を抱きしめて、少し長めのキスをしてくる。


「んンッ……はぁ……んぅ」


「凛はやっぱ愁さんより、洸にされる方が気持ちよさそうやな。俺等が教えたからか??」


 ほんとゼンとゼルは、兄弟には結構優しいというか、共有癖があるんだよな。


「凛……大好き。おかえり」


「ただいま。まだこっちでは一日しか経ってないけど、やっぱり寂しかった??」


 コクリと頷く姿は、やはりどこかコアに似ているし、洸は可愛いと思ってしまう。その後はゼンとゼルに上書きしてもらい、空間を開けたままにして、カイとレイや小さい子達が、自由に出入りできるようにした。


「ウサ、ありがとうね。中で休みたかったら休んでいいよ」


 ウサは、結構庭が居心地いいのか、フルフルと横に首を振って、庭の芝生で寛ぎ始めた。そして問題のルベロだが、スイセンと洸は可愛がってくれて、カイの上に乗って嬉しそうに尻尾を振っている。


「ルベロ、注事項があるんだけど、あそこの部屋とあっちの部屋は出入り禁止だよ。ドアに触るのもダメ。母様のペットだったし、ルベロは分かるよね??」


 ルベロは何かを思い出したのか必死で頷いて、ちゃんとドアの位置など確認している。


「なんや、やらかした事あるんか?? ルシアンに怒られて、よく無事やったな。凛くん、今佐良さん呼んだんやけど、そん時に愁の部屋の事話そうか。洸もそれでええか??」


「だ、大丈夫だけど……愁さんって変態だったの??」


「ブハッ……まあ、変態やろな。愁さんは、ずっと凛に発情しとったようやし……そういや、耀と連絡取れるか?? 今やなくてええんやけど、愁さんがセッターとして、耀にノート見せてやれって言うとったんや」


「耀なら、明日から大会だよ」


 ん?? 明日……そうだった!!


「洸は!? ごめん……俺のせいで」


「凛のせいじゃない!! 大丈夫だよ。俺は今回……断ったんだ。あと佐良さんに頼んだの。凛と兄さん達のサポートをしたくて……駿さんが居なくなって、マネージャーが居なくなっちゃったから……それに、あとで佐良さんも説明すると思うけど、愁さんと駿は行方不明扱いになって、レオも居なくなったから、今年の日本代表も全部見直す予定なんだって。だから今年の日本代表は活動なし。ファルコンも、愁さんと駿さんが行方不明の状態で、普通に出るのは難しいから、今年のシーズンは出ない事になったって……」


 確かに……無理だ。愁は有名すぎたし……でも、だからって洸がマネージャーになる必要ない。


「まあ、そうやろなとは思っとったわ。愁の場合、世界でも有名やったからな……今年は無理やろ」

 
「洸はええんか?? 凛とやりたい言うとったやん。マネージャーはコートには入れんで」


「うん。俺……凛の試合動画観て思ったんだ。間近で、凛と兄さん達の試合を観たいって……絶対綺麗なんだろうなって……俺は試合中だろうが、家だろうが、三人が帰ってくる場所に居たいんだ。ごめんなさい……自分勝手で」


「洸は、自分勝手なんかじゃない。俺達の帰ってくる場所を守ってくれるんでしょ?? ありがとう……俺には帰る場所が必要なんだ。だから俺からのお願い……俺達の帰る場所を守って。おかえりも、お疲れ様も、洸が言って」


 洸はやはり不安だったのだろう。珍しく声に出して、わんわん泣きながら、俺を力強く抱きしめてきて、そんな洸をゼンとゼルは、可愛い弟を見る目で優しく頭を撫でていた。


ピンポーン


 それから少しするとインターホンが鳴り、母さんが父様を、連れてやって来た。


「……父様」


「(あぁ、凛……僕の可愛い息子)」


 父様は俺の記憶が戻った事で、泣きそうな顔で俺を抱きしめてこようとするが、それはゼンとゼル、それから洸が阻止した。


「(また、なんかするつもりだろ。凛くんの父親だろうが関係ない。俺達はレオを許してない)」


「(凛を傷つけたのは、確かに俺達だけどな……一番はお前だ。レオ)」


「ま、待って!! ゼン、ゼル、落ち着いて。確かに父様は、あんな事する馬鹿だけど、考え無しではないんだ。母様を怒らせるし、今母様がイライラしてるのも、父様のせいかもしれないけど、そんな馬鹿なところが母様はいいんだって言ってた。母様が許してる以上、父様の馬鹿はもう手遅れだから、ゼンとゼルがそんなに怒る必要はない……って、なんで笑うの」


 俺が必死で止めようとしているのに、何故か二人は笑いだし、洸と母さんも笑いだして、父様は泣いていた。



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