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第四章 縛りと役目

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~sideゼンとゼル~


 ゼンとゼルは、眠ってしまった凛を愛しそうに、涙を流しながら見つめていた。


「凛くん……レオの子やったんやな。生まれて肉体もろた途端、真名も貰わんまま飛び出しとったけど……これは凛くん覚えとらんよな」


「俺等が覚えとらん事を、凛が知っとったように、魂の記憶なんやろ。最初から……俺等のとこに来る為に……追われて銃で撃たれても、幸運欲しさに……切り落とされても……絶対に川まで逃げとった。イルカに頼んどった。俺等のとこに連れて行ってって……何回も、何回も」


 ゼンは、知っていた事も多かったが、ゼルは知らない事が殆どで涙が止まる事はなく、震える手で凛の涙を拭う。


(凛くん、最後は分かっとったんやな。分かっててオカンにお願いしたんか)


 凛は8度目の死の時に、天界でジュリにお願いしていたのだ。次に消滅せず、イルカが天界に連れて来てくれたら、どんな痛みにも苦しみにも耐えるから、魂を半分にして地上に戻してほしいと。


 ジュリは、代わりに今までの記憶を、全て消すと言ったが、それでも必ずゼンとゼルを見つけると言ったのだ。まるで自分はゼンとゼルの為に、生まれてきたかのよう言う凛の意思は強く、ジュリは魂を半分にする事は出来ないからか、凛の最初の母親である神に協力してもらい、ジュリは記憶を隠して、消したふりをした。


「凛くん……ありがとう。俺等の為に、痛かったやろ?? 苦しかったやろ?? イルカは海で死なんと、連れていってはくれん……魂だけで海まで行って……消滅せんように痛みに耐えて……頑張ったなぁ。凛くん……絶対に守ったるからな」


「やっぱり、凛を追っかけとったのって……悪魔憑きやったよな。それも、春高の時の奴やろ」


「そうやろな。凛くんは、あんま知らんようやったけど、猫って言っとったから、悪魔関連なのは間違いない筈や」


「それと凛が生まれた時、犬も居ったけど……あれ陣やろ?? あいつも猫やなくても、狙われとるんやない??」


 凛が生まれた時、一緒に生まれたのは、猫ではなく犬だった。それを生まれたばかりの凛が、どう思ったのかは分からないが、凛はさよならを言うように犬に擦り寄ってから、肉体を得て地上に飛び出したのだ。しかし、すぐに肉体は衰弱し始め、仕方なく身体を売って過ごそうとした時、探しものを見つけた。いや、見つかってしまった。


「(君……大丈夫?? 襲われたのか??)」


「(まだ、してない……これからだったの。お金まだ貰ってない)」


「(そんなの必要ない。一緒においで……それとも、俺達が怖い??)」


 凛が首を振ると、二人は喜んで名前を付けてあげ、綺麗に真っ白になった凛は、これで二人を探せると思った。しかし、それどころではなくなってしまった。変な奴等に追われる日々……治安の悪い時代は、凛が生きていくには難しすぎた。


 そしてイルカによって天界へ帰ると、母親と父親であるレオナルドに怒られたが、それと同時に喜ばれた。白は白でも、真っ白で綺麗に染まった猫は、凛が初めてだったらしい。そして肉体を与えられた凛は、涼子に言われた。猫は9回までで消滅するのだと。だから、慎重に行動しなさいと言われた。それでもダメだったのは、凛が神の子であり、白猫だったからだ。


「もう行くのはよしなさい。次が9回目よ……せめてもう少し経ってから……」
 

「ダメなんだ。二人は死神なんでしょ?? 俺は二人とは契約出来ない。でも、もしも……消滅に耐えて、イルカが俺をここまで連れて来てくれたら、半分にして……どんな事にも耐えるから。痛くても、辛くても……二人に会えるなら我慢する。だから、地上に連れて行って」


「なら、私は消滅しないように出来るだけ守るわ。あとは、ジュリと母親のルシアンに頼みなさい」


 涼子は凛を守ると言い、凛はルシアンが苦手なのか、ジュリにだけ頼みに行くと、結局ルシアンも来てしまった。無表情で綺麗な狼の耳と尻尾を持つ男の人だ。


「本当にバカだな。どうなっても知らないからな。リン……ちゃんと戻ってきなさい。お前はもう、神々みんなの宝物だ。そしたら、俺が真っ二つにしてやる」


「ルシアン……言い方が物騒なのよ。だから、リンに避けられてるんじゃないの??」


「いや、この子は俺の表情が嫌いみたいだよ。自分も同じなのにな……リョウコの方が好きらしい。ジンもそうだけど、何故リョウコに懐くんだ」


 凛は逃げるように地上へ行ってしまい、その話は終わってしまったが、ゼンとゼルは思った。


「陣くんは大丈夫やろ。犬は強いし……多分母親の方を受け継いどる」


「あー……あの神、雰囲気が近寄り難い感じやったよな。凛が逃げとるのも、そのせいやろ。高校の時見とった感じやと、陣が凛にくっついとったから、誰も話しかけられんって感じやったな」


(ハッキリとは言えんけど、アレは……いや、止めよう。理解できんわ。凛くんは天界の事に関して、こんな感覚やったんやろうか)


(兄貴の奴……自分から言いたくないだけやん。ちゅーか、親父とオカンのオタクは、絶対そっちの影響あるよな)


 二人は記憶を少し整理した後、眠る凛を抱きしめて、一緒に眠りについた。



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