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第四章 縛りと役目
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しおりを挟む眷属契約から4日後、お義父さんとの約束の日曜日となり、俺達はスイセンとカイとレイも連れて、ゼンとゼルの実家へ行くと、お義母さんがスイセンを見て興奮しまくっていた。
「あらあら、どうしましょう!! 凛ちゃんに似て、綺麗で可愛い白虎ね。性格はゼンとゼルに似てるとは聞いたけど……これは想像以上よ!!」
「バァバ……トト助けて」
「お前……そういう時ばっか、俺等を頼るなや。ちゅーか巻き込むな」
「せやで。俺等も髪弄られるわ、服はいろいろ試されるわ……凛よりはええんかもしれんけど」
スイセンが、泣き目でゼンとゼルに助けを求めているが、俺よりは三人ともマシな筈だ。
俺なんか常に写真撮られるし、着替えさせられるし、髪は軽く切ってもらえたけど、その後もいろんな髪型にされるし……もう疲れた。
俺の着替えや髪は、ゼンとゼルが指示通りにやってくれるが、何をするにも写真を撮られている。流石に着替えまでは撮られないが、正直練習より疲れ果てていた。お義母さんとお義父さんの眷属の人達は五人程居て、その中には監督も混ざって、常に俺を撮っていた。
「凛、大丈夫か??」
「ダメです。俺なんか無表情なのに、何枚撮っても変わりませんよ」
「すまんな。撮れるだけ撮れって言われてるんだよ」
監督は俺だけの担当らしく、常にカメラを構えているが、他の人達はゼンとゼルと俺のセットと、俺とスイセンのセット、俺とカイとレイのセット、全員セットと、担当が別れていた。結局俺は全員に撮られていて、ゼンとゼルの罰ではなく、俺の罰になっていた。
「凛くん、大丈夫か?? どうせ使えるのと、使えないので分けるんやし、力抜いとってもええよ」
「凛はずっと撮られとるもんな。服の量も多いし……スイセンなんか、珍しく凛に寄ってこんしな」
「僕もカカ様のとこ行きたい!! お腹空いた」
「あら?? もうお昼なの?? 仕方ないわ……続きは午後からしましょう」
お義母さんのその言葉で、眷属のみんなも全員ホッとした様子で休憩に入り、スイセンは大きいまま俺に向かって来ようとして、ゼンとゼルに捕まっていた。
「オカン!! 俺等の部屋ってまだあるんか??」
「ええ、そのまま残してあるわよ。特にゼンはまだ物が残ってるのよ。ゼルの部屋は空っぽだけど、どっちの部屋もいつ使ってもいいように、綺麗にしてあるから好きに使うといいわ」
ゼンが俺を抱えると、ゼルはスイセンを離して、後ろをついて来させ、3階のゼンの部屋へと連れて行かれた。
「ここゼンの部屋??」
「そうやけど、あん時のまんまやな」
そこはゼンの部屋とは思えない程殺風景で、ベッドと机と本棚しかなく、全部持って行ったのかと思えば、逆に何も持って行ってないらしい。俺がベッドに座らされるとスイセンが食事を始めて、俺は少し辛そうにして部屋を見ているゼンを呼んだ。
「ゼン……思い出すの辛い??」
「まあ、そうやな。ここに居た頃が一番辛かったかもしれん。生まれてすぐは、一緒に生まれる筈のゼルも居らんし、まだ凛くんが居なくなったんも鮮明に覚えとって……適当に猫を探しても見つからんし、もう全部がどうでもよくて、適当に過ごしとったな」
「あの頃の兄貴、今じゃ想像つかん程無欲やったしな。俺はなんで猫が居らんのか、イラついとっただけやったけど。凛の記憶がないわりに、どっかで足らん気もしとった。それが尚更イライラして、よく暴れとったわ。せやから俺の部屋は見んでな……なんもないけど殺人現場になっとるから」
本当に……想像つかないけど、壊れかけてたんだな。俺が二人を置いて逝ったから……でも、俺はどっちか一人なんて選べないんだ。
俺を抱きしめる二人の頭を撫でていると、ふと本棚に目がいって、花に関する本ばかりが揃っていた。きっと、ゼンは俺がつけた花の意味を、ずっと考えていてくれたんだろう。
全部がどうでもいいなんて嘘だ。本当にどうでも良かったら、スポーツなんて一番やらない。家がスポーツメーカーのお店を経営していても、それだけでやるとも思えない。名声、名誉、栄光……勝利のファンファーレを少しでも意識してくれた筈だ。
「ゼン、ゼル……待っててくれてありがとう。大好きだ」
『どういたしまして。俺等も大好きや』
「僕もカカ様大好き!! トト達も好き……僕も宝物欲しい」
スイセンのその言葉に、俺達は驚いて顔を見合わせると、スイセンがゼンとゼルだけを引っ張って、一度部屋を出て行ってしまった。そのため、俺は暇になってしまい、ゼンの部屋を見て回ると、本はノウゼンカズラとローゼル、それからスズランのページだけ、すぐに開いてしまうほど読まれていて、幼い俺の似顔絵が何個も描かれていた。
「俺より絵が上手いなんて……ずるいよ。なんで、こんなに描ける程覚えてるかな……少しでも忘れてたら、辛くなかったかもしれないのに」
「そんなん、当たり前やん。俺が覚えとかんと、誰が凛くんの事覚えとるんや?? 忘れられるのは、悲しいやろ??」
ゼンはいつの間に戻ってきていたのか、後ろから俺を抱きしめると、深くキスをして俺の涙を拭ってくれる。そしてゼンが違う本を取り出すと、それは何故か中学の教科書で、同じく絵が描かれていたけど、そっちには目だけが描かれていた。
「ん?? あぁ、これ俺のやんか。兄貴が持っとったんかいな」
ゼルは懐かしむようにその絵を見ると、俺の目と見比べ始めた。
「これな……なんとなく夢に出てきとって、目だけしか思い出せんけど何回も描いとったんや。今思うと、あの夢は凛との思い出やったんやなって分かるけど、この頃は何回も出てくるもんやから、暇な授業中とかに描いとったんや。最初は下手くそやろ?? けど、どんどん描けるようになっとって、今は凛より上手い自信あるで!!」
確かにどんどん上手くなっていってる。最後のページだけは猫耳もあるし……これだけでも俺より上手い。それに、忘れてなんかなかった。ゼルも本当はちゃんと覚えててくれたんだ。
「これ、お前がイラついとる時に、俺の顔面に投げつけてきよったんや。それで、中身が凛くんの絵やって分かったから、しまっといたんやけど……この目だけ描かれとると若干ホラーよな」
「うっさいわ。覚えとらんかったんやから、しゃーないやん……って、凛!? また泣いとるんか?? あんま泣かんでよ」
ゼルは急いで俺の涙を拭って、キスをしたり頭を撫でてくる。
「俺にも絵教えて……どうせ、二人とも見たんでしょ?? 俺の花の絵。だから、下手だって知ってるんだ」
「凛くんは、今のままでええよ。あの絵、気に入っとんねん」
「俺も気に入っとるな。可愛い絵やんか……ブフッ」
もう笑っちゃってるじゃんか。というか、スイセンはどこにやったんだよ。近くに気配もしない。
「ねぇ、スイセンは??」
「あいつなら、霊体になって陣くんのとこ行ったで」
「陣の子供が気になるんやって。そうやろなとは思っとったけどな」
え、でもまだ……だよな??
「スイセンと同じで、もう自我はあるんやろうな。スイセンが、陣くんと番いたいって言った時点で、子供の方が気になっとるんやとは思っとったけどな」
「まだ陣の子とは会えとらんし、子供やからな……よう分かっとらんかったんやろ」
「なんか、寂しいな。ずっとお腹の中に居たのに、出てきた途端に離れちゃうのか」
俺が二人に抱きつくと、ゼンとゼルは寂しいというより、残念そうに苦笑いをする。
「まだ乳離れしとらんし、今はまだ友達待っとるって感覚やろ。番になるんは、まだまだ先やな」
「あいつマザコンやからな。まず凛からは離れんやろ。その証拠に、もう帰ってきたで」
「カカ様!! トト達に泣かされたの??」
スイセンは急いで帰ってきたのか、霊体のまま俺の周りをグルグル回ると、実体化して擦り寄ってくる。その様子が、ゼンとゼルが慌てている時に似ていて、俺には可愛くて仕方なかった。
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