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第三章 大事な繋がり
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しおりを挟む~sideゼル~
俺が凛にくっついて廊下に出ると、いきなり能登宮の奴等が俺等だけを囲んできて、俺は咄嗟に凛を抱えると、凛の呼吸がだんだんと乱れてくる。
アカン、過呼吸になっとるな。ここから出れれば一番なんやけど、まず落ち着かせんとまずいな。
「ヒッ……ゼ、ゼル」
「凛、大丈夫や。落ち着いて息してみ」
放っておくとパニックになりそうな凛を、強めに抱きしめて顔を自分の胸に押し付けると、凛が俺のシャツに必死にしがみついてくる。
「凛、大丈夫やからな。兄貴もすぐ来てくれるで」
兄貴の奴寝とるんか!? はよ来んかい。
「凛くん!! テメェら何してくれとんのや!! さっさと退け」
どこのヤクザや。むっちゃ巻き舌やん。俺もあんな感じなんかな……気ぃつけよ。
「いや!! ただ俺等は」
「さっさと退けろ言うとるやろが」
あーあ。能登宮の奴等も、周りもみんなびびってもうてるやんか。
「ゼン、落ち着け。君達も話があるなら囲む必要はないんじゃないか??」
「えっと、何か不味かったですか」
「よく見てごらん。今凛くんが過呼吸になってるの、分からないのかな?? 早く退いてもらえる??」
愁さんが落ち着いた対応で間に入るが、声を聞く限り明らかに怒っている。そして凛の様子に気づいた周りの奴等は、静かに道を作って兄貴を通す。
「凛くん、大丈夫か?? 深呼吸してみ。ほれ、ぬいぐるみ持って、イヤーマフつけるで」
兄貴……ぬいぐるみ持ってあんな怒っとったんかいな。
「ブフッ……」
「お前こんな時に、何笑とんねん。凛くんは苦しんどんのやぞ」
「いや……兄貴むちゃくちゃヤクザ口調やのに、持っとんのがウサギのぬいぐるみって……普通に笑うやろ」
「あ!? ヤクザ口調なんか使うわけないやろ。凛くんに嫌われてまうやん」
「巻き舌凄かったけど、気づいてなかったのか?? ゼンが、ぬいぐるみ持ってなかったら、俺は間に入れなかったよ。リュカも祐希も剛も動かなくなるし……うちの弟は鼻血出しすぎて貧血だし」
そらそうやろな。元々序列的に上やった奴が、更に上に行った言うとったし、慣れるまでは気安く喋れんよな。俺等が佐良さんやオカンに逆らえんのと一緒や。まあ、オカンは母親やからまだええけどな。
「はあ……やっとここまで来れたわ。何があったんだ?? 姿見えなくなったと思えば……ゼンがぬいぐるみ持って走っていくわ、ヤクザみたいな奴が居るわ……凛、どうしたんだ??」
「センセ、ヤクザは俺やなくて兄貴やから……凛、落ち着いてきたんやない??」
「呼吸も大丈夫そうやし、寝かせたるか……凛くん、寝とってええよ」
兄貴が、凛のイヤーマフを片側だけ上げて声をかけると、どれだけ力が入っていたのか分かるほど、ダランと力が抜けて気絶するように眠った。
「それで?? 凛に何があったんだ」
「この状況見て分からんか?? 能登宮の奴等が、凛と俺だけ囲んできよったんや。そしたらどうなるかくらい分かるやろ。凛が過呼吸気味になって、兄貴はキレるわ、周りはどんどん集まってくるわで」
「そうか……少し場所移すぞ。能登宮の奴等も来てくれ。取り敢えず話聞かないと、俺がいろんな人達に怒られんだわ。能登宮の監督はどこに居るんだ??」
「監督なら一緒に囲んでて……あれ?? 監督??」
逃げよったな。何がしたかったんや。
俺達は、ゾロゾロとセンセの後ろをついて行き、空き部屋へ入ると不気味な笑い声が聞こえてきた。
「ふはは……あははは……ねぇ、その猫ちょうだい。猫ほしい。猫、ネコ、ねこ、ねこ、ねこ……ようせ……ウッ」
「気色悪りぃな。よりによって悪魔憑きかよ……」
不気味な笑い声の主は能登宮の監督で、その監督の首に手刀で気絶させたのは、まさかのあのポンコツセンセだった。
「あれ、俺等なんでここに……え!! り、凛くん!! と、御二方」
「お前声おっきいだろ。静かにしないと……す、すんません。俺等全員、凛くんのファンでして……」
「さっさと帰りますんで!! すんません、失礼します!!」
騒がしく帰って行く能登宮の奴等は、俺等を囲んでいた記憶がないどころか、凛のファンでしっかりファンクラブのルールを知っていた。
「監督サン、どうゆう事なん?? 説明してもらわんと、俺等納得できんのやけど」
「俺は天界の住人とだけ言っておく。因みに神じゃないしゼンとゼルより下だが、魂は視えなくなってる筈だから、無理に視ようとすんなよ」
確かに視えんな。まあ視えとったら、今頃気付いとったやろうけど。
「へぇ……おもろいな。コレどうなっとん?? 二人と契約しとるんか?? それとも種類が違うん??」
「はあ!? 待て!! おまっ……うわ、気付かなかったわ。いつの間に……いや、でもこれなら水に」
驚きすぎて喋ってはいけない事を口走ったのか、センセは慌てて自分の口を塞いだ。
「なあ、兄貴は何が視えとるん??」
「お前もちゃんと変われば視えると思うで。けどまあ、一つだけ言うんなら監督サンは、お狐様やな」
「お狐様……ブハッ……全然似合わんなあ」
「こうなるから嫌だったんだよ。それより、この悪魔憑きの事はこっちで片付けていいか??」
悪魔憑きって、悪魔に取り憑かれた普通の人間なんよな?? 能登宮の奴等、生徒の方はまだええ方やったけど、この監督なんか完全にいっとったやん。全員操るって結構危ない奴やろ。凛の事狙っとったみたいやし。
「ええけど、凛くん狙いやろ?? 大丈夫なんか??」
「大丈夫ではないな。悪魔憑きは視えないから、お前等も警戒だけはしておいてくれ。それとゼルも、ゼンと同じくらいになれるなら、早いとこなっておけよ」
「言われんでもなるわ。せやから今日は帰ってもええ??」
「あぁ、いいぞ。明日は勝てば2試合あるから忘れんなよ。それと土土の動画と白雷虎の今大会の動画は、いつも通り送っとくから見ておけ。あっちのブロックは、多分だが白雷虎があがってくる」
センセは能登宮の監督を担いで部屋を出て行き、俺等は荷物だけ持って会場を後にした。
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