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第三章 大事な繋がり
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しおりを挟む二日目も無事勝つ事が出来た俺達は、明日の対戦相手がもう決まっていたため、サブの体育館でクールダウンをしながら、ミーティングを行っていると、みんなの顔がビシッと固まり、俺の好きな香りがして、後ろからの重みでペタッと前に倒れてしまう。
「ゼン、ちょっと痛い」
「凛くん、相変わらず身体やっこいなあ。サイン欲しい人どこ居るん??」
「兄貴、まさかその為だけに来たんか??」
「んな訳あるかい。そっちはついでや。俺のせいで昨日のミーティング、中断させてもうたしな。俺は佐良さんに、凛くんとゼルを回収して来い言わたんや。俺のパソコンで見とったからな」
まだ俺の上に乗ってるゼンは、何気に俺のストレッチの手伝いと、マッサージをしてくれている。
「ちょっと待っとけ。今行ってくるから、ミーティング続けててくれ」
先生はサインを欲しがった人のところへ行き、俺達は明日の対戦相手となる、インハイで負けた黒曜台高校について話し合いを続けた。
「インハイの時とメンバー変わってるけど、残ってる人もいるし、今回も安定して強いから、こっちがどのくらい拾って粘れるかって感じだと思うんだけど、凛くんはどう思う??」
向井さんは、今日録画したビデオを何度も見返している俺に、意見を求めてくる。
「そうですね……俺もどのくらい拾えるかによると思います。あとは繋がったボールを、ちゃんと決めれるかですけど……圭人とゼルに基本は集めて、ラリーが続いた時に、トシさんにあげる方が確実じゃないですかね。圭人の体力も上がったみたいですし」
「だって圭人~、やっぱり頑張った方が体力つくんじゃ……」
「いや、それだけじゃないだろ!! 俺も練習頑張ったし」
んー、ここ何回見てもおかしいな。黒曜台で唯一の穴かな。
「兄貴、そんなんしたら凛にまた怒られるで」
「大丈夫や。コレは凛くん怒らんから。それより手伝え」
ゼルなら狙えるか?? あとはどのくらい戦えるかにもよるんだけど……正直うちはみんな、インハイとは別人みたいになってるしな。やってみないと分からないか。
「おい、向井……アレ止めないくていいのか??」
「凛くんが何も言わないなら大丈夫じゃない?? それより凄いねアレ。うちの子にも付けてみようかな」
「やめてやれ。お前、宿が一緒だからって、昨日の夜行っただろ」
「それなら圭人と静流もトイレに行ってたし、俺だけ言われる筋合いはないと思うな」
「ゼン、連れて来たぞ……って、お前等……警察呼んだ方がいいか??」
先生の声が聞こえて、俺はビデオから目を離すと、先生と女性が一人居て、何故か鼻血を出していた。
「先生、その人鼻血大丈夫?? このビデオで見て欲しいところあるんだけど」
「は!? ちょ、大丈夫ですか??」
「だ、大丈夫です。尊すぎて……私なんかが、これ以上近付けません。これお願いします」
女性は鼻を押さえながら、先生にサインペンとポストカードを渡した。それを受け取った先生は、俺の上に乗ってマッサージしてくれている、ゼンとゼルにサインをお願いして、女性を帰してあげると、俺のところへ来てくれる。
「おい……凛、お前……」
「先生ここなんだけど、これって穴だと思う??」
先生は戸惑いながらも、ビデオを確認すると、6番の人はインハイには出てなかったらしい。
「あと他にもこの場所でだけ、お見合いしてるんですよ。なんかの影響で、ここだけダメっぽいんですけど、明日ゼルに狙ってもらったらどうなのかなって」
「いいんじゃないか?? 凛もコートに入れば気付けるだろ……それより俺は、今の自分の状態に気付いてほしいがな」
先生が俺の後ろを向き、俺もそれにつられるように見ると、何故か足枷がつけられていた。
「ゼン、ゼル何してるの??」
「回収してこい言われたからな……逃げれんようにと思って、わざわざ家に寄って持ってきたんや」
「俺は兄貴に、手伝え言われただけや!!」
なんか重いと思ったら……これ外せって言ったら、ゼンが暴走するよね。
「ゼン、別に付けてもいいけど、もう少し大丈夫そうなやつにして。コレだと本格的すぎて、ゼンが捕まっちゃうよ」
「分かった!! 今度首輪とお揃いにして、作ってもらうな!!」
「あ……それなら少し重くして欲しいな。筋トレになるから」
「凛……お前それでいいのかよ。ゼン、問題にならないように、ちゃんと隠していけよ」
先生が呆れたように言うと、風狼のみんなは深く頷きながらも、もはやあまり動じていなかった。
「そんじゃミーティング終わったみたいやし、凛くんとゼルは連れて行くな」
ジャラッと音がして、俺はゼンに抱えられると、ゼルが自分の上着を俺の足にかけてくれて、鎖の部分を嬉しそうに持っていた。
そしてそのままの状態で、ファルコンの体育館に行くと、みんな見えているはずなのに、普通に接してくる。
「凛、ゼル、疲れてるだろうけど、来週の試合に出てもらうために、早めに伝えておいた方がいいと思って呼んだのよ」
母さん……俺の足枷見えてるのに、何故何も言わないんだ。母親なら何かあるんじゃ……まあいいか。
「ポジション決まったんやって。俺等にもまだ知らされとらんのや」
「凛くんだけは、バックレフトかバックセンターかで、凛くんと俺のやりやすい方で、決めてもらうらしいよ」
みんな集合してくると、愁さんが普通に会話に入ってくる。
「先に移籍希望者は居ないから、3月いっぱいで引退する人は、自分達で挨拶してちょうだい」
母さんがそう言うと、駿さんと他の選手2名が前に出ていく。選手2名の方は、オディンズでそのまま残って働く事になったようだ。そして駿さんは、ゼルが言ってた通りマネージャーとなって、俺達の写真を撮ったり、サポートをしたいらしい。
「それと、うちに移籍希望が多かったんだけど、全部断ったわ。だから、怪我には本当に気をつけてちょうだい」
俺も合わせると12人か……まあ、少ない気もするけど、Vリーグのチームならこのくらいの人数か。あんまり選手確保してもって感じだしな。
そして母さんから、ポジションとスタメンの発表がされる。OHにゼンと剛さん、MBにリュカさんと祐希さん、Sが愁さんに、OPがまさかのゼルだった。俺はリュカさんと祐希さんの両方にLとして入るらしい。
「ゼルはMBでも良かったのよ。でも、凛から教えられてたからか、レシーブも成長してたし、何よりレシーブにあまり参加しない攻撃特化……スーパーエースのOPがほしくてね。今日の試合見てたけど、ゼルはライト打ちが、練習の時より試合中の方が上手かったのよね……凛、あなた何かした??」
「え……何もしてない……よね??」
「凛くん、ゼルにコース打ち意識させとったよな?? ちゃんとそん時の不調なコースでも、均等に打てるように練習させとったやんか。大学の見学ん時やってたよな??」
「確かに、チェックはしてたけど……それだけで変わる??」
「変わるわよ。練習で少しのズレでも、意識させて打たせてたなら、一番は試合で結果が出るものなのよ。やってきた事しか、試合には生かせないんだから……ちなみにコースの打ち分けは縦に四分割かしら??」
うぐっ……なんでバレるんだ。
「ライト打ちは、右利きの選手からしたら、得意不得意がかなりあるのよ。それをちゃんと試合で得点に繋げられるなら、ゼルが努力した結果よ。でもただ努力しただけでは、この短期間では無理なの。意識してやらないと、ここまで急成長するはずないんだから。ゼルはどう?? ポジションに不満はあるかしら??」
「正直OPに置いて貰えると思っとらんかったから……不安はありますけど、不満はありません。それにずっとコートに立てるなら、コートに立ちたいです」
「他に文句がある奴は??」
みんな自分に合うポジションを分かっているのか、何も言わずに母さんから目を逸らす事はない。俺もゼルをOPにするとは思わなかったけど、ゼンも剛さんもゼルより上手かったとしても、ライト打ちとなると難しいはずだ。下手したら慣れないポジションで怪我をする可能性もある。その点ゼルは、センターでいろんなコースに打ち慣れていたため、かなり無理な打ち方をしない限り大丈夫だろう。
「なら次は凛だけど、ゼルをOPにするなら、バックセンターでカバーしてほしいのよね。その方が愁も前に出やすいと思うのよ」
「それは俺も賛成です。凛くんは二段トスもしっかりできますし」
「俺もバックセンターの方が、コート全体を見れるし、カバーもしやすい……と思う」
「相変わらず、自信なさげね。理由は動きすぎちゃうからかしら??」
うっ……だからなんでバレるんだ。
「良いわよ。取れるなら凛が取ればいいわ。凛なら誰かとぶつかる事はないでしょ??」
「凛くんの声は、スッと入ってきよるからな。大丈夫やと思う。せやから、凛くんはワンマン感覚で、好きに拾ったらええよ。その為に集中できるように練習しとるんやし。楽しんで球遊びしてもらわな」
ゼンの言葉に全員が深く頷くが、俺はみんなドSなんだろうかと思った。走りっぱなしになる事に、みんなは気づいているのだろうかと。
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