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第三章 大事な繋がり

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~sideゼン~


 俺とゼルは人間だった。イタリアで生まれてすぐ、双子だった俺達は貧しかった両親に捨てられ、あっけなく死んだ。無垢な魂は、天に昇ると死神になるらしい。魂の管理者は穢れた魂を持つ者では、必ず悪用してしまうんだと神は言った。しかし俺達の役目は、魂の管理ではなく、死者の案内人だった。俺は地獄に、ゼルは天国に案内し、管理者に渡すという仕事。


 そして死神としての仕事をするには、死を予知する猫が必要で、管理者よりも俺達案内人の方が、更に猫は必要な存在だった。ほとんどの死神は黒猫を選ぶ事から、黒猫が不吉の象徴とされ、逆に白猫は神の使いとして、幸運を呼ぶ猫として大事にされるが、そんな白猫は穢れに弱く、珍しい存在だった。そのせいか白猫は、捕まりやすく壊れやすい。本人がどんなに警戒しようと、白というのは目立ってしまう。


 しかし猫と言っても、死神が必要とする猫は、人の魂を具現化した時に猫となる者、そして色はその魂の色であって、黒を選ぶ理由は強くて頑丈な魂だったからだが、それは無垢な魂を持つ死神にとって、かっこいいという憧れの対象だったというだけのこと。何度も受肉を繰り返す死神は黒以外を選び、自分との相性で選んでいた。


 俺とゼルは一度目の受肉で、猫を選ぶ事なく肉体が死んだ。二度目の受肉では、知識をつける事が楽しいと知り、勉学に励んだ。そして三度目は、やはり死神となった以上、自分の猫を欲するようになり、知識を活用して、いろんな国で猫を探したが、俺達の猫はいなかった。


 四度目はイタリアに留まり、普通の人間として過ごしていた。そして出会った……いや、出会ってしまった。俺達と同じく両親に捨てられ、身体を売って過ごす、名もなき無色の猫に。


 俺達はどうしても目を逸らす事が出来ず、拾って名をつけてやった。鈴のように綺麗で、か細い声が印象的だったためリンと名付けると、リンの色が白に変わり、リンは幸運を呼ぶようになった。それと同時に悪い者も惹きつけてしまい、穢れに弱い白猫のリンは、自ら命をたった。


 そのショックに耐えれなかった俺達が肉体を捨てると、神が俺達に言ってきた。猫の命は9つあるのだと。だから肉体は捨てない方がいいと。猫は記憶を引き継いだまま、すぐに生まれてくるからと。そして、それと一緒に言われたのが、命は9つあっても魂は1つだという事だった。1つの魂と契約できるのは、死神一人だと当然の事を言われた。


 しかし、俺達はリンを諦める事が出来なかった。何か他に契約できる方法はないのかと、何度も受肉してはリンを見つけ、その度にリンは穢れに耐えられず、自分の命を削った。だんだんと焦る俺達は、どちらかがリンと契約すれば、リンと一緒に居れると思い、契約しようとするが、記憶を引き継ぐリンは、俺達二人を平等に望んだ。そして契約が出来ないまま、リンは穢れた者にも狙われ続け、また1つまた1つと命を削る。


 そして最後の9つ目の時、自分達の誕生日に思い切って死神だと告げ、どちらかと契約をして欲しいというと、リンは笑顔でこう言った。


「優しい死神さん。俺が名前をつけてあげる。お兄さんがゼン、弟さんがゼル。ノウゼンカズラのゼンと、ローゼルのゼルだよ。花言葉からの俺の贈り物は……内緒。ゼン、ゼル、誕生日おめでとう。二人は今幸せですか??」


 それに対して、俺達はなんて応えたのか覚えてない。ただ覚えてるのは、次の日リンの死体が川で見つかったという事だけだった。


 その後、俺達はすぐに肉体を捨て、リンの付けてくれた花言葉の意味が分からず、ゼルはそれをそのまま解釈し、自ら記憶に蓋をした。ローゼル、花言葉は新しい恋。ノウゼンカズラは名誉。俺は何の事か分からなかったが、もうリンが居ないのなら、受肉をする必要がなくなるよう、適当に猫探しを終えて、死神の仕事に集中しようと思った。


 そして受肉したのが今の親で、ずっとイタリアから離れなかったのに、俺を身籠ったとほぼ同時に、日本へ行った。ゼルはリンとの記憶に蓋をした影響か、受肉に時間がかかり、いつも双子として生まれていたのが、兄弟として生まれる事になる。


 俺はずっと、リンがくれた名前について考えていた。名誉とはどう言う意味なのか。花言葉からの贈り物はなんだったのか。結局考えても意味が分からず、ただの人間として、過ごしているうちに、親の会社の影響でスポーツを始めた。最初は陸上をやっていたが、バレーボールをやらないかと親に勧められて、別にどうでも良かった俺は、言われるがままバレーボールを続け、佐良さんに引き抜かれた。


 最初に佐良さんの子供が気になったのは、俺達と同じ双子だと知ったからだ。そして佐良さんから、少しずつ話を聞き出していくうちに思った。まるで俺の知ってる白猫みたいな子だと。名前も一緒で、自分のチームに勝利をもたらすが、穢れを持つ者も惹きつける。そして壊れやすい。違うところと言えば、ボロボロになってもなお、そのせいにしがみついているという事くらいだ。


「今度大会って言うてたよな。猫ちゃんやったら、適当に堕として、終わらせるか」


 そう思って行ってみると、見ていて胸糞悪い試合をしているなか、やたら目を惹く子が居た。


「綺麗なレシーブやな。それに静かや……猫みたいな子やな」


 その時の俺は、猫ならこの子でいいかと、軽い気持ちで魂を視てみた。


「どれ……君は猫ちゃんか? ……ッ!!」


 そこには、あり得ないものが視えた。自分が名前をつけて、自分が染めた魂、大事で大事で仕方なく、忘れた事など一度もなかった魂。視間違えるはずのない魂。


「嘘やろ……なんで……だって9回死んだやんか。それに尻尾が二つ」


 近くで顔を確かめようと、ギャラリーから下へ移動し、扉から覗くと、顔も体格も全部がリンだった。


「リンくん……あぁ、全部がそのままのリンくんや。綺麗な白猫……俺等の為に来てくれたんか?? 猫又になって魂半分にしてまで……二つにしてくれたんか」


 思わず涙が溢れ落ち、それでも目を離さずにずっと見ていると、脳震盪で運ばれる姿が目にうつった。知り合いだと嘘をついて少しの間、意識のない凛くんに寄り添い、佐良さんが来る前にバレないよう、離れ難い気持ちを押し殺してその場を去った。


 その後本当は駆け付けて、抱きしめてあげたい衝動を抑え続け、この奇跡のようなラストチャンスを無駄にしないよう、計画を練って慎重に行動するが、記憶のないゼルがちょくちょくやらかすのを見て、腹立たしく思う時もあったり、諦めて凛くんの幸せを願おうと思う事も何度もあった。


 付き合ってからも、心のダメージが酷くて、なかなか行動も読めずに苦戦したが、今漸く俺もゼルも魂の契約が完了し、あとは身体……凛くんの発情期を引き出し、番契約をするだけだ。


「ゼルも記憶が戻ったんなら、今まで以上に気ぃつけるやろうし……それにしても……凛くんに花言葉聞いてみよかな」


 記憶なくなっとっても、凛くんなら多分同じ事言うやろからな。ゼルにも本当の事聞かせてやった方がええやろ。


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