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第二章 新しい生活

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 俺は願書を書き終え、久しぶりの家でのんびりしていると、母さんとゼンが何か話していた。


「……あとは、ここみたいな庭が……あら凛、どうしたの??」


「二人で何話してるのかなって」


「凛くん、聞いてたん??」


「いや、口の動き見てただけ。母さんは隠しちゃうけど、ゼンは見えるから」


『え……』


 母さんと話していたゼンと、俺に抱きついて一緒に寛いでいたゼルは、何故か驚いている。


「あんた達、知らなかったの?? 凛も陣も、口の動きで大体の会話は分かるわよ。読唇術ってほどではないんだけど……てっきり知ってて隠さないのかと思ってたわ」


「知らん!! 凛くん今のどこまで見とったん!?」


「まじかいな……折角凛のとこキープしとったのに」


 俺に知られたらまずいのか?? でもそんな感じじゃなかったけど。


「俺の好きな環境とか、落ち着く環境を聞いてたのは分かったけど、他は母さんが喋ってるのに対して、ゼンは聞いてるだけだったから、ほとんど分からないよ」


 二人は目に見えてホッとすると、母さんがニヤニヤしながら、ゼンとゼルを見ていた。


「まあいいや。俺、陣の部屋で一緒に勉強してくる。ゼルも来る??」


「行く!! 凛の勉強見るん初めてやわあ」


 ゼンはまた母さんと話し始めて、俺はゼルと一緒に陣の部屋へ向かった。


「陣、俺も勉強する。ゼルも見てくれるって。陣はもう過去問もらったんだろ??」


「貰ったけど……結構簡単だぞ」


 そう言って渡された過去問に、ペラペラと目を通すと、確かに簡単だった。


「んー……これならゼルに、高3の勉強教えてもらった方が、良さそうだな。これ高2の勉強も範囲に入ってないし」


「だよなあ……折角俺もゼンさんと、ゼルさんに教えてもらえるなら、その方がいいと思った。一応復習はするけどさ」


「ほんまやな。なら高3の教えたろか?? ちゅーか二人は勉強好きなんか??」


 勉強かあ……好きとは違うけど、知らないのは気持ち悪いんだよなあ。多分陣も俺と同じ筈だ。


「知識に抜けがあると気持ち悪いというか、みんなが知ってる事を知らないのは嫌だとは思います」


「俺も……知らないって気持ち悪いから、なんか覚えちゃう」


「ちょいちょい忘れた頃に、双子感出してくるやんか。好きやないのに、勉強できるんも凄いな。俺が教えんでも、教科書渡せば出来るようになってそうで怖いわ」


「いや、流石に俺は説明聞かないと分かりません。それが出来るのは凛の方ですね」


「俺も説明書いてあるノートとかないと無理だよ。ゼルの教科書より、ノート見せてもらえたら、多分覚えられるけど」


 ゼルは溜息を吐くと、今度陣が来た時には教えるし、俺にはノートを見せてくれると言った。その後は、取り敢えずゼンと母さんの話が終わるまで、過去問を借りてひたすら解いていき、ゼルはやる事がなくて、俺に後ろから抱きついて寝ていた。


コンコン


「入るで~って……なんやこの状況。凛くんと陣くんは、ひたすら問題解いとるし、ゼルは寝とるし……にしても凄い集中力やなあ。凛くん!! 凛くん帰るで!! ゼル起きろ!!」


「ッ!! ゼンか……びっくりした。話終わったの??」


「終わったで。それにしても、凛くんは集中すると声聞こえんようになるよなあ。陣くんもそのタイプなんか」


 まだ問題を解いている陣を見て、ゼンは若干呆れていて、俺は陣に過去問を返して、自分が書いた方は持ち帰る事にした。


「ゼル、起きて。置いてくよ」


「凛がキスしてくれたら起きる」


 もう起きてるじゃんか。


 俺は仕方なくゼルにキスすると、やっと重さから解放される。陣はいまだに集中していたため、そのままにして部屋を出ると、母さんが俺の頭を撫でてきた。


「凛、お盆はゼンも休みだし、部活もないでしょ?? 一緒に大阪に行って、挨拶に行きましょうね」


 挨拶?? 大阪って……まさか。


「俺等の親で、オディンズの社長やな。緊張せんでもええよ。凛くんの事はちゃんと知っとるし、佐良さんにも怒られたみたいやしな」


「寧ろ歓迎しすぎて、あんな強行突破してきたんやけどな」


 緊張するなって言われても……めっちゃ緊張する。俺大丈夫かな。大事な息子さん達に、お世話になりっぱなしだし。


「それと大学の見学も行こうな!! 監督に呼ばれとるし」


「ゼルと陣も行くの??」


「陣はもう行ったわよ。それから行くって決めたんだもの」


 そうだったんだ……陣に置いてかれてる気がする。俺も早く自立……


「凛、俺と一緒に行こうなあ!! 大丈夫や、誰も置いてかんし、寧ろ俺は凛に置いてかれんよう、今頑張っとるんやから」


 ゼルの言葉にハッとして上を向くと、ゼンもゼルも俺を安心させるように、優しく笑ってこっちを見ていた。


「う、うん」


「二人とも凛の事、だいぶ分かるようになってきたのね。凛、陣は凛に負けないように頑張ってるのよ。凛がそれ以上頑張ったら、誰もついていけないわ。だから休む時は休んで、絶対に焦らないのよ。分かった??」


「分かった」


 その後マンションに帰って、俺がソファに座ると、二人が俺を挟むように座って、首や手首を触ってくる。


「大丈夫そうやな。凛くん、そんな焦らんでも大丈夫やで」


「凛はすぐに焦ってまうからな。俺を置いてかんでよ??」


 時々こうやって焦っちゃう時があるけど、その度にゼンとゼルは、気付いて声をかけてくれる。


「ゼンとゼルは俺の酸素みたいだ。二人がいると呼吸しやすくなる。苦しかったのが無くなる感じ」


「ほんなら、俺等は光合成でもして、凛くんの為の酸素作らなアカンなあ」


「凛の害になる、周りの二酸化炭素どもから、守ったげんとっちゅう事やな。その代わり……」


『水は与えてな!!』


 そうか……二人は俺にとって植物なんだ。俺は二人が居ない生きていけないけど、二人も俺が居ないとダメなんだ。


「ゼンとゼルにとって俺は水なの??」


「凛は水っちゅうより海やなあ」


「せやなあ。凛くんは海みたいに、静かでキラキラしとって、広い心で受け止めてくれるやん。それでも時々荒れるし、油断しとるとこっちがどっかに流されてまう。こっちが置いてかれんよう、しがみついとかないけん」


「俺は置いてかないよ」


「けど、凛はすぐに離れてってまうやんか。それを俺等は二人がかりで、捕まえとんのや。逃げれんようにな」


「凛くんは自分の中で生活する生きもん、追い出せんやろ?? それが植物だろうが、魚だろうがな。せやから俺等は海に居座る。凛くんっちゅう海が寂しくならんよう、仲間っちゅういろんな生きもん入れてくんや。そんで居座っとる、俺等植物が居るから、そいつ等は凛くんの綺麗な海で生きていける……そう思うと、あいつ等贅沢やな」


「確かに贅沢やなあ。凛はもうちょい、荒波おこしてええんちゃう??」


 なんか壮大な話になっちゃったけど、でも二人の言いたい事は分かった気がした。焦ったら俺はいつの間にか独りぼっちになっちゃう……でもゆっくり進めば、ゼンとゼルやみんなが一緒に居てくれる。一緒に頑張れるんだ。


「ありがとう。俺、不安になる事はあっても、もう焦らないよ」


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