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第二章 新しい生活

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 インハイが終わり、本格的に暑くなってくる夏休み期間。二週間も合同練習をやる事になった俺達は、特別に体育館を借りてやる事になった。ほとんど試合がメインになるが、練習もごちゃ混ぜにしてやるらしい。


「凛、少し震えとるな。大丈夫か??」


「大丈夫。なんかここの空調寒い気がするけど、動いたら暑くなるんじゃないかな」


 嘘だ……本当は少し怖い。この大人数で、しかも全員身長が大きすぎる。


「凛今日はサメなんだ~。なんか久しぶりに見た~。何かあるの~??」


 ギクッ……シズってなんかほんと……鋭いんだよなあ。今日が不安で持ってきたとか言えない。俺から練習試合組んでくれって言ったんだし、何もないふりしないと。


「気合入れる為だ。それより、シズは珍しく圭人と一緒じゃないのか??」


「ん~?? あぁ、圭人はあっちで友達と喋ってるよ~。土土どづちに行った友達なんだって~」


 圭人の友達……ちょっと気になるけど、今は動けない。俺は影を消すぞ。ここには誰もいない。誰もいない。


「凛くん!! 久しぶり!! 今日はあの人居ないんだ」


「ひッ……確か、崎さん」


「ごめんごめん、驚かせちゃったね。大丈夫、俺は君に触らないから。2週間よろしくね!!」


 そう言って去っていく、高花高校の崎さんは、少し屈んで話してくれて、触りもしなければ、しつこくもしてこなかった。


 いい人……なのか?? 俺の事情も知ってる感じだったな。


「ゼル~!! おひさっ!! 元気しとったか??」


「ん?? なんや不破か。見れば分かるやろ」


「相変わらず無愛想やなあ。今日ゼンさん居らんの??」


「居るわけないやろ。平日やぞ」


「明後日は?? その感じやと来るんやないん?」


「さぁな。そんなん知らんわ」


「あっちに中学の奴等居るし、みんな会いたがっとったで!! ちょい付き合えや!!」


「ちょ!! やめい!! 俺は凛のとこ……」


 そう言ってゼルは不破さんという人に引っ張られて、俺の見えないところへ行ってしまう。


「あっ、ゼル……」


 ゼルが見えない。俺の声が届かなかった。ここにいたらダメな気がする。人が少ないとこに行かないと。


 俺はサメを抱きしめて、人の少ないところを目指すと、圭人と土土どづちの人達が居た。


「ん?? ちょっと待って……凛、ここで何してるんだ?? 顔色も悪い気がするけど……ゼルさんは?」


「だ、大丈夫。少し寒いだけだから。そろそろ練習始まるだろ?? あそこじゃ、俺は小さいから身動き取れなくて」


「本当か?? 無理そうなら言えよ??」


「凛……やっぱり凛だ」


 優しく落ち着きのある声に呼ばれて顔を上げると、圭人の後ろに懐かしい人物が立っていた。


「お兄ちゃん??」


「お兄ちゃん!? この人、凛の兄なのか!? 」


「そうだよ……凛、久しぶり」


「圭人、お兄ちゃんの事知ってるの? この人昔俺の近所に住んでて、よく陣と一緒に遊んでもらってたんだ」


「知ってるも何も、土土のエースだぞ!! 上善寺斗季じょうぜんじときさんだ」


 お兄ちゃんが、ユース候補だった人。全然知らなかった。というか名前も覚えてなかった。


「あの頃の凛は、俺の名前が鳥の名前と一緒だって言って、鳥さんって呼んでたから、涼子さんにせめてお兄ちゃんにしなさいって、怒られてたからね」


 全然覚えてない。でも俺失礼にも程があるな。


「もしかしたらって思って、監督にこの練習試合頼んだ甲斐があった。俺も試合中で、少ししか見れなかったけど……あのレシーブは凛だって思ったんだ」


「なんで俺のレシーブ知って……」


「凛!! ここ居ったんか。めちゃくちゃ焦ったわ。ごめんな、離れてもうて」


 ゼルが凄い焦った表情で、俺のところに来ると、後ろから抱きしめてくる。


 あ……やっぱり落ち着く。俺の声届かなかったから、不安だったけど……良かった、忘れられてなかった。


「ふーん……ねぇ、凛の保護者さん。次も凛の事悲しませたら、俺が連れて行くから」


「あ!? なんやって?? 凛のとこ悲しませるような事する訳ないやん」


「まぁ……いいか。凛、またあとでね」


「あ、お兄ちゃん……ありがと」


 多分あのままだったら、俺結構やばかった気がする。


「凛、お兄ちゃんって何?? 知り合いやったんか??」


「子供の頃、よく陣と一緒に遊んでもらった、近所のお兄ちゃん」


「あとで兄貴に聞いてみるか」


 俺はゼルに風狼の場所へ連れて行かれるが、一緒についてきた圭人は少し不安そうに、俺とゼルを見る。


「ゼルさん……凛の事見ててやって下さいね」


「言われんでも、分かっとる」


 圭人は俺に気付いてる?? でも、お願い。それ以上は言わないで。ここで俺が折れるわけには、いかないんだ。俺が先生にお願いしたんだから。


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