上 下
76 / 361
第二章 新しい生活

31

しおりを挟む


 初日の試合が全部終わり、みんなは宿に行って、俺とゼルはゼンと待ち合わせをして、帰る事になった。


「ゼン、お疲れ様。試合どうだった?」


「勝ち!! あと一試合勝っとったら1位やったんやけどなあ。ゼル、そっちは勝ったんやろ?? 凛くん無しでどうやった??」


「ストレートだけど、ギリギリやったわ。それに凛がなあ……やっぱ早めに作っとかんと」


 作る? 何の事だ??


「あー、それなんやけど、多分今日届いとった筈やで。ゼルの部屋に置いてあるんやないか?」


「俺だけ、全然話が読めないんだけど」


 帰ってみると、ゼルが自分の部屋から大きい段ボールを二つ持ってきた。そして開けてみて驚いた。


「なにこれ……しかも長袖と半袖?」


「凛が俺等のもんだって、一目で分かるもんつけてもええって言うたやんか」


「そそ!! せやから、写真撮ってちょいといじったデザインを、俺等で考えてうちの会社に、作ってくれって頼んだんや。よう出来とるやん!!」


 まさかのスポーツTシャツとトレーナーに、あの時めちゃくちゃ撮られた写真が、良い感じにプリントされていた。


「凛くん着てみて!! これとこれ!!」


「俺等のはこっちか?? おー!! ええ感じやんか!!」


 いや待て!! 二人も着るのかよ!! というか、そっちのはシルエットになっててズルい!! 俺のはお洒落にはなってるけど、二人の追っかけみたいじゃんか!!


「俺もそっちがいい」


「ダーメ。凛くんはこっちやないと、虫除け出来んやろ。俺のグッズ事態、出とらんから安心して着てええで。俺が写っとるってだけで、バレー馬鹿以外は近寄らんしな」


 それは嬉しいけど……ゼンもゼルと一緒で、ファンになんかしたのか? いや、知りたくない。知らんぷりしておこう。


「うわ、これオディンズのマークあるけど、オディンズで作ってもらったの?? 着心地良いわけだ」


「気に入った?? うちの会社で頼んだ言うたやんか。オカンが張り切っとったで」


 ……え? うちの会社ってゼンの所属って事じゃなくて??


「兄貴、それ今言ったらアカンやろ。凛が固まってもうてるわ」


「ゼンとゼルのお母さんって……あの人ってまさか」


「オディンズの社長やな。そんで親父が副社長な」


「嘘……俺、えっ!? 二人とも子供必要じゃん!!」


「そこかいな。心配せんでも大丈夫や。オカンの弟が会社は継ぐからなあ。それより凛くん、今の発言はずっと一緒にってくれるっちゅう事でええんよな??」


「それしか無いやろ。凛が嫌がっても、俺等からは逃げられんしなあ」


 なんか……いろいろと恥ずかしい。


「お、お風呂入ってくる!! ミーティングするって言ってたし!!」


「せやった!! 忘れとったわ。兄貴のパソコンに高花高校の動画送るようお願いしとったんや。兄貴パソコン借りんで」


「ええけど、俺も参加してええんよな?」


「いいんじゃない? 先生何も言ってなかったし。ビデオ通話にするって言ってたから、ゼンが居るのも分かってるでしょ」


 俺達はさっさとお風呂入って、先生の方に電話を繋げた。


「遅かったな。動画は見たか?」


 画面を見ると、みんなジャージ姿で布団の上に集まっていて、なんか楽しそうだった。


「悪いな監督サン!! 帰ってすぐに風呂入ったんやけどなあ、お待たせしたようで」


 俺の後ろから抱きつくように顔を出すゼンに、先生とみんなは驚いていた。


「そんな驚かんでもええやん。俺がるんは当たり前やろ?? それともなんや?? 俺がったら迷惑かいな」


「いや、そんな事は無いが……」


「ゼン、先生いじめるなよ。 一緒に混ざるなら、大人しくしてて」


「凛くんに言われたらしゃーないな。明日も応援行くんやし、勝ってもらわんとなあ」


 うわっ……みんなにプレッシャー与えて喜んでる。


「センセ、今凛と一緒に動画見とるとこなんやけど、そっちでは何話してたん??」


「あ、あぁ……向井、メモ取ってたよな?」


「はぁ……こっちでの話は、当たり前だけど2番の崎紫乃、こいつはセッターとしてずば抜けてて、ブロックを振り回すのが得意。1番の仙田せんだと3番の竜胆りんどうは、どちらも後衛だろうと攻撃に入ってくる。それとMBミドルの5番、陣内じんないが前衛にくると、ブロックが厚くなって、センターも多めに使ってくるようになる。正直、崎にブロックを振り回されたら、こっちは打たれて放題になると思う」


 おー、このセッター確かに上手いな。愁さん程ではないのは当たり前だけど、センターで速攻よりも、1番3番の前衛と後衛での使い方が上手いのか。


「うちみたいな、リードブロックやったら関係ないんとちゃう??」


「だとしても、こっちのブロックは薄くなると思う。崎はどこにあげるのか全く読めないし、トスを上げる前に少しでも動くと、その逆をついてくる」


 でもなあ。やっぱり愁さん程ではない。全く読めないって言うのは、あの人の事を言うんだ。それに比べれば、分かりやすい方だと思うな。ちょっと分かりづらいのは、1番と3番が同時にレフトから打ちに来る時だな。前衛か後衛かが読みづらい……けど拾えない訳ではないな。


「おーい凛!! 話聞いとった??」


「凛くん凄い集中力やな。眼鏡持ってきたから、つけとき」


「ごめん、聞いてなかった。ゼンもありがとう」


「うわ!! 凛の眼鏡姿だ~、圭人見てみなよ~」


「静流、俺を巻き込まないでくれ!!」


 あっちでワチャワチャしてるようにしか見えないけど、何話してたんだろ。


「凛はなんかある??」


「んー、じゃあゼルに課題を出します。このセッターは、愁さんよりも全然読みやすいんだけど、俺がこの人の癖を教えるから、本番でちゃんと見えるかはゼル次第だ。ちゃんと見えたら、ゼルが他の2人に指示だして、ブロックの要になってほしいかな。でもちゃんとリードブロックね。これは余裕を作る為だけだから。あと後衛からの攻撃は、俺の居る方をあけて欲しいんだ」


「凛くんは相変わらず、よう見えとるな。確かに、愁よりはまだ雑やな。本人も分かっとるんやろうけど」


 そう言ってゼンは、俺の頭をグリグリと撫でてくるが、敢えて放っておくと、みんな何とも言えない表情でこっちを見ていた。


「俺にそれを言うっちゅう事は、俺でも見えるんやろ? ならやったる!!」


「じゃあゼルには、後で教えるからお願い。あとは攻撃とか、試合の組み立ては、向井さんとみんなに任せます。先生、俺からはお終いだけど……」


「じゃあ最後にオーダー出すぞ。明日のスターティングは向井、ゼル、トシ、静流、山田、圭人だ」


 先生が出したオーダーは、向井さんがサーブ位置からの、左回り順でのものになる。そうなるとゼルが最初に、セッターを観察する時間がないが、俺はそれでいいと思った。


「ゼル、ベンチからよく見ててね。これが見えたら、きっとやりやすくなる筈だから」


「ゼルばっかええなあ。俺も凛くんと公式戦出たいわ」


「これが弟の特権や!! 暫くは我慢しとき」


 二人はまたつまらない事で揉め始めたので、俺はみんなに言って通話を切り、一人で動画を見直して、明日の試合にのぞんだ。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

転生したら激レアな龍人になりました

BL / 完結 24h.ポイント:355pt お気に入り:3,014

レティシア公爵令嬢は誰の手を取るのか

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:227pt お気に入り:40

垂れ耳兎スピンオフ

BL / 完結 24h.ポイント:220pt お気に入り:196

【短編】王子の婚約者なんてお断り

恋愛 / 完結 24h.ポイント:220pt お気に入り:592

当て馬にも、ワンチャンあってしかるべき!

BL / 完結 24h.ポイント:447pt お気に入り:2,405

処理中です...