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第二章 新しい生活
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しおりを挟む初日の試合が全部終わり、みんなは宿に行って、俺とゼルはゼンと待ち合わせをして、帰る事になった。
「ゼン、お疲れ様。試合どうだった?」
「勝ち!! あと一試合勝っとったら1位やったんやけどなあ。ゼル、そっちは勝ったんやろ?? 凛くん無しでどうやった??」
「ストレートだけど、ギリギリやったわ。それに凛がなあ……やっぱ早めに作っとかんと」
作る? 何の事だ??
「あー、それなんやけど、多分今日届いとった筈やで。ゼルの部屋に置いてあるんやないか?」
「俺だけ、全然話が読めないんだけど」
帰ってみると、ゼルが自分の部屋から大きい段ボールを二つ持ってきた。そして開けてみて驚いた。
「なにこれ……しかも長袖と半袖?」
「凛が俺等のもんだって、一目で分かるもんつけてもええって言うたやんか」
「そそ!! せやから、写真撮ってちょいといじったデザインを、俺等で考えてうちの会社に、作ってくれって頼んだんや。よう出来とるやん!!」
まさかのスポーツTシャツとトレーナーに、あの時めちゃくちゃ撮られた写真が、良い感じにプリントされていた。
「凛くん着てみて!! これとこれ!!」
「俺等のはこっちか?? おー!! ええ感じやんか!!」
いや待て!! 二人も着るのかよ!! というか、そっちのはシルエットになっててズルい!! 俺のはお洒落にはなってるけど、二人の追っかけみたいじゃんか!!
「俺もそっちがいい」
「ダーメ。凛くんはこっちやないと、虫除け出来んやろ。俺のグッズ事態、出とらんから安心して着てええで。俺が写っとるってだけで、バレー馬鹿以外は近寄らんしな」
それは嬉しいけど……ゼンもゼルと一緒で、ファンになんかしたのか? いや、知りたくない。知らんぷりしておこう。
「うわ、これオディンズのマークあるけど、オディンズで作ってもらったの?? 着心地良いわけだ」
「気に入った?? うちの会社で頼んだ言うたやんか。オカンが張り切っとったで」
……え? うちの会社ってゼンの所属って事じゃなくて??
「兄貴、それ今言ったらアカンやろ。凛が固まってもうてるわ」
「ゼンとゼルのお母さんって……あの人ってまさか」
「オディンズの社長やな。そんで親父が副社長な」
「嘘……俺、えっ!? 二人とも子供必要じゃん!!」
「そこかいな。心配せんでも大丈夫や。オカンの弟が会社は継ぐからなあ。それより凛くん、今の発言はずっと一緒に居ってくれるっちゅう事でええんよな??」
「それしか無いやろ。凛が嫌がっても、俺等からは逃げられんしなあ」
なんか……いろいろと恥ずかしい。
「お、お風呂入ってくる!! ミーティングするって言ってたし!!」
「せやった!! 忘れとったわ。兄貴のパソコンに高花高校の動画送るようお願いしとったんや。兄貴パソコン借りんで」
「ええけど、俺も参加してええんよな?」
「いいんじゃない? 先生何も言ってなかったし。ビデオ通話にするって言ってたから、ゼンが居るのも分かってるでしょ」
俺達はさっさとお風呂入って、先生の方に電話を繋げた。
「遅かったな。動画は見たか?」
画面を見ると、みんなジャージ姿で布団の上に集まっていて、なんか楽しそうだった。
「悪いな監督サン!! 帰ってすぐに風呂入ったんやけどなあ、お待たせしたようで」
俺の後ろから抱きつくように顔を出すゼンに、先生とみんなは驚いていた。
「そんな驚かんでもええやん。俺が居るんは当たり前やろ?? それともなんや?? 俺が居ったら迷惑かいな」
「いや、そんな事は無いが……」
「ゼン、先生いじめるなよ。 一緒に混ざるなら、大人しくしてて」
「凛くんに言われたらしゃーないな。明日も応援行くんやし、勝ってもらわんとなあ」
うわっ……みんなにプレッシャー与えて喜んでる。
「センセ、今凛と一緒に動画見とるとこなんやけど、そっちでは何話してたん??」
「あ、あぁ……向井、メモ取ってたよな?」
「はぁ……こっちでの話は、当たり前だけど2番の崎紫乃、こいつはセッターとしてずば抜けてて、ブロックを振り回すのが得意。1番の仙田と3番の竜胆は、どちらも後衛だろうと攻撃に入ってくる。それとMBの5番、陣内が前衛にくると、ブロックが厚くなって、センターも多めに使ってくるようになる。正直、崎にブロックを振り回されたら、こっちは打たれて放題になると思う」
おー、このセッター確かに上手いな。愁さん程ではないのは当たり前だけど、センターで速攻よりも、1番3番の前衛と後衛での使い方が上手いのか。
「うちみたいな、リードブロックやったら関係ないんとちゃう??」
「だとしても、こっちのブロックは薄くなると思う。崎はどこにあげるのか全く読めないし、トスを上げる前に少しでも動くと、その逆をついてくる」
でもなあ。やっぱり愁さん程ではない。全く読めないって言うのは、あの人の事を言うんだ。それに比べれば、分かりやすい方だと思うな。ちょっと分かりづらいのは、1番と3番が同時にレフトから打ちに来る時だな。前衛か後衛かが読みづらい……けど拾えない訳ではないな。
「おーい凛!! 話聞いとった??」
「凛くん凄い集中力やな。眼鏡持ってきたから、つけとき」
「ごめん、聞いてなかった。ゼンもありがとう」
「うわ!! 凛の眼鏡姿だ~、圭人見てみなよ~」
「静流、俺を巻き込まないでくれ!!」
あっちでワチャワチャしてるようにしか見えないけど、何話してたんだろ。
「凛はなんかある??」
「んー、じゃあゼルに課題を出します。このセッターは、愁さんよりも全然読みやすいんだけど、俺がこの人の癖を教えるから、本番でちゃんと見えるかはゼル次第だ。ちゃんと見えたら、ゼルが他の2人に指示だして、ブロックの要になってほしいかな。でもちゃんとリードブロックね。これは余裕を作る為だけだから。あと後衛からの攻撃は、俺の居る方をあけて欲しいんだ」
「凛くんは相変わらず、よう見えとるな。確かに、愁よりはまだ雑やな。本人も分かっとるんやろうけど」
そう言ってゼンは、俺の頭をグリグリと撫でてくるが、敢えて放っておくと、みんな何とも言えない表情でこっちを見ていた。
「俺にそれを言うっちゅう事は、俺でも見えるんやろ? ならやったる!!」
「じゃあゼルには、後で教えるからお願い。あとは攻撃とか、試合の組み立ては、向井さんとみんなに任せます。先生、俺からはお終いだけど……」
「じゃあ最後にオーダー出すぞ。明日のスターティングは向井、ゼル、トシ、静流、山田、圭人だ」
先生が出したオーダーは、向井さんがサーブ位置からの、左回り順でのものになる。そうなるとゼルが最初に、セッターを観察する時間がないが、俺はそれでいいと思った。
「ゼル、ベンチからよく見ててね。これが見えたら、きっとやりやすくなる筈だから」
「ゼルばっかええなあ。俺も凛くんと公式戦出たいわ」
「これが弟の特権や!! 暫くは我慢しとき」
二人はまたつまらない事で揉め始めたので、俺はみんなに言って通話を切り、一人で動画を見直して、明日の試合にのぞんだ。
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