100 / 109
第二章
29.小悪魔
しおりを挟む数日後の夜、ディディの闇が漸く収まったところで、空島の移動を始めた。
空島の移動には、ロウとスイを含めた精霊達が協力してくれ、ギンとアスルも地上への被害が出ないように、シアくんとショウくんとノエルと協力して、結界を何重にも張っている。
「動いてる! 凄い凄い! ディディ、凄いよ! 見て見て見て!」
「見えてるから、ユユは落ち着こうね。可愛いけど、興奮してどこかにゲートを繋げそうで怖いから」
「嬉しいのも楽しいのも分かったから、そろそろ落ち着かねーと、家の中で拘束───」
「おとなしく見てる! だから、今は拘束しないで」
獣化して走り回っていた僕は、獣人の姿に戻ってディディの服を引っ張り、二人がピッタリくっつくように座らせてから、僕はディディの膝の上に座った。
ディディの服を自分の膝の上に乗せ、ぬいぐるみを抱きしめると、急にディディに抱きしめられる。
「か、可愛いッ! ユユ、なんでそんなに可愛いの」
「俺達で巣作りみてーなことしてんのは、可愛すぎる」
「これが一番落ち着くの。ディディ、もっと抱きしめて」
ディディに甘えておねだりすると、僕を抱きしめるディディの腕に力が入り、耳や頬にキスをされる。
みんなが頑張ってくれているなか、ディディに甘えて毛繕いまでしてもらい、甘えたい気持ちが加速してしまった僕は、自ら家の中に入ってディディを誘い、口づけだけでグズグスに快楽に溺れてしまった。
「でぃでぃ……なんでしてくれないの」
「今は駄目。いつ着くか分からないし、俺達も止まらなくなっちゃうから」
「ただでさえ、ユユの色気がすげーのに、そんなにねだられたら止められねーわ」
うぅ……どうしたらディディがその気になってくれる? いっぱい誘っても駄目で、巣作りしても駄目で……もっと魅力的にならないと。
もっともっと……ディディが僕に夢中になれるくらいの癒し。
その瞬間、癒力とともに熱を持った淡い光がブワリと広がり、ディディの闇も広がって、僕を見つめるディディの目がギラリと光った。
「ッユユ……あぁ、可愛い。いい匂い。愛してる……愛してる、あいしてる、アイシテル───」
「もっとちょーだい。この匂い、最高……ユユの匂い。もっと、もっと、もっと───」
ディディは僕が求めた以上に、狂ったように僕を抱き、外が騒がしくなって、ギンが呼びに来ても終わらず、子作りでもしているかのような感覚になった。
それから更に何日経ったか分からないが、ディディに解放された時には、既に移動が終わっていた。
「───いや、本当にごめん。まさか、ひと月もの間、ずっと夜になってたとは思わなかった。でも、ものすごい幸せでやめられなかった」
「こればっかりは反省してっけど、ユユも幸せそうで、俺達も幸せすぎて……正直、すっげー満足」
「ごめんなさい。僕が誘ったの。ロウ、みんな……怒るなら僕だけにしてほしい」
僕達が家から出ると、ロウがすぐにやって来て、どういった状況だったかを説明してくれた。
ひと月もの間、夜が続いて闇が広がり、月だけでは癒しが足りなくなっていたようだ。
しかし、そこで僕の癒しを求め始めた人達には、王様達や神官達が聖獣の怒りだと言ったようで、壊されないだけマシだろうと伝えていたらしい。
ディディが怒っていた事は間違いではないため、ある意味、安定という刺激のない状況を壊した事になり、新たな欲や刺激を求めていた人々は、聖獣の警告だと捉えたようだ。
「怒る必要はないだろう? こういったものも大事だ。平和すぎて、いい事ばかりでは世界が育たないだろう。隠と陽のバランスが大事で、これである程度バランスが良くなったのではないか?」
なるほど……ロウはいつでも、世界のことを考えてるんだね。
確かに全体で見てみると、ちょうど良かったのかな。
「そう思うと俺達の存在って、厄災以外でも必要なのか。つーか、月だけじゃなくて闇も大事なんじゃね?」
「だろうね。闇とか厄災とかって、悪いイメージだけど、それも必要なら平和を維持するより、たまには悪役にまわってみてもいいかもね」
争いが起こる前に、バランスをとるってことだよね。
それなら、僕も協力できる! 癒したいけど、月だけでどうにかなるなら、この場所に来てくれたら癒すようにしたらいいもんね。
それに、ディディの手助けをできるなら、癒しだって我慢するよ! 同じ聖獣なのに、厄災の方をディディにばっかり押し付けたくはないし、なによりディディと一緒がいい!
「僕も、ディディと悪役なる!」
「ユユが悪役?……小悪魔の間違いじゃない?」
「ユユにされる事なら、なんでも許せそうだけどな。理不尽だろうと、ユユだから仕方ねーってなりそう」
ふふん、僕だってやればできるもん! ディディと一緒ならなんでもできるんだ!
「……なんか嫌な予感するの俺だけ? ユユがやらかしそう」
「つーか、神々の変な念が……まあいいか」
「む? 主よ、大丈夫だ。我がユユを見守っている。安心するといい」
ディディは僕の頭を撫でながら、なぜか苦笑いでロウに目を向けていて、ロウは空を見上げながら尻尾を揺らし、自信満々な様子を森神様に見せつけるように胸を張っていた。
11
お気に入りに追加
1,055
あなたにおすすめの小説

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)

アルファな俺が最推しを救う話〜どうして俺が受けなんだ?!〜
車不
BL
5歳の誕生日に階段から落ちて頭を打った主人公は、自身がオメガバースの世界を舞台にしたBLゲームに転生したことに気づく。「よりにもよってレオンハルトに転生なんて…悪役じゃねぇか!!待てよ、もしかしたらゲームで死んだ最推しの異母兄を助けられるかもしれない…」これは第二の性により人々の人生や生活が左右される世界に疑問を持った主人公が、最推しの死を阻止するために奮闘する物語である。

僕だけの番
五珠 izumi
BL
人族、魔人族、獣人族が住む世界。
その中の獣人族にだけ存在する番。
でも、番には滅多に出会うことはないと言われていた。
僕は鳥の獣人で、いつの日か番に出会うことを夢見ていた。だから、これまで誰も好きにならず恋もしてこなかった。
それほどまでに求めていた番に、バイト中めぐり逢えたんだけれど。
出会った番は同性で『番』を認知できない人族だった。
そのうえ、彼には恋人もいて……。
後半、少し百合要素も含みます。苦手な方はお気をつけ下さい。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜のたまにシリアス
・話の流れが遅い

義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!
ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。
「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」
なんだか義兄の様子がおかしいのですが…?
このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ!
ファンタジーラブコメBLです。
平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります♡
【登場人物】
攻→ヴィルヘルム
完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが…
受→レイナード
和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。

買われた悪役令息は攻略対象に異常なくらい愛でられてます
瑳来
BL
元は純日本人の俺は不慮な事故にあい死んでしまった。そんな俺の第2の人生は死ぬ前に姉がやっていた乙女ゲームの悪役令息だった。悪役令息の役割を全うしていた俺はついに天罰がくらい捕らえられて人身売買のオークションに出品されていた。
そこで俺を落札したのは俺を破滅へと追い込んだ王家の第1王子でありゲームの攻略対象だった。
そんな落ちぶれた俺と俺を買った何考えてるかわかんない王子との生活がはじまった。

嫁側男子になんかなりたくない! 絶対に女性のお嫁さんを貰ってみせる!!
棚から現ナマ
BL
リュールが転生した世界は女性が少なく男性同士の結婚が当たりまえ。そのうえ全ての人間には魔力があり、魔力量が少ないと嫁側男子にされてしまう。10歳の誕生日に魔力検査をすると魔力量はレベル3。滅茶苦茶少ない! このままでは嫁側男子にされてしまう。家出してでも嫁側男子になんかなりたくない。それなのにリュールは公爵家の息子だから第2王子のお茶会に婚約者候補として呼ばれてしまう……どうする俺! 魔力量が少ないけど女性と結婚したいと頑張るリュールと、リュールが好きすぎて自分の婚約者にどうしてもしたい第1王子と第2王子のお話。頑張って長編予定。他にも投稿しています。
【完結】悪役令息の従者に転職しました
*
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。
依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。
皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ!
本編完結しました!
『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく、舞踏会編、はじめましたー!
他のお話を読まなくても大丈夫なようにお書きするので、気軽に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる