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第二章
20.闇ディディ
しおりを挟む話に一区切りがついたところで解散し、僕達は精霊の森に向かった。
精霊の森へ行けば、弱った精霊達はすぐに僕にくっついてくるが、僕が獣化しているため全員が僕にくっつけるほどの場所がなく、喧嘩をしているのかバチバチという音が響く。
「すっげーバチバチしてんじゃん。痛くねーけど、音は痛そうだよな」
「ユユ、どこで癒すの? 幻影が使えるくらい回復するまでは、光の玉に戻っても、ユユの癒しバッグに全員は入りきらないでしょ?」
「神殿で癒そうと思ってるの」
森神様に会えたりしないかな? 森神様に新しい僕達を見てほしい!
僕はバチバチ音とともに、尻尾を振って森の中を歩き、たまに寄り道で蝶を追いかけたり、獣化してくれたディディと遊びながら、神殿まで向かった。
「ハッハッ……ぼ、僕が一番───ッ」
誰が一番最初に神殿に着くか競走をしていたが、突然頭上を通った大きな狼に先を越された。
「ぬ? 皆で何をそんなに急いでいる」
「ううぅ~……ロウ! せっかく僕が一番だったのに!」
「すまない? よく分からんが、ユユは怒っていても可愛いな。それに、ディオとディアまで獣化しているではないか」
僕はロウに向かって吠えるが、ロウの肉球で踏み潰されない程度にポンポンと撫でられ、ディディは不満そうにすぐに元の姿に戻って闇を作った。
「ユユが怒ってるのは可愛いけど、せっかく一番になれたのにかわいそう」
「精霊王のせいだな。まあ、俺達としては喜んでても怒ってても、可愛いユユが見れたからいいけどな」
ぐうぅ……ディディが喜んでる。
僕が怒ってもディディは喜ぶけど、僕は嬉しくないのに……ディディが喜んでるだけで、少しずつ嬉しくなっちゃう。
「ディディ……僕、嬉しくない」
「うーん、そうだね。ユユは嬉しくなかったね。おいで、ユユ」
「精霊王は参加してなかったんだし、ユユが一番なんじゃねーの。嬉しくねーなら、こっちに来て落ち着けば?」
ディディに呼んでもらえる誘惑によって、ディディの方へ一歩前に出るが、僕はその誘惑に抗うように、ロウの方を向いてディディには背を向けてみた。
これはただの我儘で、僕が嬉しくない時に喜んでいるディディに、僕にとっては不満で、怒っているのだと言いたくなったのだ。
しかし、その行動が良くなかった。
「ユユ……おいでって言ったよね? なに、ユユは俺達より精霊王がいいの? そんなの許さないよ。ユユは俺達のツガイで、ユユは聖獣として欠けたら駄目なんだよ。分かるよね?」
「ユユ、まさか今更俺達から離れるつもりじゃねーよな? ユユがその気なら、こっちだって考えがあるよ。精霊王の前で、ユユが俺達のものだって見せつけてもいい」
「キュッ……ご、ごめんなさ───」
振り向いて、ディディに謝ろうとしたその時だった。
僕の足に絡みついてくる濃い闇によって、僕は引っ張られて空中に投げ出されると、ディオの腕の中にすっぽり入ってしまい、ディアには初めて見る首輪をつけられ、それから久しぶりにディディの服で包まれた。
「ユユの首輪、可愛いね。謝ったって事は、精霊王のところに行こうとしたって事でしょ? 駄目だよ。ユユはどこにも行かせない」
「この首輪、ユユが迷子になんねーように、俺達の名前が彫ってあんの。これで、ユユが俺達のもんだって、獣化してても分かんじゃん? あとは、こんなものもある」
そう言ってディアが闇の中から出したのは、鎖と手枷のようなもので、ちょうど僕の獣化した手が入りそうなサイズだった。
ど、どうしよう。
ディディの闇が濃すぎて、癒力で癒しても癒しきれない。
浄化……聖魔法かな。
でも、今のディディにバレちゃ駄目な気がする。
「ユユ、震えてるね。大丈夫だよ。俺達がいるんだから、何も怖い事なんてないでしょ? まさか、俺達を怖がってたりしないよね? こんなに優しくしてるんだもん。そんな事ないよね?」
でぃ、ディオの言ってる事……よく分からない。
怖い時はツガイでも怖いよ。
殺されそうな時とか、闇化が加速した時とか。
それでも好きなんだもん。
「そのわりには尻尾揺れてんじゃん。けど、毛は逆立ってんのな。何がそんなにこえーの? 拘束される事? 俺達の事? まさか……俺達の闇が怖かったりしねーよな? ユユは俺達の闇も愛してくれんじゃねーの」
ディアの口調が……いつもよりも強い。
好きだもん。
愛してるもん。
でも、怖いものは怖いよ! ごめんなさいって言えないの、どうしよう。
どうしたら誤解されないのかな。
「ディオ、ディア、やめてあげたらどうだ。ユユの選択肢がないだろう」
ロウは僕の為に口を挟むが、そんなロウの言葉は今のディディにとっては不快でしかないのか、闇を更に濃くして毛を逆立たせる。
それにより、ロウは精霊達を連れて遠くに避難してしまい、ギンとアスルとスイも同じく離れていく。
うぅ~……もういい! ディディが怒ってるなら、僕だって怒ってもいいと思う!
「ディディが喜んでたの嫌だったの! 僕は嬉しくないのに、ディディが喜んでた。僕だって、怒る時は怒るもん。でも、ディディのこと大好きだから、ディディが喜んでると僕も嬉しくなっちゃう。だから……ちょっとだけ意地悪。ごめんなさい」
僕の毛は逆立った後、すぐにシオシオになり、耳と尻尾を垂らして伏せながら全身で謝った。
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